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作成した小説を保管・公開しているブログです。 現在は連作短編が二篇の他,短編小説,エッセイの類を掲載しています。 連作小説の更新ペースは随時。二か月に三回を最低ラインとして目指しています。
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鶏男の話
鶏男の話。
*******

「鶏男? ああ、F村の噂か。最近はよく聞くけど……見たことあるかって? 落ち着きなよ、あんな話を真に受けるなんて、どうかしてるんじゃないかい?」
――
「鶏男なんて言うのは、F村が人寄せのためにばら撒いてる噂だろうさ。ほら、あそこのなんていったかな……有名な家があるだろう? あそこは金持ちだからね、ふと奇抜な事をやってみたくなるもんなのさ」
――
「鶏男って言うのは、鳥神さんの事かい? ええ? いや、それは鳥神とは違いそうだねぇ……そんな話初めて聞いたけれども」
――
「鶏男を観た奴がいるって話なら聞いたことはあるが、「俺は鶏男を観た」って奴にはあったことがないな。これは、ほら……なんていったっけ、そう都市伝説の類なんだろう?」
――

 F県F村には、鶏男という怪人がいる。私が、そんな奇妙な噂を聞いたのは、大学時代の同期のMからだった。彼は大学を卒業してからも民俗学の研究という名目で日本各地を旅している。
 Mは大学時代から、一人でふらふらと旅に出かけては奇妙な噂を持ちかえる奴だった。サークル活動や日々の生活にあけくれる私たちの横で、一月、二月と、どこともしれない田舎町を歩いて回る。「あんな調子じゃ就職活動にも響くであろうし、将来を考えているのだろうか?」、私たちは当時そのようにMを評したが、心のどこかであのように好き勝手に生きているMを羨んでいたように思う。
 特に私たちのMへの羨望が目立っていたのは、「怪談話の日」を執り行う時だったと思う。Mが集めてくる話は、現代においては作り話と切って捨てられる、いわゆる怪談話であることが多かった。M曰く、怪談というのは、その土地の歴史や定住している人々の生活を映し出す鏡らしい。私たちには何の事だかさっぱりであったが、それでもMの持ってくる奇妙な話と、それを集めるに至った旅の話が聞きたくて、「怪談話の日」は決まって皆で盛り上がった。
 Mから鶏男の話を初めて聞いたのも、この怪談話の日であったように記憶している。

 その時Mが話した噂は、「F県F村には頭は鶏で、身体が人間の鶏男が住んでおり、村人とともに野良仕事に励んでいるのだ」という、なんともオチのない話であった。怪談話と言えば人を怖がらせるタイミングを用意しているのが常であるし、常日頃集めた噂を語るとき、Mは私たちの反応を注意深く観察し、時には怖がらせる創作を挿入したりしていたものである。
 ところが、その話に限っては全くそうした工夫が見られず、深夜で皆が眠かったこともあいまったからなのか、誰一人として話を深く聞きだすことはなかった。けれども、Mのその話を聞いてから暫くの間。、私の胸の内にはしこりが残り続けた。
 Mの持ってくる話の多くは、奇妙な出来事に人が戸惑い、時には何かしらの被害を受けるという構図が多いし、前にも書いたとおりM自身がそうした展開を付け加えることもある。けれども、鶏男の話においてはそのような要素が一切存在しない。怖がられることもなく、鶏男は村の生活になじんでしまっているのだ。
 ちょっとでも想像を巡らせてみれば違和感が残る。頭が鶏の人間が、近所で平然と生活している。そんな空間で人間は正気を保てるのだろうか。自分と少しでも違う者は、他の人との間で軋轢を生み、差別を生む。外見からして人ならざる者であるならば、なおさらそういった反応があるのが自然のように私には思える。F県F村はそうした問題が起きず、平穏無事に鶏男が暮らしているという点において、狂気に満ちているとしか思えないのだ。
 だから、Mからこの話を聞いたとき、Mが無理やり作った話なのだろうと疑った。私の疑問に対しては、Mは「まだはっきりとしたことを調べてはいないから」とお茶を濁してしまったため、真偽のほどはわからない。

