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作成した小説を保管・公開しているブログです。 現在は連作短編が二篇の他,短編小説,エッセイの類を掲載しています。 連作小説の更新ペースは随時。二か月に三回を最低ラインとして目指しています。
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ラフテキスト 呪絵
<いわゆる備忘録>

ある朝、家族の描いた絵に殺される夢を見た。
という話を聞いて、そこから物語を作ってみようという話をしていたことをふと思い出しました。

特にプロットを考えたわけではないので、ラフテキストとして冒頭の部分だけを残しておこうと思います。

現状のイメージとしては、
年内に5万字程度の短編として完成させられればいいかなと思っています。

タイトルは【呪絵】。読み方は「のろいのえ」「まじないのえ」のどちらにしようかなあと迷っているところですが、編集時に自分で読んでいる時はノロイエの話と呼んでいます。

どうでもいいことですが、全く用事のない時より用事のある時の方が小説の場面が思い浮かぶのは、頭が回転しているからなのか、頭を回転させるために必要な通過儀礼なのか、はたまた現実逃避のための一手なのか、毎度のことながらそのようなことを自問自答しています。

ところで、用途に合わせて文章における読点をコンマにするか読点にするか使い分けているのですが、前の設定を引き継いでいる事を忘れているためにコンマにしたいところを読点のまま書き続けたり、読点にしたいところをコンマにして書き続けたりしてしまうことがあります。こういうものを直すにつけて、編集の作業って言うのは小さなことからはじまるものなのだろうなあと思ったりするところです。

以下、ラフテキスト本文です
―――――――――――――――――
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こびとの楽隊
発掘したテキスト。プロットだけなら何かに使えるかも

――――――

楽隊は意識の淵からやってくる。そして、意識の淵へと還っていく。

トタタン トタン トタタタン

今夜も彼らは私の部屋へとやってくる
彼らはとても遠いところからやってくる。天井裏に到着すると、縁に沿って一列に並ぶ。
ベッドで眠る私には、どういうわけか天井裏のその様子が視えてしまう。どんなに早く寝ようとも、どんなに遅く寝ようとも、私の眼は彼等の訪れを逃すことがない。
縁に沿って並んだ楽隊は、抱えた楽器を一度振り上げる。そして決まってベッドにいる私を見つめる。もっとも、彼らには顔がない。のっぺりとした丸いものが何人も何人も、私の顔を覗きこんでいる。
私の表情がこわばると、軍楽隊の帽子を被った奴が天井裏の中心へとある歩いていく。彼はいつもトテトテと奇妙な足音を立てながら、自分よりも遥かに長い指揮棒を引きずっている。どうしてそんなに長い棒が必要なのか、その理由はよくわからない。
彼は中央に立つと、四方に並んだ自らの楽隊を眺めまわす。そして、指揮棒を宙へと放り投げる。宙に待った指揮棒は、四隅に並ぶ楽隊にきっちり四回打ち貫かれ、八本の指揮棒へと姿を変える。いつのまにか指揮者も四人に増えており、各自二本の指揮棒を捕まえる。
それを合図に楽隊はピンと背筋を伸ばして整列する。

トタタン トタン トタタタン

四人の指揮者が奇妙な足音をたて、今宵の演奏の始まりを告げる。

深夜の楽隊は軽快に音楽を奏でながら天井裏を闊歩する。
向かい合う辺に立つ楽隊が音楽に合わせて前進し、出会ったところで互いに会釈をしながら、くるりと一回転をする。そして、更に前進、向かい側の辺に辿りつくと再度回転し、再び辺の上で演奏を続ける。
そんなやりとりを続けているかと思えば、数名ごとにふらふらと天井へと足を踏み出し、三人一組の輪を作り、まるで舞踏会のようなパフォーマンスを始める。
こうして毎夜毎夜、私の意思とは全く関係なく楽隊は盛り上がりを増していく。彼らの奔放なパフォーマンスが最高潮に達すると、指揮者たちが、再びあのリズムで足踏みを始める。

