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対言語戦争(覚書 2
うっかり続き作っちゃった。

対言語戦争(覚書→■■■

以下本文>

3.
 さて、対言語戦争をめぐる事の発端について今の僕が語れるのはこれが限界だ。以前利用していた言語においてはもう少し細かい説明ができていたようにも思うのだが、これが第14世代日本言語における表現の限界なのか、それとも言語の乗り換えが生じるたびに発生する過去の消失効果の影響を受けたものなのかは判然としない。正しく検証できるのであれば、一度その検証を行うことが、現在の戦況をひっくり返す「偉大なる一撃」を生み出すことに繋がるような気はしているけれど、残念ながら僕の仕事は記録であり、侵略言語に対して「偉大なる一撃」を打ち込む英雄でも、前線で妨害言語の雨を降らせる一等兵でもない。

 とにもかくにも、対言語戦争における言語側の一撃は、僕らに多大なダメージを与え、勝ち誇ったように新種の言語が拡散を続けている間、僕たちは生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされ続けていたといえる。これに対し、僕たちがとりえた対抗手段はコミュニケーションのための共通言語、今でいる日本言語や英国圏言語と呼ばれる一定期間体系を保持できる言語の開発だ。

 それはどのようにして開発されていったのか、人間の言語に対する反撃の第一歩についての歴史は、対言語戦争の発端と比較しても錯綜し謎に包まれた部分が大きい。というのも、言語たちの先制攻撃により徹底的に他者との交流を破壊されていた、場合によっては自己の中ですらまともな応答ができなくなっていた現状において、それを正しく認識、記録する術を持つことは不可能だったからだ。
 僕たちは、とにかく隣に立つ「何か」と共通する指標を探し回り、砂漠の真ん中のオアシスの一滴を追い求めるかのごとく地べたを這い回っていたのだと思う。この場合、這い回っていたのは言語基盤の上といったほうが適切だろうか。

 僕が知る限り、第1世代日本言語は初期型の共通言語の中でも比較的善戦したほうだ。先に紹介した政治家たちが絶対の盾などと主張したくなった気持ちもわかる。第1世代日本言語の確立において、日本言語圏がとった戦略はとても単純だった。対言語戦争の初期において自動言語生成プログラムは今ほど普遍的な存在ではなかったことに着目し(たまたま近くに強力な核が存在していなかったともいえる)、プログラムに気が付かれることなく、人力のみで共通言語を構築していったのだ。戦争初期の侵略言語たちは、旧時代の言語に類似した形をとってこっそりと侵入・占領を繰り返すのが基本戦術であったことに、日本言語は識字率の高さと統一化が図られていた経緯が偶然にも重なったため、侵略言語に侵されてはいたものの、日本言語圏内では比較的意思疎通を行える共同体が存在していたことが幸運であったともいえよう。

 少なくても4町向こうのゲートボール仲間である八百屋のげんさんと、染物屋のトメさんとなら会話が通じる。2丁目のポチに群がっている頭と背中の概念が混同してしまい、ひらすらブリッジを繰り返していた集団は、不思議なことに食べ物の名称についてのみ他の集団と共通の言語を有している。そうした小さな共通項を頼りに、日本言語圏内の住民たちは再び共通言語を確立していったのである。

 対して初期型の共通言語においてもっとも派手な失策を行ったのはご存じのとおり英国語圏である。自動言語生成プログラムに対して多大な開発費を投下し続け、各国で開発争いを続けていたという英国語圏内は、人々が対言語戦争の存在を認知し混乱に見舞われている中、積極的に自動言語生成プログラムを頼った。もともと複数の言語が入り乱れていた地域だからなのか、げんさんとトメさんのような幸運が存在しなかったからなのかはわからないが、彼らは共通言語を立て直すために自動言語生成プログラムによる統一言語の開発を行ったのである。

 統一言語の開発直後において、英国語圏内は瞬く間に復興をなしたといわれているが、この事態が言語側にとっては渡りに船であったことは、今となってみれば誰にとっても明らかである。現に英国語圏内は復興を宣言したと同時に、後に「偽装統一言語『第1世代英国語』」と呼ばれる侵略言語たちにより旧言語を完全に奪われ、その後まもなく行われた意図的な大規模不規則的文節変化によって滅亡しかけた歴史があるという。以前、日本言語圏内に存在していた古書の一部を英国語圏内に持ち込んだ際に、(もちろん侵略言語たちにより書き換えられた可能性は否定できないが)一文字たりとも同じ言語を発見できなかったことから、これらの歴史はおおよそ真実であり、英国語圏内の侵略言語は猛威を振るったのであろうと僕は思っている。

 彼らが巧みであったのは、当時展開されていた侵略言語とは違い、一度は統一言語のそぶりを見せてやったことである。自動言語生成プログラムを利用した英国語圏内の人間たちは、うまい具合に自分たちが旧言語を復権させたと思い込み、第1世代英国語と称した侵略言語たちをばらまいた。その言語を受け取った人間たちも混乱から救われた安堵から、第1世代英国語が戦争以前に自らが利用していた言語かどうか省みることがなかった。彼らは人間の彼らに対する敵対行動に乗っかって効率的に覇権を奪い、他の地域における侵略言語たちのその後の基本戦術を方向付ける役割を担ったのだ。


続きはまた何か思いついたり時間があったら書く>
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色んなところで見かける人もいるかもしれませんがあまり気にせず。
ブログとか作ってみたけれど続くかどうかがわからないので、暇な人だけ見ればいいような。
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