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作成した小説を保管・公開しているブログです。 現在は連作短編が二篇の他,短編小説,エッセイの類を掲載しています。 連作小説の更新ペースは随時。二か月に三回を最低ラインとして目指しています。
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人形迷路2
黒猫堂怪奇絵巻7話目 人形迷路2話目

小説家の人たちってどうやって警察の描写練習しているのだろう
といつも不思議に思うんですが、資料を読んでいるに違いない。

警察の。警察の資料を読むのです。
と固い気持ちを持ちました。

人形迷路1 

今までの黒猫堂怪奇絵巻
黒猫堂怪奇絵巻1 煙々羅
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家
黒猫堂怪奇絵巻4.5 薄闇は隣で嗤う
黒猫堂怪奇絵巻5 キルロイ
黒猫堂怪奇絵巻6 ネガイカナヘバ1
―――――――――


巻目駅ホーム内で人身事故。被害者は男性。ホームに電車が突き落とされたとの通報が入り、当直の巻目市警察署強行犯係第1班、通称加治田班は慌ただしく巻目駅へと向かった。
班長加治田勇雄(カジターイサオ)に連れだって、斎藤茂(サイトウ‐シゲル)は眠気を押さえながらも現場に臨場する。
事件は終電の直前に発生したらしく、駅の周辺には、移動手段を失った帰宅客たちがタクシー乗り場に集中している。
「ホシは、ガイシャの会社の同僚だそうだ」
 先に臨場した班員からの無線連絡。加治田は細く鋭い目を険しく歪めて、その情報を斎藤に告げた。
「同僚って、じゃあ怨恨」
「憶測は持つな。志摩(シマ)が聞き込みを始めている。ただ、どうにも現場に面倒なのがいるな」
 加治田はポケットから取り出したたばこのケースを、煙草を取り出す前に握りつぶした。視線の先には改札口に制服警官と立つ大柄な男がいた。同じく強行犯係の刑事、結城辰巳(ユウキ‐タツミ)。ただし、彼は強行犯係のいずれの班にも属していない。市役所と連携して、一風変わった事件の後処理をしていると聞く。
 加治田は大股で改札口に近寄り、結城の前に立つやいなや、彼のネクタイを掴んだ。結城辰巳は、身長185センチと、署内でも大柄な男だが、183センチの加治田もまたこれに負けない大きな男である。ただ、がっしりとしたラガーマンをイメージさせる結城に対して絡む、加治田には、長身痩躯という言葉が似合う。傍から見ると、暴力団が警官に食って掛かっているようにみえるので、部下としては、外部でこうした対応は控えてほしいところだ。
「おい結城ぃ。なんでお前こんなところにいる」
 力任せに結城の首を惹き寄せ、加治田は目を細める。
「これはウチのヤマなんだよ。オカルト専門なら専門らしく」
「私は目撃者です。好き好んでこんな夜中に事件に首突っ込んだりしませんって」
 対する結城は穏やかな声で加治田に対応する。精一杯、加治田の立場を立てての発言なのだろうと斎藤は思っているが、一方でそうした対応が、加治田にはまるで自分が下品であるというような主張に見えるのだ。
 加治田の顔から血の気が引いていくのを見て、斎藤は慌てて二人の間に割って入った。
「お疲れ様です。結城警部補。お話、聞こえていました。今日は、非番だったのですか」
 加治田に睨まれるが構わない。加治田の苛立ちは同僚ではなく事件に向けてもらう。
「知人のところに出かけていてね。ようやく帰り着いたところで、この騒ぎだ」
「そうなんですね。志摩からの聞き取りはまだ終わっていないんですね」
「まだだ。今は目撃者で時間が取れない人の連絡先を聞いて回っているところだろう、改札の奥にいる」
 気づかい感謝しますと早々とお礼を言い、加治田を改札の奥へと押し込んでしまう。あの程度でも捜査に口を出したと怒りに震えるのが加治田という男だ。
 加治田を改札奥の志摩のところへと押しながら、後ろを振り返ると結城が頭を下げた。頭を下げるのはこちらの方だと思うと、少し心が痛む。



