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作成した小説を保管・公開しているブログです。 現在は連作短編が二篇の他,短編小説,エッセイの類を掲載しています。 連作小説の更新ペースは随時。二か月に三回を最低ラインとして目指しています。
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ラフテキスト エンドロール
しばらく書くことが止まっていたため、リハビリを兼ねて短編を書いています。

全体で1万5千~3万くらいでとどまってくれることを目標に。

以下、ラフテキスト
ーーーーーーーーーーーーーー
仮題(エンドロール)

 人が死に直面したときに見る奇妙な風景。
 天使。三途の川。走馬灯。
 多くの人々により語られているそれらの風景が、本当に存在するものなのか。
 私たちはその答えを自分が死ぬ瞬間まで知ることができない。
 自らが体感したことを語っている。そのように話す人もいるが、それはあくまで臨死体験であって、死そのものではない。九死に一生を得た人が死の間際に見た光景と、死んでしまった人が死の間際に見た光景が同一であると、どうして断言できるだろうか。
 死に直面した人間は、天使も三途の川も、走馬灯すら見ることはない。
 少なくても、私が見ているこの光景は、そういった類のものではない。

 視界の半分を埋め尽くす不可解な文字列。足元から頭上へと絶え間なく流れる文字列とともに、私の身体は地面へと落ちていく。
 耳元で鳴り響くこの曲はなんであったか。そうだ、エドワード・エルガーの「威風堂々」。
 私に最も相応しくない曲と、文字列に包まれて、私の生は終わりを迎える。

 これは、まるでエンドロールだ。「私」という題名の記録映画の終わり。
 
 落ちていく景色の中で、時計の文字盤が視界に入った。11時59分。12時ちょうどに向かって針が振れた瞬間、身体に衝撃が加わり。

―――――――――




 耳元で携帯電話が鳴り響き、常田歩美は悪夢から目覚めた。
寒い。身体をすっぽり包んだ布団の中から右手だけを伸ばしてベッドサイドの携帯電話をつかみ取る。
布団の中で画面の表示を確認するころには、携帯電話は鳴りやんでいた。布団の中を照らす人工の光は、彼女の寝ている間に十数回にわたり着信が来ていたことを知らせていた。
 発信者は小妻直史。常田の上司だ。発信は約1時間前から断続的にある。シフトまではまだ4時間以上もあるというのに、これだけの電話があるということは、面倒事に違いがない。
 寝起きで重い身体を起こし、常田は上司へと連絡を入れた。

 彼女が職場に姿を見せたのはその30分後、午後1時30である。

「おはようございます。小妻課長」
 髪のセットもままならずに出勤したが、昼のシフトの社員がぽつぽつとみられるだけでオフィスは閑散としていた。常田の所属する第3チームの島に至っては、眉間にしわを寄せてホワイトボードの前に立つ小妻直史以外のメンバーがいない。
「ああ、おはよう。常田君。何度も電話して済まなかった」
「いいえ、私こそ、気が付かずに熟睡していてすみません」
 熟睡。本当のことを言えば、熟睡とはいえない。常田はここのところ悪夢にうなされている。自分が死ぬ瞬間の夢、盛大なエンドロールにより演出され、地面へと落下していく夢だ。
 ここのところ……? そんなに頻繁にこんな夢を見ていただろうか。
 胸に湧いたふとした疑問は、上司の状況説明を聞いているうちに忘れ去られていく。
「ちょっと、待ってください。電話で説明をいただいたときにも意味がわからなかったんですが、今の説明ももう一度確認させてもらっていいですか」
 一通りの説明を終えた小妻と、その概略が書かれたホワイトボードを前に、常田はまるで自分が業界に入ったばかりで右も左もわからない新人であるかのような気分になった。
「小妻課長の説明は、要するに、うちのチームが作成したプログラムを走らせたせいで、テストユーザーが昏睡状態になったということでしょうか」
「だから、何度もそう説明しているだろう。ウチが開発したアプリケーションのテストによって、3名の人間が病院に搬送された。上からの指示は、状況の早期収束と原因究明だ」
「待ってください。そんなこと、あり得るわけがないじゃないですか。私たちが作ったのはただの収益予測のアプリケーションですよ?」
 そうだ。小妻が問題視したアプリケーションは、飲食店の新規出店の際の収益予測を行うに過ぎないのだ。ネットワーク上から近隣の店舗数や当該エリア付近で書き込まれたSNSの情報などを検索していき、これとユーザーが入力する各種情報等を組み合わせ、集客数、集客層を予測、新規店舗を出店した場合の収益予測を算出する。
 人間を昏睡に落とすような要素など、何一つ存在しない。
「わかっている。だが、現に病院に搬送された3名は、アプリケーションのテスト中に突然意識を失った。画面の表示に致命的な欠陥等がなかったかと聞かれたよ」
 電子機器の画面で、何度も強い光が点滅すると、気分が悪くなる人がいるという話はしっている。しかし、収益予測ソフトにはそのような機能などもちろんない。
「常田。君の言いたいことはわかっているつもりだ。私も、人が昏睡に落ちるような機能を付けた覚えはない。連絡が入ってから、私も実際に動かしてみたが、どこをどう動かしたところでそのような欠陥が起こりそうにはない。ほかのスタッフには、病院に搬送されたテストユーザーの端末の回収に行ってもらっているが、端末のほかのアプリケーションと相互干渉を起こしたのかなんなのか、皆目見当が付かない。何しろ、私は営業畑の人間だ。専門家ではないからな」
 それで、連絡が付きやすかった常田を呼んだというわけか。けれども、常田にも思い当たる節はない。