トタタン トタン トタタタン トタタン トタン トタタタン

指揮者のリズムに合わせて、辺に並んだ楽隊は一列に並んで面へと入り込んでくる。彼らは渦を巻くように円を描きながら指揮者に向かって歩いていく。指揮者は楽隊を指揮しながらとどまることなく足踏みを続ける。
指揮者たちの足踏みに合わせて、彼らの足元は徐々に下へと陥没していく。次第に天井はすり鉢状に姿を変え、指揮者たちは私の部屋の床へと降り立とうと懸命に足踏みを続ける。
初めは軽快な音楽だった楽隊も、指揮者が床へと近づくほどに徐々に演奏の速度が落ちて間延びした不安を掻き立てる音を奏で始める。加えて時折、指揮者の回転に合わせて不協和音を混ぜながら、楽隊はじわりじわりと指揮者に向かって近づいていく。

私はその光景に強い不安を覚え、部屋を逃げ出そうとするが、身体はこわばり、ベッドから動くことすらできない。
指揮者たちがベッドの高さと同じところまで辿りついた所で私の顔は自然と横を向き、指揮者たちの様子を眼で追いかける。
私の方を向いている指揮者と眼が合い、全身に寒気が走る。今までは存在しなかったはずの大きな瞳に震え、指揮者の体に縦に入った割れ目から現れる舌に私の恐怖は増大する。指揮者は恐怖におびえているであろう私の顔をじっとみて、ゆっくりと舌舐めずりをする。

私は声にならない叫び声を上げる。

そうして、再び気がつくと、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。天井はすり鉢状に変形などしておらず、私の眼が天井裏を捉える事はない。身体を確認しても何処にも異常がなく、夢であった事を確認して、私は深いため息をつく。

ベッドから起き上がり、立ち上がると、パジャマから何かがこぼれおち、フローリングの床に転がった。
カタンと音を立てたモノの正体を確かめようと、私の視線は床へと向けられる。そして

私の眼は床に転がる人差し指ほどしかない指揮棒に吸い寄せられた。

鶏男の話
鶏男の話。
*******

「鶏男? ああ、F村の噂か。最近はよく聞くけど……見たことあるかって? 落ち着きなよ、あんな話を真に受けるなんて、どうかしてるんじゃないかい?」
――
「鶏男なんて言うのは、F村が人寄せのためにばら撒いてる噂だろうさ。ほら、あそこのなんていったかな……有名な家があるだろう? あそこは金持ちだからね、ふと奇抜な事をやってみたくなるもんなのさ」
――
「鶏男って言うのは、鳥神さんの事かい? ええ? いや、それは鳥神とは違いそうだねぇ……そんな話初めて聞いたけれども」
――
「鶏男を観た奴がいるって話なら聞いたことはあるが、「俺は鶏男を観た」って奴にはあったことがないな。これは、ほら……なんていったっけ、そう都市伝説の類なんだろう?」
――

 F県F村には、鶏男という怪人がいる。私が、そんな奇妙な噂を聞いたのは、大学時代の同期のMからだった。彼は大学を卒業してからも民俗学の研究という名目で日本各地を旅している。
 Mは大学時代から、一人でふらふらと旅に出かけては奇妙な噂を持ちかえる奴だった。サークル活動や日々の生活にあけくれる私たちの横で、一月、二月と、どこともしれない田舎町を歩いて回る。「あんな調子じゃ就職活動にも響くであろうし、将来を考えているのだろうか?」、私たちは当時そのようにMを評したが、心のどこかであのように好き勝手に生きているMを羨んでいたように思う。
 特に私たちのMへの羨望が目立っていたのは、「怪談話の日」を執り行う時だったと思う。Mが集めてくる話は、現代においては作り話と切って捨てられる、いわゆる怪談話であることが多かった。M曰く、怪談というのは、その土地の歴史や定住している人々の生活を映し出す鏡らしい。私たちには何の事だかさっぱりであったが、それでもMの持ってくる奇妙な話と、それを集めるに至った旅の話が聞きたくて、「怪談話の日」は決まって皆で盛り上がった。
 Mから鶏男の話を初めて聞いたのも、この怪談話の日であったように記憶している。