 終電直前ということもあり、ダイヤへの影響は少なかったらしい。駅前はタクシーを待つ人でごったがえしていたが、改札の中は閑散としている。姿が見えるのは駅員と鑑識のみだ。斎藤は、加治田を志摩の下に送り出し、先に事故現場、駅のホームへと向かった。
 巻目駅のホームは線路への転落を防ぐため、転落防止柵が設置されている。転落防止柵の高さはおおよそ120センチ。列車への乗降口部分は、転落防止柵の開閉機能が付いているが、ほかの部分は乗客がぶつかっても外れることはない。乗降口部分であっても、列車が停止してから開くようになっているため、突然そこが開くことは考えにくい。
現場の様子からすると被害者が落ちたのは、開閉機能のある車両の出入り口部分ではなく、通常の転落防止柵の部分だ。斎藤の身長は173センチ。転落防止柵の隣に立ってみるもこれをうっかり乗り越えるのは考えにくい。
おそらく、被害者の状況もさして変わらないだろう。だが、何者かが被害者を突き落としたと言うのも実のところしっくりこない。仮に柵に向かって押されたとしても、柵に衝突するだけのように思える。
無理やり柵から落とそうとすれば当然のごとく騒ぎになるだろう。
「斎藤さん。加治田班長が呼んでいます。これからホシの話を聞くそうです」
事件の概要を想像しながら現場を眺めていると、ホームへと上がってきた志摩に声をかけられた。
「わかった。ところで、志摩。お前はどう思う?」
「どうって? まあひどい事件ですよ。巻目駅のホームで線路転落って聞いたことあります? 転落防止柵越えて人を落とすなんて」
 そこだ。斎藤にはどうにもそれがひっかかる。いらだちを隠せず、柵の上部をこんこんと指で叩いた。何かが舞ったように見えて、斎藤は柵の上に目を走らせた。とても小さな、ミニチュアみたいな足跡が、ホームの柵の上についている。手に付いたのはその粉だ。

 容疑者は、30代前半の男性。ストライプの入った紺のスーツに茶色のビジネスバッグ。座っているので身長はよくわからないが、中肉中背で、取り立てて筋肉質には見えない。
男は、しきりに額を押さえ、頭を下げている。顔面は青く血の気が引いているのは加治田の迫力によるものなのか、自分が犯した罪の重さのためか。
志摩によると、男性は、被害者をホームに突き落とした後、特に逃げるわけでもなく、ホームの電車を待ったという。近くにいた目撃者が気付いた時には遅く、被害者はホームに入ってきた電車に轢かれ死亡した。
偶然居合わせた結城辰巳警部補他数名が容疑者を取り押さえ、駅員を呼んだ。その間、容疑者は特に抵抗はなかったという。
「もう一度、今日、君がやったことについて話して」
 室内に志摩と斎藤が入ったことを確認し、加治田は再度、容疑者に向き合った。
「はい。駅のホームで同僚を見たんです。普段は終電帰りなんてことはないのに、出張帰りかなと思いました。それで、近寄って話かけようとしたのです」
「その時は、突き落とすつもりはなかった?」
「それは、どうでしょう。よくわかりません。私は、同僚の後ろまで行って。そうしたら、間もなく電車がホームに到着するというアナウンスが入りました。このままじゃ、話をする時間もろくに取れないなと思って」
 落としたのか。被害者は言葉を切り、首を傾げ少し考え込むような素振りを見せた。
「それで、後ろまで行ってしゃがんだんです。転落防止柵は高いから、脚を持たないとだめだと思って、両脚を抱えて一気に持ち上げました。そうしたら、同僚がするっとホームに落ちていって、あとは電車が到着してみなさんに取り押さえられたんです」
「だからよぉ。その話にうんそうだねと頷ける奴がいるかよ」
 どうやら、斎藤が来る前にも加治田は同じ話を聞いたらしい。
「そう、言われましても。さっきも話しましたが、私が駅でしたことは、それで全部です」
「落とした奴はどんな奴だった」
「どんなって……同僚です」
