忍者ブログ
作成した小説を保管・公開しているブログです。 現在は連作短編が二篇の他,短編小説,エッセイの類を掲載しています。 連作小説の更新ペースは随時。二か月に三回を最低ラインとして目指しています。
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

とおりゃんせ1
黒猫堂怪奇絵巻1 煙々羅
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る

―――――――
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ


通りゃんせ 通りゃんせ
ここはどこの 細通じゃ
天神様の 細道じゃ
ちっと通して 下しゃんせ
御用のないもの 通しゃせぬ
この子の七つの お祝いに
お札を納めに 参ります
行きはよいよい 帰りはこわい
こわいながらも
通りゃんせ 通りゃんせ

<近所の子供、しょうくんの話>
 うん。うん。そうだよ。しょうくんはいつもここであそんでるよ。
 えっとね、鬼ごっことかかくれんぼとか。みーちゃんとかカズくんとかと一緒に。うん。そう。がっこうがある子はほうかごになったら遊びに来るの。
 おかあさんはご飯のころになると下の方まで呼びに来るの。

 上って、この上? じんじゃさんがあるだけだよ。よくわかんない。おまつりとかはあっちのじんじゃさんに行くよ。ここのは大人の人も上ってるのみたことない。
 うん。しょうくんは行ったことないよ。えっと、えっとね、おかあさんとかみーちゃんが言ってたの。おかあさんはあんまり上ると帰ってくるのたいへんだからやめようねって言ってた。
 上ってる子? あ。

 ううん。なんでもない。言っちゃだめっておかあさんに言われたんだもん。しょうくんがあたまわるいこだと思われちゃうからダメって。
 おじさんだれにも言わない? しょうくんあたまわるくならない?
 うん。わかった。

 みたことあるよ。じろちゃんが上ったの。じろちゃん? たまにここにくるよ。どこの子かはしらない。……えっとね、ちょっとまえ。しょうくんよくわかんない。
 うん、じろちゃんが上までたんけんしてみるって上っていったの。いっしょ? ううん。しょうちゃんはちゃんと止めたんだよ。でもじろちゃんがおもしろそうだからっていっぱい上っていって。
 ううん。その日はそのままごはんのじかんだからかえっちゃった。じろちゃんにはあってないよ。
 え、うん。そう。じろちゃんが上ってるときだけいつもよりずーっとながかったの。あそこでまがってるのに、じろちゃんはずっとまっすぐ上っていったんだよ? おじさんしんじてくれる?


「はっ」
 気合いの入った掛け声とともに、秋山の身体は宙に浮き、道場の畳へと投げ出された。間一髪のところで仕込んでいた呪符をばら撒き、床へとぶつかる勢いを殺す。しかし、それでもなお衝撃で息が詰まり思わず集中を解いてしまう。途端に呪符の効力を維持できなくなり、秋山の身体は更に数センチ下、畳の上にうつぶせに落ちた。
「痛い」
 なんとか上半身を起こして秋山は目の前の相手、片岡長正を睨みつけた。しかし、当の長正は悪びれる様子もなく、胴着の乱れを直している。
「長正、腕に何か付けているでしょう」
「はい。ちょっとした呪物を」
 胴着の腕をめくると、そこには虎の怪異にまつわる事件の際に鷲家口ちせが利用していた籠手が眼に入った。
「その籠手……もしかして封印ができるのか」
「ええ。そのようですね。先日研究所を訪れた時にちせさんが使ってみないかと勧めてくれたものですから。籠手が接した相手の変異性災害を一時的に妨害する効果があるとか。ところで、そういう秋山さんも呪符を使っていたのではないですか」
 長正の眼が冷たい。秋山がさきほど長正に向けて繰り出した飛び蹴りは、確かに呪符を利用して加速をかけたものである。あのままいけば一撃で長正を伸せたはずなのだが、呪符の力を奪われ、蹴りの勢いをそのまま受け流されたために、秋山の身体は先のように強くたたきつけられたのだろう。
「わかっているなら手加減してくれてもいいと思うんだけどな」
「手加減なしで手合わせしてほしいと言ったのは誰でしたっけ」
「それは言葉のあやって奴であって」
「では手加減をしましょうか」
 そう言うと長正は両腕の籠手を外して床に置いた。呪術の妨害さえなければさきほどのような攻撃が成功する確率はあがるだろう。秋山は身体を起こし懐に入れた呪符の束に手をかけた。
 格闘戦を得意としない秋山は護身のために呪符を使う。呪符を利用した呪術によって身を守るこのやり方は、実家にいる頃に姉から教わったものだ。姉が教えてくれたそれはもっと簡易的で応用の利かないものであったが、今では自分なりに改良を加え、幅広く応用のきく術として構築しているつもりである。
 秋山は目の前の長正の動きを注視しつつ、意識を指先の呪符に集中し、呪符の展開を思い描く。事前に呪符に描いておいた構図を指でなぞり、自らの霊気を呪符に伝えていく。純粋に呪術に頼った戦術は、行動の前に全てが決まる。相手の動きを読み、抜け目なく術を構築することこそが、生存のための必須事項だ。
 こちらの霊気の変化を読みとったのであろう、突如長正が踏み込んでくる。秋山は長政の一撃目を避けて素早く数歩後退する。それと共に三枚の呪符を取り出して宙へと放る。呪符は秋山の前で一度円を描いたかと思うと、槍のように鋭く変化し、長正へと飛んでいく。
 長正がそれらの呪符を撃ち落としている間に、更に四枚の呪符を取り出し、目の前で手を放す。呪符は秋山の四肢へと張りつき、増幅した霊気を一時的に秋山に注ぎ込む。身体を巡る霊気の流れを利用して、秋山は再び一瞬の加速を得る。今度は正面ではなく、長正の左横をすり抜け、彼の背中に向けて回し蹴りをたたきこむつもりだった。
「うわっ」
 しかし、長正の隣をすり抜けようとする直前、彼は左腕を大きく振るった。秋山は慌ててそれを避けるために、2メートルほど後方へと飛びのけてしまう。着地の段階で四肢の札が光を失い、秋山に与えられた霊気の加護が消滅した。
 数十秒後、畳の上に倒れていたのはまたしても秋山であった。
「手加減しましたよ? 秋山さん」
「わかりました。参りました。今度から呪符は使いません」
「では、今後も定期的に手合わせと稽古の時間を取ることにしましょう。とりあえず、今日はこの辺で終わりましょうか。今日は社務所の方にも来客があるということですから」