 その時Mが話した噂は、「F県F村には頭は鶏で、身体が人間の鶏男が住んでおり、村人とともに野良仕事に励んでいるのだ」という、なんともオチのない話であった。怪談話と言えば人を怖がらせるタイミングを用意しているのが常であるし、常日頃集めた噂を語るとき、Mは私たちの反応を注意深く観察し、時には怖がらせる創作を挿入したりしていたものである。
 ところが、その話に限っては全くそうした工夫が見られず、深夜で皆が眠かったこともあいまったからなのか、誰一人として話を深く聞きだすことはなかった。けれども、Mのその話を聞いてから暫くの間。、私の胸の内にはしこりが残り続けた。
 Mの持ってくる話の多くは、奇妙な出来事に人が戸惑い、時には何かしらの被害を受けるという構図が多いし、前にも書いたとおりM自身がそうした展開を付け加えることもある。けれども、鶏男の話においてはそのような要素が一切存在しない。怖がられることもなく、鶏男は村の生活になじんでしまっているのだ。
 ちょっとでも想像を巡らせてみれば違和感が残る。頭が鶏の人間が、近所で平然と生活している。そんな空間で人間は正気を保てるのだろうか。自分と少しでも違う者は、他の人との間で軋轢を生み、差別を生む。外見からして人ならざる者であるならば、なおさらそういった反応があるのが自然のように私には思える。F県F村はそうした問題が起きず、平穏無事に鶏男が暮らしているという点において、狂気に満ちているとしか思えないのだ。
 だから、Mからこの話を聞いたとき、Mが無理やり作った話なのだろうと疑った。私の疑問に対しては、Mは「まだはっきりとしたことを調べてはいないから」とお茶を濁してしまったため、真偽のほどはわからない。

 その後、鶏男の話を再び聞く機会はなく、私たちは大学を卒業、散り散りの生活を始めた。私もあの怪談話の日に語られた「鶏男の話」などすっかり忘れて日々の生活を送っていた。ところが、先日、久しぶりに出会ったMは私にこう言ったのだ。「君は、僕が話した鶏男の話を覚えているか」と。

 Mは大学を卒業後も依然として日本各地の怪談話の収集に力を入れていたらしく、たまたまF県F村近郊に立ち寄ることがあったので、大学時代に聞いた鶏男の噂を調べてみることにしたのだと言う。 
 彼は「調べてみたのだがよくわからない」と前置きを付けた上で、このような話をしてくれた。

+++++
 F県F村に住んでいる鶏男は朝が早い。日が昇る前にぱちりと目を覚ますと準備運動がてら家の屋根に登る。朝の空気を吸いながら大きく伸びをして、日の出を待ちかまえる。東の空が明らんだときを狙い彼は朝一番の鳴き声を上げ、その声でF村の朝が始まるのである。
 鶏男はどこからどうみても化け物である。頭は鶏であるし、身体は人間の形をしているが所々に羽毛は生えている。人語を解し、鳥とも交流ができるらしい。
F村を尋ね歩いても、鶏男がいつからF村に住んでいるのかは定かではない。ある村人はこう言う。現在の村人たちの親、祖父母の代においてもF村では朝の訪れは鶏の鳴き声であったというから、そのころから鶏男はいたのかもしれないと。それは只の鶏と違うのかと尋ねると、今の鶏男も違う以上は、違ったのであろうと。
 誰を尋ねてもそのような返答であるから、困り果てて本人を尋ねようにも、鶏男はF村の人以外とは顔を合わせないのであるという。現に、Mは三日程度F村に滞留していたが、一度もそれらしい姿を観ることはなかったという。
+++++
 この話を聞いた私の素直な感想は、やはりそれは単なる作り話であって、遠方はるばる訪れた客に対してF村の村人が悪戯をするための仕掛けなのではないか、というものだった。この考え方にはMも一応頷いてくれて、どうやらF村最寄りのF町においても、そのような噂であるとまことしやかにささやかれているのだと言う。
 ただ、一通り鶏男の話について話し終わった後、Mは一つだけ不思議な体験をしたと述べた。F村にいると、本当に朝が早いらしいのだ。滞在中、どんなに夜遅くまで起きていようとも、朝日が昇った直後には目が覚めてしまう。それも、何かの鳴き声に無理やり起こされたような感覚があったのだという。真面目な顔でそう語るMに対して、私は何やら久しぶりに会った友人に化かされているような気分に陥ったが、その体験を語る彼の言葉は何かに脅えたような雰囲気を含んでいたことも否定できない。
 その日、飲み屋の外での別れ際、怪談を蒐集していて実際にそれらしきものに出遭ったのは初めてだったんだと、Mは若干青ざめた顔をして駅へと向かっていったのである。