「部署は」
「同じです。私も彼も営業をやっています。あまり顔を合わせる機会はないですが」
「なんかトラブルがあったんじゃないのか」
「個人的な付き合いはほとんどないので、思い当たる節はありません」
「だったらよぉ。なんで今日は声をかけようと思ったんだ」
「それは、明日の会議の件で確認しておきたいことがあって」
 男はそういってカバンの中から紙を取り出す。
「明日の部署会議で話す予定の内容について、出張先で資料を読んでいたら内容が少し違っていたんです。なので、彼にもその旨を伝えておこうと思って」
 資料を示しながら話すその様子は、同僚を落とした人間のようには思えない。資料にかかれていることの説明はとても流暢で、それが薄気味悪い。
「もう一度聞くぞ。お前が線路に落とした同僚との間には、特段のトラブルはなかった」
「はい」
「会議のことで聞きたいことがあって声をかけた」
「ええ」
「じゃあ、どうして同僚をホームに落としたんだ」 
 途端に被疑者の顔から表情が抜け落ちる。首を傾げ、真剣に悩むような素振りをみせる。それが加治田の勘に障る行為であることは傍から見ても明白だ。
 怒鳴り声が響く前に、志摩が加治田を手招きした。加治田は志摩と連れ立って機嫌悪そうに事務室の外に出る。事務室を出る瞬間、加治田は斎藤の背中を一回、平手でたたいた。あとは任せるという合図だ。
 斎藤は改めて容疑者の前に座った。
「申し訳ありません。今の時間をいただいて、少し話を聞いてもかまいませんか」
 男は頷いた。まずは名前を確認したいと告げると、男は伊藤友来(イトウ‐トモキ)と名乗った。続けて、被害者の名前は笠井武(カサイ‐タケル)であると述べた。
「伊藤さん。あなたにはこれから、警察署でさっきの刑事が聞いていた話と同じ話を聞かせてもらうことになります。ですが、その前に、もう一度確認しておきたい」
「どうして笠井をホームから落としたか、ですか」
 どうやら、こちら側が何に引っかかっているのか、伊藤は理解をしているようだ。斎藤は、感情的にならないように、ゆっくりと彼に頷いた。
「先ほどの方にも、駅員にも話したんですが、私もよくわからないんです。笠井に声をかけようとしていたことは本当です。でも、彼の後ろに立った後、私がやったのは、笠井に声をかけることではなく、彼の両足を持ち上げたことでした。その理由を尋ねられても、そうであった以上に、今の私には説明ができないのです」
「聞き方を変えましょう。脚を持ち上げた後、笠井さんをどうしようと思っていたのですか」
「そう、ですね。それなら答えられそうです。私は笠井を持ち上げて、ホームに落とそうと思っていました。彼の両足を持ち上げたのはそもそも、転落防止用の柵が邪魔だったからです」
 伊藤は同僚を落とすためには両脚を持ち上げる必要があると認識し、行為に出たということになる。そこだけを見れば、十分に殺意のある行為だ。
 だが、彼の話には動機がない。それどころか、同僚を持ち上げる前と後では全く別の人間が話しているかのようである。
「伊藤さん。笠井さんをホームに落とすとき、もしくは駅に下りてから笠井さんをみかけるまでの間、何か変わったことはありましたか」
「変わったこと。私が彼を落とした以外にですか」
 頷く。伊藤の中では自分が殺人を犯したことは『変わったこと』とされている。
「とても小さな子供を見かけましたよ。転落防止用の柵の上を走っていて、危ないなあと思ったんです」
 転落防止用の柵の上を走っていた。斎藤はホームでみかけた柵の上の足跡を思い出した。
「でも、あの子供、だれも気に留めなかったんです。危ないじゃあないですか。声をかけようと思ったら、笠井を見つけて。結局、どこに行ったんだろう」
 どうやら子供の件は伊藤の殺人とは関連性がないようだ。だが、これは面倒なヤマを引き当てたのではないだろうか。斎藤は、伊藤の様子に嫌な予感を覚えた。

