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作成した小説を保管・公開しているブログです。 現在は連作短編が二篇の他,短編小説,エッセイの類を掲載しています。 連作小説の更新ペースは随時。二か月に三回を最低ラインとして目指しています。
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狩人の矛盾【1:マック・デュケイン氏について】
探し物してて出てきたテキストを直してみたもの。続きモノを想定して書かれているのだけれど、肝心の続きのプロットが見当たらない。どういうことなの???(元々の作成日時は二年前のため記憶がない)

雰囲気的には対言語戦争とかと同じ世界観のような気がする。
<ドッペルゲンガーのパラドックス>という題名をつけてみた。

―――――――
<ドッペルゲンガーのパラドックス>

狩人の矛盾


 高層ホテルの屋上、ヘリポートの中央で、彼は銃を片手に周囲の様子をうかがっていた。屋上には彼以外の人影はない。しかし、彼の周りには複数の足音が鳴り響いていた。足音は彼の周囲を旋回し、徐々に彼との距離を詰めているように思える。
 唐突に左腕を真横に持ち上げ銃の引き金を引く。銃声が鳴り響き、誰もいないはずのヘリポートに頭を撃ち抜かれた男が現れる。男は虚ろな瞳を彼の方へ向けたままゆっくりと床に倒れ込む。続けて数回。彼は発砲を繰り返し、その度に誰もいないはずのヘリポートに男の死体が現れる。
 彼の周りに転がった五つの死体を確認し、彼は手の中の銃の薬莢を棄てた。床に薬きょうが散らばると、大きな拍手が鳴り響いた。
「素晴らしい!素晴らしいね君は!」
 背後に聞こえた声に彼は振り返り銃を構えた。しかし、弾丸を装填していないその銃には威嚇効果すらない。彼の背中に冷たい汗が流れた。
 目の前の男は彼のそのような様子を見てにやにやと笑う。良く見なれた顔が自分に対して見せる歪んだ表情に、彼は今すぐにでもその男を殺してしまうべきだと考えた。
「そうですね。それでこそ貴方だ。やはり私の知っている貴方ですよ。そう。殺してしまえばいいのです。自分の邪魔になる者は残らずすべて、彼らのように。そうでしょう? もう一人の私、カズヤ・シンドウ」
 彼の名前を呼んだ目の前の男は両腕を広げ、勝ち誇ったように彼の名前を呼んだ。男の名前は、カズヤ・シンドウ。彼と瓜二つの顔を持ったもう一人の彼だ。

1:マック・デュケイン氏について 



 エリア7は他の区域と異彩を放っている。それは、例えばエリア7が保有する領土を最大限に活かそうとして取られた計画の結果だったのだろうか。エリア7についての知識が少ないアキにはわからない。ただ、街中のビルが支柱の役目を与え、四層に渡る人工土地を作り出した高層都市区画の光景は、素直に驚きを覚えるものだった。
 アキ・ミキヤは首にかけた偽装通行証の表示を再度確認し、エリア7第三層、行政区画へと足を踏み入れた。第三層は行政区画として整備された人工土地であり、上層プレートを支えるビル群、オベリスクはエリア7の主要な官庁の施設の役目を果たしている。