*******

 巻目市は、そのほとんどが平坦な土地に広がっている市である。しかし、市の中心外から数キロ南方へ下ると、街の一部が山の麓に喰いこんでいる風景が見られる。巻目市の歴史を紐解くと、風見山と呼ばれるその山の開発は古くから行われていたらしく、かつては巻目の中心区画であったという。そのためか、斜面に建てられた家の中にも年数を重ねた古いものがちらほらとあるし、また車の通れない幅の狭い生活道路が迷路のように張り巡らされている個所もある。
 手元に広げた地図によると、目的地である七鳴神社はそうした迷路のような生活道路を抜けた場所にあるらしいのだが、先ほどから一向にその姿がみえることがない。それどころか、自分が何処にいるのかですら自信がない。こんなことであれば、初めから遠回りを覚悟して、車で来るべきだった。夜宮沙耶は山に入る前の自分の選択に後悔を覚えた。
「おねえちゃんどうかしたの?」
 肩を落としていると、どこからやって来たのか目の前に小さな男の子が現れた。見た目からすると小学校に入るか入らないかといったところだろうか。この辺りに住んでいる子なのだろう。くりくりとした目に興味をたっぷり貯め込んだような視線で夜宮の方を見つめていた。
「道に迷っちゃって」
「おねえちゃんまいごなの?」
「まあ、そんなところかな。君、この辺にある神社のこと知らないかな」
 ダメもとで尋ねてみると、男の子は首を傾げて暫く考え込んでいた。
「クロクロさんのいるところ?」
「クロクロさん? えっと、七鳴神社って言って……こういう神社なんだけど」
 彼の言うクロクロさんと同じ場所であれば案内してもらえるかもしれない。そう思って、手元の資料に添えられた七鳴神社の写真を見せた。
「あ、上のじんじゃさんだ。ぼくわかるよ!こっち」
 男の子が横の石段を駆けあがっていくのを追いかけると、先ほど通った路地に出てきた。男の子は夜宮が歩いてきた方向へと路地を駆けて行き、初めの曲がり角で上の方を指差した。
「このさかをあるいていくと、上のじんじゃさんにつくんだよ!」
 夜宮は男の子のところまで駆けよって、現在位置と地図を確認した。どうやら曲がり角を一つ見落としてしまっていたのが迷った原因だったらしい。
「ありがとう。助かったわ」
「よかった! じゃあ、しょうくんおひるごはんのじかんだからかえるね」
 しょうくんと名乗った男の子はそう言って町の中へと走っていってしまった。腕時計を確認すると確かにもう昼時である。予定ではもうそろそろ七鳴神社についていなければいけない時間だ。夜宮は慌てて坂道を駆けあがった。

