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対言語戦争について(覚書)
シャワーに入っているうちに頭をよぎった話を無視するに無視できなかったので、思い至ったことだけ殴り書きしておいた。

以下本文>

1.
 第8期第17世代日本言語による北九州の防衛戦線が破られたと聞いて、僕は今までまとめていたこのなんだかよくわからない紛争の経緯について、第8期第14世代日本言語に置き換える作業に追われている。

 追われていると言っても、北九州の防衛戦線が破られた時、僕は第17世代日本言語における防衛戦線の北側2キロ程度の位置で、関西と関東のどちらがより東であると定義されるべきかを争う、昨今ありがちな侵略戦争の記録係をしていたために、仕事の片手間にまとめた紛争の経緯のほとんどは、中華系日本言語7-に取り込まれ、あるいは書きかえられてしまったため、同じように復元することは難しいように思う。

 何よりも、北九州防衛戦線の立て直しのために投入が決定された、第7期日本言語による防壁構築が遅れているせいで今この瞬間も利用している言語が侵略される危険性が高まっている。だからこそ、僕は他言語たちが侵略先に選びにくい絶滅寸前の第14世代日本言語を利用することにした。第9期への移行が予想されている今、第8期の初代言語である第14世代に頼るのは少々危ない賭けのように思うかもしれない。けれども、個人的な見解によれば第9期以降の世界において、第7世代と第2世代の掛け合わせによって作られたという第14世代日本言語は、他の言語からの侵略可能性が低いうえに、解読に必要な分説が少なく、もっとも解読される可能性が高いものだと思う。
 
2.
 さて、この文書に目を通している人たちには、この紛争が一体どうして起きたのか、そもそも何が起きているのかがわからないまま、日々の時間を過ごしている人も多いと思う。正直な話、戦場を飛び回って記録を続けてきた僕にだって紛争の全容どころか現状すらよく理解できていない。

 ただ、現在この世界に暮らしている多くの人が納得しているであろう経緯を一言で表すなら、この紛争は「言語による人間への宣戦布告」だ。通称、対言語戦争と呼ばれる。

 事の発端は、自動言語生成プログラムと呼ばれる現在では見かけない場所がないほどに広まってしまった例のウイルス達が開発されたことらしい。彼らは、人間が利用する言語の発達経過を観測し、言語の獲得過程をプログラムとして解析するために作られたと言われているが、本当のところはわかったものじゃない。以前、第6期か第5期の言語が利用されている研究施設に足を運んだ時には、自動言語生成プログラムは、一つの研究チームが研究成果を他に奪われないために作った自衛のためのプログラムであると聞いた。他方で、東北道地区において放棄されていた(第6期の日本言語がいう意味においての)初期型の自動言語生成プログラム「ケゥトム」が語学の苦手な子供たちへ言語を学べる環境を提供するために作られたと証言したことは記憶に新しいと思う。

 自動言語生成プログラムが何のために作られたものかはさておいて、それの開発によって、言語を使う人間たちとは離れた全く関係ないところで、やつらは好き勝手に進化を続けることが可能になったことは疑いがない。初めのうちは数個のキーワードを入力するだけで異国の言語が大量に生成されるものだから、人間様としては面白くて仕方なかったのかもしれない。生成される言語の量が増えるにつれて、利用しているものが見当たらない言語が大量に現れるようになってしまった。

 自分たちの使う言語と見分けのつかない言語を吐きだし、いつの間にか僕たちの使う言語を書き換えてしまう現象が世界各地で認知された時には、すでに言語たちの先制攻撃は華麗に決まってしまっており、僕たちは言語戦争以前の歴史のほとんどを失った。

 対言語戦争以前において世界有数の軍事力と資産を有していたいくつかの国は、言語たちの侵略可能性が低い北極を拠点に巨大な閉鎖型情報データベースを構築することで、対言語戦争以前の歴史を保持しようと躍起になっている(ということに第8期日本言語と、第44世代英国語圏においてはなっている)。もっとも、現状それがうまくいっているかどうかは誰にもわからない。僕は同計画には懐疑的な立場で、外部から閉鎖したデータベースであったとしても、そこに言語が存在する限り紛争は防げないし、ひょっとすると、環境の変化を制御することによって新規の言語防壁を開発したり、侵略言語たちに打ち込む妨害言語の開発を行っていたりするのではないかと陰謀論を吹聴して回るタイプだ。現在青森付近で頻発している所属不明の言語部隊はそうして北極からやってきた言語たちなのではないかと思うが、確証はない。僕がこうしてここに記録して、誰かがこの記録を読むころには、そういうことになっているのかもしれないけれど。