 アキがこの区画を訪れるのは二度目だ。一度目は偽装通行証作成目的だったように思う。過去の記憶を探りながら、アキは目的の場所を目指して昼時の人混みをかき分ける。やがて、オベリスクの一つの真下に到着すると、歩道がひらけ、大きめの広場が顔を出す。広場には何台もの車両が止まっており、屋台を営んでいる。そのうちの一つ。クレープ屋ののぼりが目標の店だ。それとなく列に並び、クレープを一つ注文する。
 車の中でせわしなく動いているのは三〇代後半くらいの小太りな男だった。愛想の良い笑顔でクレープを売る姿は、数日前に見た男と瓜二つであった。もっとも、彼は目の前の男のように幸せな空気に包まれたものではなく、全身が糸の切れた人形のようにおかしな方向へと曲げられた凄惨な姿であったのだが。
「ご注文のストロベリークレープです」
 男からクレープを受け取り、その場を離れる。辺りを見まわしクレープ屋の前におかれたいくつかのテーブルの中で一つ、オベリスクの女性社員と思われるグループが座っているところへと近づく。
「すみません。ちょっと席をお借りしてもよろしいですか?」
 アキはとびきりの笑顔を見せて彼女たちに声をかける。顔を上げた彼女たちの眼が少し大きくなったのをアキは見逃さない。続けていくつか会話を挟むと、たちまち彼女たちの警戒は解け、アキはそのテーブルに混ざり込むことに成功した。
 一言二言、他愛のない話をしつつ、クレープ屋の男の話を尋ねてみる。
「ああ、あの店? 先週はなかったかな」
「そうねー。でもこのクレープ本当に美味しいし、つい毎日通っちゃうんだよね」
「そうそう。今まではここに立ち寄ることなんてほとんどなかったんだけど、ほら他の屋台は小腹が空いた時ってより、がっつり食べるようなもの売ってるじゃない。このクレープちょうどいいのよ」
「来たときからあの店主さんなの?」
「ああ、マックさん? そうよ。彼がひとりで切り盛りしてるんだって」
「二層で働いてたとか言ってたわね、ようやく自分の店を持てたって」
「へえ。これだけ美味しいクレープ作れるんだから、自分のお店開くの夢だったのかな」
「そうかもしれないわね」
 そうした会話を続けていると、そろそろ休憩時間が終わるからまた今度会ったらお話しましょう。と女性たちが席を立つ。アキは彼女たちに出会ったときと同じ笑顔を返し、彼女たちが去ったあともクレープを食べながらマックと呼ばれた屋台の男を眺めていた。

 マック・デュケイン。数日前アキが見かけた男の名前である。男はアキが暮らすエリア5の街角で死体となって発見された。彼は発見された道路に面したアパートの4階に暮らす34歳の男だった。マックはエリア5の隅の方でアイスクリーム屋を営むジョンの店で働いていた。マックの部屋には多くのお菓子に関する本が積み上げられていたが、彼自身は料理を趣味とするわけでもなく、ただただ毎日のようにお菓子に対する夢をはせていただけの男だった。もっとも、一度食べた食べ物の味は完璧に覚えられると自負しており、彼は常に食べ歩いた食べ物についてもメモを持ち歩いていた。そこには食べ物の見た目についてのコメントや、味、材料など彼の目や舌が知りえたことのすべてが記されていた。メモは彼の宝であり、彼の食の軌跡であり、彼の生きる意味そのものだったのだろう。
 その中でも、彼が特にお気に入りだったのはエリア5の周回道路を一日かけて回っている移動クレープ屋のクレープのメモだった。ジョンの店の前をクレープ屋が通ると決まって声をかけ、クレープを一つ食べるのがマック・デュケインの日課であり、日々の幸せの時だった。マックを雇っていたジョンはそう述べる。マックは休憩時間をたっぷり使ってクレープを味わい、その形・味をメモに記していった。クレープ屋が30周ほど周回道路を回ったころには、マックのメモはクレープ屋のクレープのレシピを完全に解き明かしたと自負していたという。

「確かに美味しいよね、このクレープ」
 女性たちが絶賛していたクレープは、マック・デュケインが熱心にメモを取り続けたクレープ屋のクレープである。アキの目の前にいるマック・デュケインにそっくりな男は、どこで手に入れたのか、エリア5にて売られているクレープ屋のメニューをコピーし、売りさばいているのだ。
「もうひとつ頼もうかなあ」
 仕事を終えればこのクレープも食べられないかもしれない。美味しいことには違いがないし、もう一つくらい食べてもいいかも。アキはそんなことを思いつつ、目の前のクレープ屋の監視を続ける。彼が店じまいをして一人になるその時まで。