*****
 端末から猿楽の音が響いた。どこにいるのか尋ねてみると、答える必要はないでしょうと気だるい声が戻ってきた。
「あなたから連絡なんて珍しいですね。何かあったんですか」 
 秋山恭輔は、猿楽の音が五月蠅いのか、いつもより大きな声で話している。一応、こちらの用件を聞くつもりではあるようなので、火群は満足感を覚えた。
「少し相談というか、意見を聞きたいことが」
「秋マコトの件なら、僕は反対ですよ。確かに彼には才能がある。僕もあなたと同じで、使える人間だと思っています。それでも、彼が嫌がるなら引き込むべきじゃない」
 なぜ秋マコトの話を秋山が知っているのだ。驚いて声を上げると、秋山は夜宮沙耶から相談がきたと語った。加藤の手引きだろう。
「それじゃあ、手が離せないので切りますよ」
 慌てて秋山を引き留める。火群が連絡したのは秋のスカウトの件ではない。昼間にみかけた小人について、かいつまんで事情を話した。
「小人? あまり関わったことがないです。データベースにない以上、対策係は知らない事例でしょう?」
 聞き方が悪かった。火群は、秋山に自分が記憶している小人の事例を話した。
 火群が覚えている事例は、小人による自殺未遂事件だ。マンション内で発生した小人の影響で、小人が通った3部屋の人間が全員自殺を図った。小人を発見した祓い師がいたため、全員が死に至る前に発見され、介抱されたという。
「それなら……聞いたことがあります。市外での事例ですね」
 市外?
「ええ。2ヶ月ほどまえに森園市(モリゾノ‐シ)で発生した事例ですよ、たぶん。小人の影響で自殺を図るというのは随分と珍しいと思ったのを覚えています」
 森園市。巻目市から30キロほど離れたところに位置する街だ。そんな場所の変異性災害案件をどうして自分が覚えているのか、火群にはわからなかった。
「森園市の変異性災害対策係は、ほかの地区や祓い師に向けて情報発信をしているんです」
 初耳だ。もっといえば、森園市に変異性災害対策係があることも初めて知った。
「できて新しいですからね。全国で、6例目。設立したのは約半年前です。森園は巻目市と違って、古くからの祓い師も、設立時のメンバーもいないので、人員不足だそうですよ。怪異の情報を発信することで、外からの支援を求めたんです。確か、初めは心霊スポットめぐりのような情報で、段々と怪異退治の実例集に変わってきたのが2か月前くらいです。
ちなみに、彼らが得意とするのは小人の案件だそうです。設立に当たって小人に特化した祓い師を見つけたのだそうです」
 小人に特化した祓い師。小人が出現しやすいからといって、専門がいるとは意外な事実だ。
「僕も同意見です。ただ、森園ではその祓い師のおかげで小人への対処は素早くできるそうです。火群係長が知っている小人の事例も、その祓い師が対処したものかもしれません」
 にしても、どうして秋山はそれほどまでに森園市の実情に詳しいのか。
「それは、僕のところにもスカウトが来たからです」
 思わずせき込んでしまう。なら現在秋山がいるのは
「違いますよ。全くの別件です。森園の仕事まで受けなくても十分仕事はあります。多いくらいです。用件はそれだけなら切りますよ。気になるなら森園市に直接問い合わせればいいじゃあないですか」
 秋山は面倒くさそうな声を出して一方的に電話を切った。
 