 以来、私がMに出遭ったことはない。連絡もないままもう何か月も過ぎている。もしかしたら、鶏男に何かされたのではないだろうか。私がMにしてやれることは、ほとんど残っていない。だから、せめてMの述べたことをこうして纏めていくことが幾分かの役に立てばいい。私はそう願っている。

*******
ふくらませたプロットを放置してるから数年以内になんとかしてあげたい。
未完成テキスト鳥
愛の言葉を語れと言われたので(電波

*******

 女性の過度なダイエットは、見ていて痛々しくて、正直萎えるよなーなんて言っている男子諸君がいるが、俺は女性のダイエットほど美しいものはないと自負している。昨今モデルのやせすぎが問題になっていたが、何故あれほどまでにやせることに危惧感を覚えるかが理解できない。すらりとしたシルエット、長い足、長い腕、細いウエスト。不必要な肉体を限界まで絞り切った身体には彼女たちが自らの身体を変化させることで、自分を縛っていたものから自由になるのだという力強い意思を感じる。
 世の男子諸君の中には、女は多少ふくよかな方がよいなどという輩がいるが、彼らは大きな見誤りをしているに違いない。ふくよかであるということは、すなわち不必要な重りを身体に残しているということだ。美しくない。効率的ではない。その分、そのふくよかな彼女たちは自由を奪われている。軽く、美しい女性たちに比べて明らかに劣っているのだ。それがわからないで、ふくよかな女性を求める男子たちは、おそらく心のどこかで女性は自分たちの支配下に置かれればよいなどという独占欲じみた下卑た考えを持っているに違いない。
 その点、俺は彼らとは一線を画している。俺は女性を独占しようなどという考えを持つことはない。自由な女性は素晴らしい。女性は何かに縛られて生きるべきではない。いや、女性に限らず全ての人間は自由であるべきなのだ。だから、自由を求めて懸命に努力する女性たち全てに愛情を持つことはあれど、独占しようなどとは考えたこともない。俺は全ての女性、もちろん男性も含めて人間は自由になるべきだと思っている。俺たちはこの星が与えてくれているおおきな空間を享受しきれていない、四角くて堅いビルディングばかり立てて、地下や建物の中に引きこもるなんてもってのほかだ。俺たちの上に広がっている広大な空のことを忘れているとしか思えない。
 この空を飛びまわる。俺たちは地上に縛りつけられて、不自由な生活を送っているが、その鎖を外して空へと舞い上がることで、一歩自由な世界へと踏み出せるのだ。
だが、残念ながら通常、人間の体は空を飛ぶには少々重い。余計なものが多すぎるために、俺たちは空へと飛び立つことが難しいのだ。
 故に日々ダイエットを続ける女性たちは素晴らしい。彼女たちが見る見るうちに綺麗になっていくのは、彼女たちの余計なものがなくなっていき、新たな自由への扉を開く、空へと飛び上がる準備が進んでいるからに違いない。
 もっとも、彼女たちは少々怖がりらしく、いくら体重を落としても空へと飛び立つ第一歩が踏み出せない。だから、俺は彼女たちが自由を手にするために助力をしているのだ。俺のように空を自由に飛びまわれるための第一歩のために、ほんの少しだけ背中を押してやる。
 今まで手伝った女性たちは飛ぶためには少々軽さが足りなかったらしく、飛ぶことができず地上に縛りつけられてしまった。しかし、今回の女性は彼女たちに比べるとはるかに軽い。少しの勇気さえあれば、彼女は空を飛べる。

 6階建てのビルの屋上、落下防止用の柵の向こう側に彼女は立っている。恐怖で凍りつきそうな表情は、俺の声を聞いた途端かき消えた。今は自由の扉の前に立ち、恍惚そうな笑顔を浮かべているに違いない。もっとも、俺には彼女の後頭部しか見えないのだが。
 さて、彼女が空を飛ぶきっかけを与えるために、最後の一声を上げるとしよう。
 俺は、翼を大きく広げて胸にめいいっぱい空気を吸い込んで……