 マックは今日の分のクレープが完売して満足していた。これで7日間。この広場での商売も大分顔を覚えてもらえたようで、常連のように通いつめてくれる人もいる。今日の売り上げを計算し、車の中を整理する。あとは外のテーブルを片づけて、家に帰るだけだ。同じ広場で屋台を営む他の店は、昼時を過ぎるとさっさと店を畳んでしまう。だから、マックの店がいつも最後に取り残される。
 外に置いたテーブルを回収しようと車の外へと出ていくと、業務時間で誰もいないはずの広場で一人の青年が立っていた。
 青色のコートを身につけ帽子を深くかぶっている。青年のようなカジュアルな服装は行政区では珍しい。マックは不思議に思ったが、青年は自分の服装が浮いているとは思っていないのか、マックの方に近づいてくると笑顔を見せた。
「こんにちは。あなたのお店のクレープ、とても美味しかったです」
 わざわざクレープの感想を言うためにここに居たなんて。マックは自分のクレープの熱心なファンがいることに目頭が熱くなるのを感じた。
「ところで、ボクは以前エリア5であなたの売っているクレープと瓜二つのものを食べたことがあるのですが、もしかしてエリア5の出身なのですか?」
 青年の突然の質問に、マックは何と答えればいいのかわからず、つい目をきょろきょろさせてしまう。青年はコートの懐から一枚の写真を取り出して、マックの方に見せた。その写真にはマックの車とそっくりの車が写っており、マックとは異なるやせ気味の男がカウンターの中で作業をしている様子が見えた。
「これがそのお店です。あなたのお店は見た目もそっくりだったのでびっくりしました。それと、もう一枚。先日エリア5で亡くなった男の人がいるのですが」
 マックはそのあとの言葉を聞きたくはなかった。できればクレープを喜んでくれた目の前の青年とは幸せな気分のまま別れたい。けれども、青年はそれを許さずマックの前に決定的な写真を出した。
「あなた、この人と瓜二つですよね。ひょっとして、マック・デュケインという名前ではないですか?」
 マックは確信をもった。目の前の青年はマックの正体に気が付いていることに。そして、彼とマックは悲しいことにわかりあえそうにないことに。マックは自分のクレープをほめてくれた小柄な青年との別れに心を痛めた。しかし、気がつかれた以上このままにすることはできない。
 マックは写真をコートの懐に戻すため青年が眼をそらした瞬間をねらってその大きな腕を振り上げた。青年がこちらを向いた瞬間にはマックの大きな腕が彼の顔面を叩き潰している。
 ゴン。しかし、彼の手に伝わってきたのは青年の頭蓋がつぶれていく感触ではなく、コンクリートの壁を叩いたような激しい衝撃だった。いつの間に出したのか、青年は右手にカードケースのような箱を手にし、振り下ろされたマックの腕を箱で防御していた。
「正体知られたらいきなり暴力なんていただけないと思いますよ。そうやって本物のマック・デュケイン氏も殺害したんですか? マック・デュケイン・ドッペルゲンガー」
 青年の目が先ほどまでとは異なり冷たくマックの顔を睨みつけた。その目は先ほどまでのクレープを美味しいと述べてくれた朗らかな青年のものではなく、冷徹に獲物を狩る狩人の目だ。マックはこの場で追い詰められているのは青年ではなく自分であるということに気がつき、とっさに青年から離れ、脱兎のごとく逃げることを選択した。



 「この世界には自分と瓜二つの人間が少なくても三人いる」。9つのエリアで区画される“居住地”が出来上がるよりはるかに昔に語られていたという俗説がある。それは、大概ドッペルゲンガーという名前を付されている。どうして三人という数が出てきたのか、瓜二つの人間がいるという発想は何処から来たのか。そういった全てのことは、人間が“居住地”に暮らすようになる前に失われた資料にしか載っていなかったという。今では古文書の記述にみられる程度の記述にすぎず、その詳細を知る者はいない。
 代わりに、現在の“居住地”では全く異なるドッペルゲンガーが存在する。否、全くというのは誤りかもしれない。ドッペルゲンガーは“居住地”に住む人間の誰かと瓜二つの外見をもつのであるから。但し、その数や性質はずいぶんと異なる。
 少なくて一人、多ければ何十人もの同じ人間が出現する。それが現在におけるドッペルゲンガーだ。奴らは幻でも誰かの妄想でもない。原型となる人間の形を真似てこの世界に現れる実態をもった異形なのだ。ドッペルゲンガーは原型となった人間をコピーし、その人間になりすまして“居住地”の中に潜んでいる。奴らはときに原型を殺め、他の人間を屠り、その勢力を増やしていく。
 人知れず勢力を広げていくドッペルゲンガーは、“居住地”全体の存立を脅かす存在だ。けれども混乱を防ぐために各エリアの一般住人たちには知らされていない。少数の狩人ら以外にドッペルゲンガーを知る者はいないのである。
 狩人らは誰にも知られないように日々ドッペルゲンガーを狩りたてているのである。

