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作成した小説を保管・公開しているブログです。 現在は連作短編が二篇の他,短編小説,エッセイの類を掲載しています。 連作小説の更新ペースは随時。二か月に三回を最低ラインとして目指しています。
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御坂異界録ラフテキスト1
答案構成探してたら、昔途中まで作った小説の作中作を発掘したので冒頭部だけ。

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 今日まで積み上げられた多くの研究は、呪術というものを科学的に分解していくアプローチが主体であったように思われる。彼らの専らの関心事は、呪術を解体して、その背景にある思想や信仰、精神的な文化を考察することにあったに違いない。研究者達にとって、呪術とは研究対象を理解するツールではありうるが、多くの場合、呪術それ自体を技術と捉えることはしてこなかったように思われる。
 無論、趣味の域を超えることのない私の読んだ限りでの印象であり、異論が数多く存在するであろうことは否定しない。
 私は呪術とは科学と同一レベルの体系を持った効果的な技術であると考えている。呪術では物理現象を支配できないというが、自らの精神を通して外界を把握しているに過ぎないという人間の限界を鑑みれば、呪術によっても物理現象は支配されうるのではないか。
 例えば、一箇所に存在している全ての人間が、中空に炎が点ったと認識すれば、そこには現実として炎が点ったことになる。絵空事のように思われるが、実際にそういった現象は数多く観測されている。我々は科学的なアプローチに引きずられ、それを万能に近いものと考えているが、他方で有用な力であった呪術を忘れ去ってしまっているのではないだろうか。
 もっとも、仮に呪術的な力が実在するとして、物理的なエネルギー以外に現象を支配する力は一体何処から現れるのか。残念ながら、自らの手で自在に呪術を使いこなせない私には知ることの出来ない。おそらくは我々の住む世界と重なり合うように異界あるいは「幽世」と呼ばれる次元が存在し、その次元においては科学とは違う特殊なエネルギーが現象を支配しているのではないかと思う。
 呪術が使えるのは、異界と現世の間にぶれのようなものが生じている状況の下だけなのである。

 さて、私がこのような考えを持つにいたったのは、御坂町の各地にて確認されている怪奇現象を記録してきたからである。此処に記したのは、あくまで単純な思いつきに過ぎず、更なる研究を続ける必要がある。しかし、私にはどうやらほとんど時間が残っていないらしい。そこで、適切なる力の行使ができる者に、この記述と私の記録を託そうと思う。この覚書については害がないであろうが、もう一つの記録については、力の行使ができないものには多大な害を及ぼすことを、私は私を慕ってくれた一人の学生の身を通して体験した。彼女のような被害を出さないためにも、力のない者には決して渡らないように、最後にささやかながらの抵抗を行っておこうと思う。願わくは、私の最後の願いが呪術に昇華してほしいものである。
―芳賀源蔵 研究記録ノートVOL.45 最終頁より

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『客人のこと』

 いくら冷静になろうとも、いくら客観的になろうとも、自分のことを正確に観察できる者はいない。何故なら、観察とは観察者とは別のものを対象にして行われる行為だからである。多少は観察をすることができたとしても、正確性は失われる。
 町の異変もしかりである。町は絶えず変化しているが、その変化に気がつけるのは町の人々ではない。町の者は町と共に移り変わるがゆえに、町の異変には気がつかない。異変に気がつけるのは町の外から来た客人のみである。
 他方で、客人は町の秩序を揺るがす風を呼び込む存在でもある。ゆえに町が静的な状態にあるとき、町は客人を排斥する。これは至って通常のことであり、客人を絶えず受け入れてしまえば、町が町でなくなってしまうのである。
 そういうわけで、客人は異変を観察できる唯一の存在であり、また異変を惹きつける性質をも有しているのである。