 秋山への電話から一晩。火群は森園市市役所市民相談室のソファに座っていた。
秋山の言う通り、森園市の変異性災害対策係は非常に友好的だ。小人の件で問い合わせたいことがあって、と電話をかけたら、すぐに会って話したいと言われた。火群が巻目市の人間と知ると、距離も近いから迎えに出ると言われたため、慌てて足を運ぶことになった。
 電話で指示された通りに市役所を尋ねると、火群は市民相談室と表札の出ている応接間に通された。
「わざわざ足を運んでもらって申し訳ありません。急なお話で、本来ならこちらから出向くところでしたのに、本当に何と言ったらよいのか」
 相談室に入ってきた初老の男性は、禿げ上がった頭を撫でながら何度も火群に頭を下げた。一通り謝りとおしたかと思うと、自己紹介を忘れていたと名刺を差し出す。
 森園市変異性災害対策室室長 飴井三太郎(アメイ‐サンタロウ)。剥げた頭に丸い瞳、ずんぐりむっくりの体型で、おおよそ怪異対策を主とする部署の長とは思えない。
「こちらでは対策室、なんですね」
「ええ。巻目市のように環境管理部の中には組み込んでおりません。設立までもドタバタしていましてようやく体制を整えようと動き始めているところです」
 飴井が語る森園市の変異性災害対策室は、確かに火群の知るそれとは大きく異なっていた。人員は、現在5名。室長の飴井の他に、情報収集担当が1名、外部コンサルタント、すなわち祓い師の募集管理担当が2名。そして新人が1名配属されている。
 この対策室の特徴は、構成員がほとんど怪異を感知できない点だという。
「それで、どうやって業務を行っているのですか」
 火群の問いに、飴井は懐からタッチパネル式の携帯端末を取り出した。彼が画面に触れると、いくつもの施設や人間の写真が画面上に現れた。
「環境省が作成しているデータベース。従来、このデータベースは参考にすらされない代物だった。何しろ祓い師や霊感の強い担当者がいれば、変異性災害は感知できるのですから。
 他方、私たちには霊感がない。だから、これを最大限に利用する。全員がデータベースにアクセスできる体制をとり、市内で発生した変異性災害を検索できる。加えて、過去、環境省のデータベースに登録された全国各地の変異性災害案件を条件付け、関連付けすることで類例を集める仕掛けを入れています」
 要するに、オカルトスポットや都市伝説をまとめた辞典です。飴井はそう言って端末を火群に手渡した。
 巷に存在する、オカルト書籍、ネットワークスペース上のリンク集、データベースと同様に、飴井たちは怪異をデータベース化、検索エンジンを作成したというわけか。
「正確なデータベースさえあれば、霊感がなくても変異性災害の疑いが強い事件を絞り込める。あとは、祓い師に変異性災害の確認と対策をお願いします。終わった後はデータベースにフィードバックする」
理に適っている。少なくても霊感のない者が片っ端からあるかどうかもわからない変異性災害を求めて町を巡回するのよりも確実性が高い。
「そうはいっても、霊感をお持ちの方からすれば納得のいかない調査方法でしょう」
 飴井の言葉に、火群は思わず苦笑いを返した。変異性災害、怪異のデータベース化は、環境省内で変異性災害対策係を立ち上げ時に、一番初めに議論された。しかし、導入を推進した当の本人たちが、その必要性を見出せずに単にデータベースの更新だけを続けている。
 飴井たちは環境省が持てあましたデータベースを当初の目的の通りに運用することを目指している。。
「私達もまだ実際にどの程度変異性災害対策として効果があるのか検証している段階ですし、検証されている段階なのだと思います。それでも、参考になるのであれば火群さんにも見ていただきたいですし、先達からの助言をいただけるならとてもありがたい」
 深々と頭を下げる飴井に、火群は思わず恐縮した。岸などを連れてくればデータベースの有用性について話ができたかもしれないが、火群は霊感に頼って怪異を探すほうが向いている。立場上データベースを漁ることが多いが、それでも最後に方針を決めるのは自分の直感と霊感だ。
 それに、火群が森園市を訪れたのは変異性災害対策室との技術交流のためではなく
「と、今日、こちらにお越しいただいたのは、小人に関する話を伺いたい、ということでしたよね」
 顔に出ていたのだろうか。火群が口火を切る前に、飴井は端末を操作し誰かを呼び出した。
「そろそろ出勤してくることですから、あとは担当者とお話を進めたほうがわかりやすいと思います」
「小人の担当者がいるのですか?」
「小人の、というわけではありません。ただ、変異性災害については彼のほうが圧倒的に詳しい。私たちも彼から色々と学びたいと思っているのです」
 火群さんからご教授願おうと思っているのと同じくらい。飴井の世辞か本音かわからない言葉を呑みこむ前に、応接室の扉が開き、男が一人顔を出した。
 灰色のスーツから生えたグローブをはいた両手。
あからさまに霊感の込められた両手に火群は無意識に身構えた。こちらの緊張が伝わったのか、男は両手の力を抜き、火群に頭を下げた。その様子をみていた飴井の眼がしらがピクリと痙攣したように見えた。
「予定よりも遅れてしまい申し訳ありません。先月付で森園市変異性対策室に配属になりました、亜浦創史(アウラ‐ソウジ)と申します。飴井室長より、変異性災害ケース、小人の情報について話すようにと呼ばれてやってきました」
「そうかしこまらないで。亜浦君。彼は、一月前に本省からうちに転属になったメンバーでね。対策室で初めての霊感もちなんです」
 霊感もち。怪異を感知するだけでなく、自らの霊感を感知以外の要因に転用できる人間なのだろう。火群は顔を上げた亜浦をよく見た。刈り上げた髪と筋肉質な肉体からは、元気のいい体育会系の人間を思い浮かべるが、その目つきは鋭い。
身長は180センチ前半、おそらく火群のほうが若干小さい。スーツの上等さとはちぐはぐに運動靴を履いている。靴底には泥がついているが、あいにく外は快晴だ。両手に嵌めたグローブといい、靴の雰囲気と言い、どうにもスーツがかみ合っていない。まるで、ここに来るためだけにスーツを着込んだようだ。
「こちらは、前から話をしていた私たちの先輩。巻目市の変異性災害対策係に勤める火群たまきさんだ。今日は小人について、私たちの知恵を借りたいと訪問してくれたのです」
「私たち? 失礼ですが、トクラの間違いでは」
 トクラ。知らない名前だ。
「もちろん、トクラさんに話を伺いたいという要望があれば、会えるように取り計らってください」
 亜浦に反論の暇を与えず、飴井は応接室から退出した。目の前の男とどのように接したらいいものか、声をかけるべきか否か、火群が考えを巡らせているうちに、亜浦は懐から名刺大の紙を取り出し、ペンで走り書きをした。
――ここでは話しにくいですし、外に出ませんか?
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プロフィール
HN:
若草八雲
年齢:
37
性別:
非公開
誕生日:
1986/09/15
職業:
××××
趣味:
読書とか創作とか
自己紹介:
色んなところで見かける人もいるかもしれませんがあまり気にせず。
ブログとか作ってみたけれど続くかどうかがわからないので、暇な人だけ見ればいいような。
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