********

こういう周りのこと見えてない愛情たっぷりな人は怖い。
灰色ウサギと私
USBメモリから発掘したテキスト。いつ書いたのだろう。
唐突に終わるので、何かの物語を書こうと思わずに作った文章のような気がする。

あと、相変わらず一文が長い。

以下本文
*******

 夕方の交差点は車が大量に行き来していて、見ているだけでも疲れてしまう。徐々に暗くなる街の中で、ひっきりなしにやってくる車の明かりが目立つようになってくる。
「はぁ……なんか疲れた」
 私は会社の屋上で煙草をくわえて、向かいのビルのディスプレイで流れている流行の歌のPVを眺めていた。
 禁煙して一ヶ月。時折こうして煙草をくわえてみるものの、なんとなく火をつけることが憚られて、結局火のない煙草を馬鹿みたいにくわえてしまっている。
「流行の歌ってのはなんていうか滑稽だよねぇ」
 気がつくと、柵の上で灰色ウサギの奴が器用にタップダンスを踊っていた。私はいつものように見ない振りをする。けれども、ウサギの奴は柵を伝って私の手に乗り、ととと、と上って私の右肩にちょこんと座った。シルクハットを脱いで、前足でそれをくるくるっと回しながら左右に揺れてリズムを取る。
「ねぇねぇ、そう無視しないでよ」
「ああ、うるさいな。今は疲れているの」
「んもー。ね、あれは今流行の歌手の***だよね。新曲?」
「そうよ。新曲。『星の降る夜に祈りを捧げて』、片想いの切ない心を歌った曲よ」
 私は仕方なく灰色ウサギに返答をする。ウサギはタイトルを何回か繰り返した後、くしゅんっと小さなくしゃみをした。ウサギのやつがくしゃみをするときは、皮肉めいたことを思いついたときだ。すぐに捻くれたたとえ話が飛び出てくるに違いない。
「片想いの切ない心か。きっとあのビルの前を歩く若者達が、共感するぅー私たちの気持ちを代弁してくれるーとか盛り上がって、初週は沢山売れるんだろうね」
「はいはい。何が言いたいのよ」
「んー? 君は、小説と詩、どっちが芸術としての価値が高いと思う?」
 灰色ウサギの問いが、今までの話と噛み合わなくて、私は眉をひそめた。小説と詩の芸術性の優劣なんて考えたことがない。どっちもそれぞれ芸術性があったりなかったりするだろうし、そう易々と対比できるものでもあるまい。
「ふふんっ。まったく別次元だって答えたいのだろうけれど、それはそれ。仮に無理やり比較するならば、どっちに価値をおきたいかって考えてみてよ」
「それなら、詩、かな」
「なんで?」
「それは、小説みたいにまどろっこしく自分の描きたいことを伝えないで、そのときに作者が伝えたい表現をぎゅっと詰め込んだのが『詩』だからじゃない? たった数行で表現が出来ることこそ、表現者の技術だって、大学の後輩が主張していた気がするよ」
「ははぁん。確かにその後輩が言うみたいに、詩は少ない表現に一杯の感情を詰め込んだものかもしれない。芸術性の優劣というのがそういった要素で決められるのならば、それは楽でいいよね。んじゃ、詩ってのは長く知られ続けるべきなのだと思う?」
「そうなんじゃない。共感できて、情景を思い浮かべられて、そういった綺麗な表現が残り続けるのはいいことじゃない。ああ、そういう意味じゃ歌もそんなものなのかな」
 私は灰色ウサギがなぜ詩と小説の区別の話をしたかがちょっとだけわかった気がした。
「共感が出来る綺麗な表現ねぇ。ふふんっ。耳障りは良いけれど、詩や歌に対するそういう評価ってのはとても滑稽だよねぇ」
「どうして? 素晴らしい作品はずっと残り続ける、いいことじゃない」
「まあね。でも、君や人々の間で残り続けている詩や歌は本当に『残っているのだろうか』と考えたことはない?」
「本当に残っているか……?」
「そう。詩や歌は作り手のそれまでの経験や感情がぎゅっと凝縮されて出来上がるもの。だから、良い歌、良い詩には、一言一言に大きな輝きが満ちている。そのこと自体は素敵なことだと思うよ。けれども僕らが歌や詩を楽しむとき、作者の凝縮されたそれらをきちんと理解できているのかな」
「きちんと理解……そういえば、詩とかは韻を踏んでいるから綺麗とか、なんとなく雰囲気がつかめて綺麗とは思うけれど、あんまり製作された背景なんて考えないかもね」
 ましてや歌なんてのは消費物だ。目の前で流れている歌なんてのは早ければ半年、遅くたって1年か2年もすれば忘却の彼方だし、歌っている歌手がどんな思いで作詞作曲したのかというインタビュー記事を読みながら曲を聴く人がいったいどれだけいるものだろうか。
「ふーん。作り手の経験や感情を掴みきれない歌や詩は、果たして芸術性がある素晴らしい作品なのかなぁ」
「え……?」
「だって、君は詩がステキなのは少ない表現に作り手が凝縮されているからだって言ったのに、その作り手が何を考えているかは知ろうとしないんでしょ? つまり、作り手について学ぶ気がない。けれど、その状態で歌・詩がステキだー共感したーと喜んでそれを求めている。その構図ってのはとっても滑稽だと思わない? 君たちはいったい何に共感して、何をステキと思っているんだい?」
 ううむ。灰色ウサギの言葉は屁理屈のような気もするが、こうやって尋ねられてしまうと、私には反論できる言葉がない。
「共感する対象が不在の空虚な詩、流行の歌ってのはその最たるものだとは思わない? そして、対象を探そうともせずにただ良い歌だと喜んで聞いている人たちは、非常に滑稽じゃないか」
「はあ……まあねぇ」
 灰色ウサギは肩から降りると再び柵のほうへと歩いていき、柵の上で私をみる。
「ま、もっとも僕らはどんなに言葉を紡いでみても、相手のことがわからない。言葉以外でも繋がっているはずの僕と君ですらわからないんだから、どんなに頑張ったって表現物にこめられた思いを正しく理解なんて出来ないんだ。結局はおおよその人が理解するのと同じように理解することが、ある程度正しい受け止め方なんだよ」
「だったら、滑稽なんていわないでよ」
「滑稽なのは滑稽だもの。それに、君がそうやって暗い顔して交差点なんか眺めているから、暇なのかと思ってさ」
 灰色ウサギはシルクハットを片手に仰々しく一礼をして、くるりと一回バック転をすると煙のように何処かに消えてしまった。

