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作成した小説を保管・公開しているブログです。 現在は連作短編が二篇の他,短編小説,エッセイの類を掲載しています。 連作小説の更新ペースは随時。二か月に三回を最低ラインとして目指しています。
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迷い家6
黒猫堂怪奇絵巻1 煙々羅
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家1
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家2
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家3
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家4
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家5

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10

【6月9日】

 夜宮は、巻目市役所環境管理部第四課変異性災害対策係の応接室にて、一人の少年と向き合っていた。
 真柴翔。彼は、夜宮が今回の事件の調査に入った際に、七鳴神社の場所を教えてくれた少年だ。夜宮はその時に彼が言っていた“くろくろ様”という言葉が気になった。
 “くろくろ様”という言葉を再び聞いたのは秋山を探して風見山地区で聞きこみを続けていた時だ。どうも尋ねてみると風見山地区の子どもの中で流行っている遊びらしいが、何故“くろくろ様”という名前なのかは誰に聞いてもわからない。夜宮が尋ねたなかで手掛かりを持っていそうなのは、“くろくろ様”を場所と関連付けて話していた、真柴翔だけだった。
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迷い家5
黒猫堂怪奇絵巻1 煙々羅
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家1
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家2
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家3
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家4

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 小国の三浦某と云ふは村一の金持なり。今より二三代目の主人、まだ家は貧しくして、妻は少しく魯鈍なりき。
 この妻ある日門の前を流るゝ小さき川に沿ひて蕗を採りに入りしに、よき物少なければ次第に谷奥深く登りたり。
 さてふと見れば立派なる黒き門の家あり。
 訝しけれど門の中に入りて見るに、大なる庭にて紅白の花一面に咲き鷄多く遊べり。其庭を裏の方へ廻れば、牛小屋ありて牛多く居り、馬舎ありて馬多く居れども、一向に人は居らず。終に玄関より上がりたるに、その次の間には朱と黒との膳椀あまた取出したり。奥の坐敷には火鉢ありて鉄瓶の湯のたぎれるを見たり。
 されども終に人影は無ければ、もしや山男の家では無いかと急に恐ろしくなり、駆け出して家に帰りたり。

 柳田國男『遠野物語』より

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迷い家4
黒猫堂怪奇絵巻1 煙々羅
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家1
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家2
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家3

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7 
 幽霊や怪異は存在しない。人間の知識の向上によって霊的な存在は技術的に解明されている。そのような価値観を有する者に対して、私たちが干渉するのは簡単ではない。
 例えば、鬼火を自由に操る者や、霊的な力を自在に顕現できる者にとっては簡単な事なのかもしれない。相手を目の前に現にそれを見せつければよいのだから。
 しかし、私のように力なき者、与えられた術式の検討を重ね、どうにかこちらの領域に足を置いている者にとって、他者への干渉は高い壁だ。
 私の属する集団の中で、いくつもの事例を目にしてきたことで、私の内でもようやく干渉の手順が組み上がってきたところだ。
 現実に怪異と言う名の毒をほんの少し混ぜる。私が用いるそれはとても単純な方法。
 例えば、仕事場に漠然とした不安を抱えているものに、洒落にもならない都市伝説を教えてみる。それだけでは、人が怪異の側へと転がり落ちることはないだろう。だが、例えば、都市伝説の一端を、火葬場で生きた人間を焼いているように見える外形を整えてやれば、心に蒔かれた怪異の種は簡単に発芽する。
 その先にあるのは、現代にあって現代ではない。現実と異界の境界線、私たちが最も容易に干渉できる“場”だ。
 しかし、それでもなお、私は力を持つ者に及ばないというのだろうか。



迷い家3
黒猫堂怪奇絵巻1 煙々羅
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家1
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家2
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 見知らぬ人間が頭に入り込んでくる。代わりに、自分がなくなっていく。
 男は、彼女に打ち明けた。彼女は、彼が疲れているのだと思った。だから、彼女は彼に休息を勧めた。そして。
 ある日、彼は姿を消した。彼が彼女に書き遺したメモには、見知らぬ人物の名前と、身体を乗っ取られないうちに帰るのだという走り書きが残っていた。彼女に対して、「見知らぬ誰かへ ありがとう」との書置きを添えて。
 彼のことが不安である一方、酷い別れ方だと彼女は思った。
 けれども、彼女はすぐに彼の言葉の真意を知る。
 彼女もまた、見知らぬ誰かの記憶を保持し始めたからだ。
 その過程は、彼女の日記に詳細に書かれていた。彼女と連絡が取れなくなった親族が部屋に入って見つけたものだ。部屋の中には彼女の姿はなかった。代わりにいたのは、彼女の日記をめくっている件の男だったという。
 男は彼女の家族達を見て、微笑んだ。そして、問うた。彼女はどこにいるのだろうと。

――西原当麻「現代怪奇譚蒐集」より

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迷い家2
黒猫堂怪奇絵巻1 煙々羅
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家1
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【5月31日 朝】

 窓の外を窺うと、見慣れない車両が一台、路肩に停車していた。この一時間全く動く気配がなく、定期的に中で何かが光る。まるでカメラで何処かを撮影しているようである。
 火群が瞳を利用し、記憶が欠けている間に尾行がついたのだろうか。このタイミングで尾行がついたのだとすれば、尾行者の目的は迎田涼子、あるいはあのカフェテリアに後ろ暗いことがあるといったところだろう。
 迎田涼子の職場を当たるよりも、尾行者を締め上げる方が早いのではないか。火群は、姿見で服装を確認しながらそんなことを思う。クリーニングしたてのブランドスーツに身を包み、黒ぶちの眼鏡をかけるだけで、鏡に映るのはまるで別人だ。
 火群は、正面玄関から堂々と外へ出て、件の車両の窓をたたく。乗っているのは男一人。怪訝そうな表情で火群をねめつける。
 火群は眼鏡をはずして窓に顔の位置を合わせ、もう一度顔の横で窓をたたいてやる。男の眼が大きく見開かれ、慌てて車のエンジンキーを回そうとしたので、火群は窓ガラスに向けて右手を突きだした。やはり、車の男は火群を尾行していた者らしい。
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プロフィール
HN:
若草八雲
年齢:
37
性別:
非公開
誕生日:
1986/09/15
職業:
××××
趣味:
読書とか創作とか
自己紹介:
色んなところで見かける人もいるかもしれませんがあまり気にせず。
ブログとか作ってみたけれど続くかどうかがわからないので、暇な人だけ見ればいいような。
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