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作成した小説を保管・公開しているブログです。 現在は連作短編が二篇の他,短編小説,エッセイの類を掲載しています。 連作小説の更新ペースは随時。二か月に三回を最低ラインとして目指しています。
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カステラの話
現実逃避おしまい。本文作るより、パスワード探すことの方が大変とかどうかしてる。


以下本文
*******

 数年ぶりに実家に帰ると、母校がカステラに覆われたとのニュースが流れていた。現在2年生の妹と共に校舎を訪れてみると、確かに巨大なカステラに覆われている。僕は正直戸惑いが隠せないのだが、隣の妹はあっけらかんとしていて「今日は休みかなー」と笑顔を見せている。

 「休みかな」ではない。校舎がカステラに覆われるなどという珍事に対して妹はあまりに反応が薄いのではないだろうか。校舎の端では先生達がスコップでカステラを掘り返しており、「10時ころには山田工務店から重機が来ます!」などと叫んでいる声が聞こえる。

 「あーあ、ブルドーザーとか来たらあっという間にカステラなくなるじゃん。ぶー」妹は先生達の様子に不満げだ。僕はというと未だに状況がつかめないままだ。「お兄ちゃん、何そんなにきょとんとしているの?」妹よ、この光景は普通きょとんとするものだと兄は思う。

 「え?」妹は兄が何を言っているのかがわからないと目を丸くする。「だって、よくあることじゃない」僕は妹がわからない。「お兄ちゃんって本当に周り見てないんだねー。家の向かいの木村さんのところも、犬小屋がカステラに覆われて朝騒いでいたじゃない」そんな馬鹿な。

 妹の突拍子のない発言に僕は呆れかえってしまい、とりあえず彼女を無視して先生方を手伝おうと校内に踏み出した。「待って待って、一度帰ろうよ、どうせブルドーザー来るし」妹は僕の腕を掴んで必死に食い止めようとする。どうせ校舎が掘り出されるのを遅らせたいのだろう。

 僕は妹の意見を聞く気がないのだが、妹は落ち着いてと繰り返すばかりだ。「そんなに慌てなくても別に何も問題ないでしょ?」妹は必死に訴える。問題といえば母校が一日休校になる程度で、特に人身被害があるわけでもない。僕が慌てたところで何の意味もないというのだ。

 確かに、それはそうなのだが…僕は返す言葉がなく、結局、妹に押し切られ帰宅する羽目になった。しかし、本当にこれでよいのだろうか。高校の校舎が丸ごとカステラに覆われるなど、放置してはいけない珍事なのではないだろうか。

 そこで、僕はふと違和感を覚えた。誰がどう見たって先ほどの光景は珍事だ。にも関わらず、街中は何もなかったかのように平和そのものだ。学校に遅刻しそうな学生が走っているのを見かける程度で、通行人はほとんどいない。「休校の連絡来たって」妹が携帯を見せて微笑む。

 一体どうなっているのだろうか。謎だ。「だから言ってるじゃん大事じゃないって」と言われてもそうは思えない。「んーもう…あ、ほらあそこの駐車場!」妹が声を上げて道路の向かいにあるコンビニを指差す。そこには乗用車よりやや大きい程度のカステラが鎮座していた。

 カステラが鎮座? 僕は何度もその様子を観直してみる。しかし、何度見ても確かにカステラだ。大きさから考えれば、車がカステラに覆われたのだろう。コンビニから出てきたスーツ姿の男性がカステラの前まできて、天を仰いだ。どうやら車の持ち主らしい。

 「ああ、ええ。ちょっとコンビニに寄っている間に…はい。すいません。一時間くらいでなんとかなるかと…」男が天を仰いでいたのはそれほど長時間ではなく、携帯で職場に連絡を入れると、コンビニに戻り、スコップを持って出てきたと思えばカステラを掘り出し始めた。

 「あの」妹が声をかけると、男はスコップを片手にじっと僕と妹を見る。「手伝いましょうか」「ほんとに?助かるよ。店長さんに言えばスコップ貸してもらえるから、でも学校はいいの」「あ、学校休校で」「そういえば朝のラジオでやっていたな…△△高校かい」「ええ」

 二人は当たり前にカステラで埋もれた母校の話をするし、コンビニの店長は快くスコップを貸してくれる。中身を傷つけないようにと先に緩衝材を付けて、力の入れ方に気をつけてなどと助言まで添えて。こうして、どういうわけか、僕は妹と一緒に男の車を掘り出している。

 30分ほど掘り進んだところで、カステラに埋もれていた車の全体像が現れ、「あとは走っているうちに落ちるでしょ」と男。ひとしきり僕と妹、店長にお礼を言うと、何事もなかったかのように車に乗り職場へと向かっていく。後に残ったのは車についていたカステラだけだ。

 このカステラはどうするのか。そう尋ねると、店長は気にするなという。妹の方を見ると、市の回収業者がやってきて処分するから大丈夫とのこと。「んー人助けしたし、家に帰ってのんびりおやつでも食べるかー」一時間前に朝食を食べた妹ののんきな声が横で響く。

 家に帰ると、木村さんの家の前に「カステラ回収車」と大きくペイントされたごみ収集車が止まっており、ブルーの制服を着た作業員が袋詰めしたカステラを延々と後ろの投入口に投げ込んでいる。

 どうやら妹の言うとおり、この街では物がカステラに覆われることは日常茶飯事のようだ。観念した様子の僕に、妹が勝ち誇ったように胸を張る。「ほら、私の言ったとおりだった。お兄ちゃんは昔から周囲への関心がなさすぎるのよ!」

 そう言われても、その辺にカステラがあるか注意深く観察する人間が何処にいるのだろうか。いや、この街にはそういう人がたくさんいるのかもしれない。僕は帰省して半日もしないうちに、なんだかとても疲れてしまい、玄関でへたり込んでしまった。

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内容はともかく、短編というとこれくらいの量が適切なのかなー。などと。
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色んなところで見かける人もいるかもしれませんがあまり気にせず。
ブログとか作ってみたけれど続くかどうかがわからないので、暇な人だけ見ればいいような。
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