*******

 長正に連れられて、社務所の奥に入ると、四人がけのテーブルに昼食の蕎麦が四人分、並べられているところだった。
「あら、稽古は終わり?」
 台所に立っていた女性が秋山達の姿を見かけて声をかけた。片岡夏樹、長正の妻である。
「先ほど終わったところですよ」
「どう? 恭輔君は筋が良いの?」
「どうでしょうね。まずはズルをするのを止めるところからですかね」
「あらあら。確かに恭輔君は体術というよりは祈祷やお祓いの方が得意かもしれないわね」
 片岡夫妻の掛け合いに、秋山は思わず肩をすくめた。そんな彼の様子を見て、長正と夏樹は顔を見合わせて笑い合う。
「夏樹、もう一人のお客さんはまだ来ていないのか」
「そろそろ到着すると思うんですけどね、もしかしたら迷っているのかも」
 長正が神社の下まで迎えに出ようかなどと話していると、社務所の玄関先から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「どうやらお客さまの到着ね」
 夏樹がエプロンを外して、玄関へと駆けていく。長正は夏樹のその様子を横目に、彼女が置いていったエプロンを付け、昼食の準備の続きを始めた。
「夏樹さん、相変わらず元気ですね」
「おかげで、こんな神社でも明るく生活できていますよ。それより、秋山さんも手伝ってください。ほら、この料理を並べて」
 長正と二人で昼食の準備の残りをあらかた済ませていると、夏樹が客を連れて部屋へと戻ってきた。ビジネスバッグにスーツを着て夏樹の後ろを付いてくるその姿は、秋山がとても良く見慣れた人物である。
「あれ? 長正さんに、秋山君……どうしてここに?」
「どうしてもこうしても、七鳴神社は長正の実家だよ、夜宮さん」
 夜宮沙耶は、秋山の言葉に目を丸くして、夏樹と長正、そして秋山の姿を何度も見比べた。

*******

<手記1>
 しょうと名乗る少年の話以外にも、町をめぐってそれとなく話を聞いてみたが、あまり芳しくない結果である。どうにも、この町には神隠しの噂があるようなところまでは掴めるのだが、その先がてんでわからない。
 私は、車通りの多い大通りへと出て、目についた茶屋の暖簾をくぐった。長々と歩き続けたため脚に疲労が溜まっている。席について注文をすると途端に身体が重くなるような気がした。
「この辺じゃあまり見かけない顔だけれど、何処かに用事かい?」
 店の人に尋ねられ、ちょっとした取材でと言葉を濁す。いっそ、神隠しの事を尋ねてみるべきかとも思ったが、大通りに出てからというもの、そういった話を人に尋ねることが何処か憚られるような気分になっていた。いや、寧ろあの路地裏を歩きまわっている時は、誰かれ構わずそのことを尋ねてみようと思えていたことが奇妙だったのかもしれない。
 神隠し、そのような馬鹿げた話はあるわけがないし、ましてやあのような噂など、真実であるとは到底思えない。
「その様子だと、路地裏を相当歩いたようですね」
 わかりますか。と返せば、あの辺りは道が相当に入り組んでいて生活している人間以外はあっという間に迷子になってしまうと返ってくる。ちょっと、時間が止まっているんですよ、そう言ってテーブルに緑茶と羊羹を差し出すこの店も、何処か時間が止まっているように私には思えた。
 試しに腕に付けた時計を眺めてみる。文字盤はきちんと時を刻んでいた。私はほっと胸をなでおろすと同時に、何処か寂しい気持ちになった。どんな場所であっても時間は止まってはくれないのだ。

―――――――
次回 黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ1

・今後の予定
近日中に輪入道の話のラフテキスト及びドッペルゲンガーのパラドックスの続きはあげられそうな予感。
とはいえ、ちょっと忙しいので更新を滞らせてしまいそうな気も。
PR
comments
yourname ()
title ()
website ()
message

pass ()
| 33 | 32 | 31 | 30 | 28 | 27 | 26 | 25 | 23 | 22 | 21 |
| prev | top | next |
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
プロフィール
HN:
若草八雲
年齢:
37
性別:
非公開
誕生日:
1986/09/15
職業:
××××
趣味:
読書とか創作とか
自己紹介:
色んなところで見かける人もいるかもしれませんがあまり気にせず。
ブログとか作ってみたけれど続くかどうかがわからないので、暇な人だけ見ればいいような。
バーコード
ブログ内検索
P R
最新CM
[03/01 御拗小太郎]
[01/25 NONAME]
最新TB
Design by Lenny
忍者ブログ [PR]