 業務時間が始まり人の居ないエリア7行政区画を小太りの男が疾走していく。その100メートルほど後方をアキが追走していく。マック・デュケイン・ドッペルゲンガーはその見た目に反して足が早い。あっという間に差を広げられている現状では、数分もしないうちにアキはマックの姿を見失ってしまうだろう。
 狩人としてドッペルゲンガーを追いかけている以上、そのような事態は許しがたい。アキはマックの一撃を防いだ箱を手に取り、左手首につけているブレスレットに装着し、箱の側面に並んだボタンを操作した。
「変身」
 アキの声に反応して箱が青く発光し、その光がアキの身体を包みこむ。そして、光の中から飛び出したのは銀色のコートに身を包んだ黒猫の姿だった。黒猫は地面を蹴ったかと思うと華麗に空中に飛び上がり、周囲の電柱や樹に飛び移りつつ、マックの姿を追いかける。
 先ほどのアキよりも遥かに俊敏な黒猫はどんどんとマックの背中に近づいていく。彼の背中に手が届きそうな場所まで近づくと、黒猫は懐から出した銃を向け、容赦なく引き金を引く。すると、逃げ回るマックの足元が突然捲れ、爆ぜた。
 倒れこむマックの後ろに立ち、黒猫は彼の頭部に銃を向けた。
「ドッペルゲンガーに死を。“居住地”に平穏を」
 銃の引き金が引かれると、マックの全身は大きく膨らみ軽い破裂音とともに周辺に飛び散った。しかし、不思議な事に銀色に光るかすかなちりが撒かれただけで、黒猫にも道路にも血が飛び散ることがなかった。その代わりに小さな宝石のようなものが路上に転がっていた。マックと呼ばれた人間は、黒猫の前で完全に消失してしまったのである。
 その様子に満足したのか、黒猫は左手につけた大きな腕輪に手をかける。すると黒猫を青い光が包み込み、次の瞬間には黒猫ではなくアキ・ミキヤの姿がそこにあった。アキはコートのポケットから携帯電話を取り出し、相棒の番号をコールする。
「カズヤ? 今マック・デュケイン・ドッペルゲンガーを処理したよ」
 狩りの報告をしながら、アキは路上に落ちた宝石のようなものを手に取る。透き通った緑色の宝石を手の中で転がしながら、アキは電話先の相棒に狩りの詳細を伝えた。
「うん? 別件なのそれ? うん。今はエリア7の第三層にいるけれど。第二層? じゃあ、このまま降りていけばいいかな。わかった、じゃあ詳しい場所が分かったらまた連絡して。第二層で落ち合おう。それじゃあ、また」
 相棒との電話を終えると、一息ついたといわんばかりにコートのほこりをはらう。今だアキの周りに人影が現れる気配はない。行政区画の業務時間はどのエリアでも同じで、努めている人たちは一斉に施設の中に籠ってしまうらしい。今建物の外にいる人間は来訪者の類のみというわけだ。おかげで一連の動作を誰にも見られることがなく、ドッペルゲンガーも激しい抵抗をみせることがなかったので、アキとしては楽な仕事であったように思う。
「あ、あのクレープ屋どうしようか……放置したままになっちゃうな」
 美味しいと言っていた女性たちも困惑するに違いない。とはいえ、ドッペルゲンガーを狩るのがアキの仕事であり、みつけた以上は狩らないわけにはいかないのだ。クレープ屋が放置されることについては仕方がないけれど、依頼主に一応報告しておこうか。

――――――
カズヤ・シンドウさんの話が出てくるくらいまでは他の作業の間に作れるといいかなと思う。これじゃ冒頭部が何の意味があるかわかんないし。
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プロフィール
HN:
若草八雲
年齢:
37
性別:
非公開
誕生日:
1986/09/15
職業:
××××
趣味:
読書とか創作とか
自己紹介:
色んなところで見かける人もいるかもしれませんがあまり気にせず。
ブログとか作ってみたけれど続くかどうかがわからないので、暇な人だけ見ればいいような。
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