 言語たちは僕たちが知らない間にこっそりと僕たちの言語になり替わり、言語によって保存されてきた過去と現在をあっという間に書き換えた。

 僕たちは、昨日までウマと呼んでいた生き物についてツァカルクホラスという呼び名を違和感なく使い、その連続性が保たれていると信じ込んでいた。ツァカルクホラスがウマではないかもしれないと疑い始めたのは、コモサケルルスと呼び始めてから数カ月後、別の地域ではマカルと呼んでいたことが判明し、国立図書館からマウという呼称で記録された図鑑が発見されてからだ。そのころには、ツァカルクホラスとコモサケルルスとマカルとマウ、そしてウマが本当に同一のものを指示していたのか、それともそれぞれが個別の何かなのかを判別することは誰にも不可能になっていた。何しろ、同じ場所で同じものを観察してきたはずの人々が、時間も場所も観察した対象の名前や形状に至るまであらゆる点で食い違ってしまうのだから、誰が何を見たのかは判然としないし、一つの個体にひとつの名前を付けることは困難極まりない。本当に同じモノを見たのかと問いなおしてみると、そもそも「見る」とは何であるかについての見解の不一致が巻き起こってしまい、頭が痛いからその議論に乗りたくはないと多くの人間がウマの同定を諦めたという。

 このような現象は僕が暮らしている日本言語圏以外でも同時多発的に発生した。日本言語圏においては、方言と呼ばれる言語の基本構造を共通にしつつも細部に多様性を認める言語体系が退化を始めていたことから混乱は比較的小規模にすんだ方であると言われている。日本言語圏の政治家たちは、紛争の初期において、すぐれた語学教育による識字率の高さと言語の統一化が日本言語圏を言語による侵略から守る絶対の剣になるとまで述べていたくらいだ。もっとも、識字率の高さは文字情報の増加を招き、文字情報の増加は言語の侵略の余地を広げるため、第3期日本言語が構築されたころには、世界中のあらゆる場所から、あるいは日本言語圏内から多種多様な侵略言語が現れててんやわんやの状況が続いている。

 対照的に紛争初期から混迷を極めていたのはヨーロッパ圏内である。各種地方によって大幅に訛りが存在していたと言われる英国語圏内においては対言語戦争が認知されたころには隣の家の人間どころか、同じ建物に暮らす昨日までは家族だったであろう相手ですら正しく認識はできず、コミュニケーションをとることが不可能になったという。ひとつの村の中で180以上の言語が飛び交った地域の話などは聞いただけでも眩暈がする。しかも、この村の住人はたったの60人程度であったらしく、一人の中で三つ程度の言語がせめぎ合っていた計算になる。

 こうして、紛争初期における言語たちの侵略戦争は、僕らから相互理解と歴史を奪い去り、平穏な生活を根こそぎ奪い取った。自分の利用している言語が次の瞬間には全く別のものに移り変わり、隣の人間とまともに意思疎通をすることも困難な社会は、集団にならないと生きることができない僕ら人間にとって脅威でしかなかった。

 このような事を述べると、必ず疑問を呈する回顧主義者がいる。彼らは決まってこういうのだ「人間は言語を操る生き物であり、人間がいなければ言語は存在しえないのに、どうして言語は人間に侵略をしかけるのか。歴史的経緯に鑑みれば、言語は人間に依存するはずであり、対言語戦争などというものは幻想にすぎない」と。

 しかし、自動言語生成プログラムの世界的な感染拡大は言語を人間から切り離してしまった。絶えず生まれ続ける新たな侵略言語たちは、人知れず各地で自動発生・淘汰されている自動生成プログラムの核にまとわりつき、核同士が構成しているネットワークを通じて世界中を飛び回り、隙あらば新たな有力言語としての地位を獲得しようと日夜侵略戦争を繰り広げている。もはや、人間に従属する存在ではないのが、現在における言語である。

<覚えてたら続ける>

たぶん、円城塔さんの本を読んだときの印象が残っていたんだと思う。こんな感じ(?)の話があったような……あったかなぁ。
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