 その後、鶏男の話を再び聞く機会はなく、私たちは大学を卒業、散り散りの生活を始めた。私もあの怪談話の日に語られた「鶏男の話」などすっかり忘れて日々の生活を送っていた。ところが、先日、久しぶりに出会ったMは私にこう言ったのだ。「君は、僕が話した鶏男の話を覚えているか」と。

 Mは大学を卒業後も依然として日本各地の怪談話の収集に力を入れていたらしく、たまたまF県F村近郊に立ち寄ることがあったので、大学時代に聞いた鶏男の噂を調べてみることにしたのだと言う。 
 彼は「調べてみたのだがよくわからない」と前置きを付けた上で、このような話をしてくれた。

+++++
 F県F村に住んでいる鶏男は朝が早い。日が昇る前にぱちりと目を覚ますと準備運動がてら家の屋根に登る。朝の空気を吸いながら大きく伸びをして、日の出を待ちかまえる。東の空が明らんだときを狙い彼は朝一番の鳴き声を上げ、その声でF村の朝が始まるのである。
 鶏男はどこからどうみても化け物である。頭は鶏であるし、身体は人間の形をしているが所々に羽毛は生えている。人語を解し、鳥とも交流ができるらしい。
F村を尋ね歩いても、鶏男がいつからF村に住んでいるのかは定かではない。ある村人はこう言う。現在の村人たちの親、祖父母の代においてもF村では朝の訪れは鶏の鳴き声であったというから、そのころから鶏男はいたのかもしれないと。それは只の鶏と違うのかと尋ねると、今の鶏男も違う以上は、違ったのであろうと。
 誰を尋ねてもそのような返答であるから、困り果てて本人を尋ねようにも、鶏男はF村の人以外とは顔を合わせないのであるという。現に、Mは三日程度F村に滞留していたが、一度もそれらしい姿を観ることはなかったという。
+++++
 この話を聞いた私の素直な感想は、やはりそれは単なる作り話であって、遠方はるばる訪れた客に対してF村の村人が悪戯をするための仕掛けなのではないか、というものだった。この考え方にはMも一応頷いてくれて、どうやらF村最寄りのF町においても、そのような噂であるとまことしやかにささやかれているのだと言う。
 ただ、一通り鶏男の話について話し終わった後、Mは一つだけ不思議な体験をしたと述べた。F村にいると、本当に朝が早いらしいのだ。滞在中、どんなに夜遅くまで起きていようとも、朝日が昇った直後には目が覚めてしまう。それも、何かの鳴き声に無理やり起こされたような感覚があったのだという。真面目な顔でそう語るMに対して、私は何やら久しぶりに会った友人に化かされているような気分に陥ったが、その体験を語る彼の言葉は何かに脅えたような雰囲気を含んでいたことも否定できない。
 その日、飲み屋の外での別れ際、怪談を蒐集していて実際にそれらしきものに出遭ったのは初めてだったんだと、Mは若干青ざめた顔をして駅へと向かっていったのである。

 以来、私がMに出遭ったことはない。連絡もないままもう何か月も過ぎている。もしかしたら、鶏男に何かされたのではないだろうか。私がMにしてやれることは、ほとんど残っていない。だから、せめてMの述べたことをこうして纏めていくことが幾分かの役に立てばいい。私はそう願っている。

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ふくらませたプロットを放置してるから数年以内になんとかしてあげたい。
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HN:
若草八雲
年齢:
37
性別:
非公開
誕生日:
1986/09/15
職業:
××××
趣味:
読書とか創作とか
自己紹介:
色んなところで見かける人もいるかもしれませんがあまり気にせず。
ブログとか作ってみたけれど続くかどうかがわからないので、暇な人だけ見ればいいような。
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