「せんぱーい。そんなところで何やってるんですかー?」
 後輩が屋上の扉を開いて駆け寄ってきた。灰色ウサギと話しているうちに、空はすっかり暗くなってしまった。交差点は車のライトとネオンによって昼とは違う輝きを放ち始めている。ディスプレイで流れていた音楽番組は一周して、再び『星の降る夜に祈りを捧げて』のPVを流している。後輩は柵のところまで駆け寄ってきて、PVの流れているディスプレイをみて「わぁ」と声をあげた。
「『星の降る夜に祈りを捧げて』良い曲ですよね、こうやって街中で流れているのを観るとまた違うなー」
 後輩は純粋に目を輝かせているに違いないのだが、私はさっきの灰色ウサギとの会話がひっかかり、後輩の方をみることができない。果たして後輩はこの歌のことをきちんと知っているだろうか。私が出会ったあの歌手の何を知っているのだろうか。いや、私だって何を知っているかと聞かれれば、ほとんど答えられなんてしないのだ。彼女の曲作りをバックアップしたり、プロデュースしたといえど、私は、彼女の人生も、『星の降る夜に祈りを捧げて』にこめられた想いも正しく受け止められている気がしない。
 ディスプレイの中では彼女が力いっぱい自分の想いを紡いでいる。ディスプレイの境界面が、交差点の明かりが、腕を乗せている柵が、全てが彼女と私の間の距離を示している気がする。
「そうね。良い曲だ。良い曲だよ、あれは」
 私はそういってくわえていたタバコを手に取り携帯灰皿に突っ込んだ。
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プロフィール
HN:
若草八雲
年齢:
37
性別:
非公開
誕生日:
1986/09/15
職業:
××××
趣味:
読書とか創作とか
自己紹介:
色んなところで見かける人もいるかもしれませんがあまり気にせず。
ブログとか作ってみたけれど続くかどうかがわからないので、暇な人だけ見ればいいような。
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