『記録者のこと』

 ある日、私の元に一人の男が訪れた。彼は自らのことを客人と名乗る。そのような男が私のうちに何の用であるかと尋ねれば、彼は私に紙の束を差し出した。私が戸惑っていると、男はなにやら不思議な話を語り始めるのである。私はとっさに紙の束を掴みペンを走らせたのだが、一体何のためにこのような行為を行ったのかは皆目見当がつかない。男の話は不思議な話ではあったが、聞きなれない話ではなかった。隣の爺が同じ事を話していたのを聞いていたし、そのときも何処かにメモを取ったのである。
 一つめの話を終えると、男は大きく呼吸をし、私が書きとめた紙を取り上げた。そして、遠めに眺めて満足げに頷く。私が彼に尋ねようとすると、彼は紙を机に置き、新しい話を始める。わけもわからず私は彼の話を書きとめ始める。
 そういう風に一晩の間、男の話を次々と紙に書き留めると、初めに男に渡された紙の束のほとんどが黒く染まっていた。男は朝日が出る一時間ほど前になると、明日の夜も紙の束を持ってやってくると告げて家を後にした。
 次の夜も男は予告どおりにやってきて、私は昨夜と同じように記録を続けている。これが一週間ほど続いた。随分と紙の束も多くなったと感じた頃、いつもよりも一時間ほど遅くに男がやってきた。
 その日の男は紙束を持たず、ただ一冊のノートを手に持って玄関に立ち尽くしていた。今日は書かないのかと尋ねると、私は立派に記録者になったと述べて、ノートを一冊差し出した。
 怪異は記録されることによって記憶される。記憶されることによって次の機会に対処が出来る。それと、町の異変は町のものにきけ。男はそれだけ言い残して私の家を後にした。
それ以来、男が家を訪ねてくることはない。私は、今でも記録をつけ続けている。

『空に沈む魚のこと』

 妻が自宅の庭先でぼんやりと空を眺めていた。先ほど通りかかったときも同じ格好で空を観ていたので気になって、妻に尋ねてみると、妻は空に魚が沈んでいくという。
 私は妻が指差す方向を見てみるが、いつもの通り、何も見えない。私はいつもの通り、紙束を持って妻に詳しく話を聞き始める。
 曰く、空から魚が飛び出してきて地上まで辿り着いたかと思うと、丸っこい風船のようなものを加えて空へと沈んでいくのだそうだ。それは定期的に繰り返されていて、昨日からもう五、六回は見かけたという。妻はそれが何であるかまではわからないらしい。ただ、魚が空へと沈んでいくのは不思議だなと空を見つめていたらしい。
 妻が見かけたという垣根の向こう側を探してみると、野良犬の死骸を見つけてしまった。死骸はどうも衰弱死のようである。
 空へと沈んだ魚はこの野良犬の生気を吸っていたのであろうか。私は妻に魚が降りてきたときには食べられないように気をつけるよう伝えた。

『町の異変のこと』

 町の異変はいつもあちらこちらで起きているわけではないと、その男は言う。異変が起きるのにはそれなりの理由があるのだと。私の枕元で理由について長々と講義を垂れてくれるのだが、紙束がないのでメモを取ることができない。目を覚ましてからもう一度講義をして欲しいと懇願してみるのだが、男は講義をやめようとしない。
 結局、夜通し講義を聴かされ続けたが、覚えていたのは町の異変が決して無造作に起きるわけではないということだけである。どうにも異変は他の異変との兼ね合いで起きるものだとか、目的があって生まれるものだとか、色々話していたはずなのだが、これ以降枕元に男が立つことがなく、講義を聴きなおすことは出来ていない。

『紙束のこと』

 記録用のノートが一冊終わった頃に、やはり初めのように紙束に記録するほうがよいのではないかと思い、近所の紙屋を訪れた。その日の紙屋はいつもに比べてどうにも照明が暗く、隣で品定めをしている客の顔すら見ることができないものだった。店員に明るくならないのかと尋ねてみると、今は明るく出来ないのだと返答される。仕方がないから、薄明かりの中で書きやすそうな紙束を一掴み買って帰る。
 晩に妻にその話をすると近所に紙屋はないという。しかし、私はいつもそこの紙屋で紙を買っている記憶があるし、私の目の前には紙が存在する。いったいこの紙束は何処から出てきたものだというのであろう。
 その後、紙束がなくなったならば紙屋に行こうと思っていたが、紙束は一向に減ることがなかった。順調に棚の中の記録は増えているのに紙束は減らない。妻が買い足しているのかとも思ったのだが、もし買い足していないのであれば、どうして増えているのかがわからない。私は紙束の出所を確かめることが怖くて今でも確かめていない。だから、私はあの紙屋に行っていない。

―御坂異界録―
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自分で書いた文章なのに覚えてないなー。
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1986/09/15
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色んなところで見かける人もいるかもしれませんがあまり気にせず。
ブログとか作ってみたけれど続くかどうかがわからないので、暇な人だけ見ればいいような。
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