 その後、夜勤のスタッフも含め、連絡が付いたスタッフの協力を仰ぎながら、事実の把握と原因の究明に走り回ったが、常田が呼ばれた時から何一つ進展はない。時間だけが過ぎていき、午後10時を回っている。
 関係各所からの問い合わせに、小妻も疲労が色濃くなっていた。
 テストユーザーのところから端末を回収した諸岡が戻ってきたのはちょうどそのころだった。
「諸岡。遅かったじゃないか」
 回収に向かってから9時間。テストユーザーは市内にいるというのに、それほど時間がかかるなど信じられない。小妻はここぞとばかりに不満をぶつけた。しかし、それを受ける諸岡は、いつものように縮こまるわけでもなく、ただ頷くばかりだ。
「おい。だから、俺の質問に答えろ。どうして、こんなに」
「遅くなったんだ」
 質問の最後を諸岡が横取りする。小妻の顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていくのが見えた。なんてことをしてくれたのだ。常田の背中に冷汗が伝った。
「お前っ」
 フロア中に響く諸岡の怒声を予感して、常田は耳を押さえた。しかし、肝心の怒声はいつまでたってもやってこない。代わりにやってきたのは、何か大きなものが倒れる音と、フロアのほかのスタッフのざわめきだった。
「な、なんだ」
「おい、誰か、救急車呼べ」
「小妻課長が倒れたぞ」
 周りのスタッフの声で、常田は小妻が突然床に倒れた事実を知った。目をそらしていた小妻たちのほうを見ると、なるほど確かに小妻がいない。ヘッドフォンをした諸岡が携帯電話の画面を開いて目の前にいたはずの常田に対して見せていた。その画面に何が写っているのか、常田は知りたくなかった
「やっぱり」
「諸岡君……何したの?」
「あ、常田さん、出社してたんだ。ねぇ、常田さん。佐木敦って知ってる?」
 佐木敦。なんで、諸岡がその名前を知っているのか。常田の頭は目の前で起きている唐突な展開についていけなくなっていた。

 そして、そこから彼女がどこで何を行っていたのか、彼女自身にも確かな記憶がない。
 次にはっきりと意識を取り戻したとき、常田は会社の屋上に立っていた。落下防止柵を乗り越え、屋上の縁に裸足で立っている自分に気が付き、常田は慌てて後退りをしようとした。しかし、身体がいうことを聞いてくれない。
 ここから動くことを身体が許さない。
「ど、どうなってるのよ……」
 一歩先は空中だ。路上を歩く人々はとても小さい。常田の務める会社が入っているビルは12階建。ここから落ちたならば、到底助かることはないだろう。

 落ちる?
 常田は、例の悪夢を思い出した。これは、まるであの悪夢のような。

 眼下に広がる町の音と、風の音しか聞こえなかったはずの屋上で、騒がしい音楽が響き始める。それは、耳元で突然なっているかのようにも、足元から響いてきているかにも思える。
 エドワード・エルガーの「威風堂々」。
 常田歩美は直感した。これは、あの悪夢と同じ光景だ。だとすれば。
 嫌な予感は必ず当たる。彼女が小さい時から続いているジンクスだ。
 屋上の縁が歪み、白い靄のようなものが現れたかと思うと、それらは文字列になって彼女の眼前に上ってくる。
 漢字なのか、記号なのか、彼女が生きてきた25年間のなかで一度も見たことのない文字。いや、正確には悪夢の中だけでは見たことがある。

 いいや、それも正確ではないかもしれない。

 視界が文字列に浸食されていく様子を見ながら、常田は思い出していた。
 自分は、この光景に何度も出会っていることを。悪夢などではない。
 常田歩美は、この奇妙な光景を何度も体験しているのだ。
 そして、その結末をよく知っている。
 なぜ、今まで思い出せなかった。いったい何が起こっている。大量の疑問が沸き起こるも、それは一つの問題を前に消し飛んでしまう。
 このままでは、死ぬ。
 どうにか身体を後退させようとするが、まるで自分の体ではないかのように言うことをきかない。常田がどんなに叫ぼうとも、その声は音にならず、威風堂々の音量が大きくなるだけだった。
 そして。
 常田は何度目かわからない死への一歩を踏み出す。身体が宙に浮かび、重力に引きずられ、落下を始める。「威風堂々」が大きく鳴り響き、視界を埋める文字列が勢いを増す。
 エンドロールが盛り上がっていく。
 もはやどうしようもない。常田はこのまま12階下の地面に激突し、死ぬ。
 納得がいかない。何が、どうなって、こうなったのだ。
 プログラムのバグとは何だったのか、諸岡は小妻に何をしたのか、諸岡はなぜ、佐木のことを知っていたのか、私はなぜ飛び降りているのか、たった12時間の間に、何が起きたというのか。
なぜ何回も同じことが繰り返されるのか?
 エンドロールは疑問に答えない。ただ、決められた文字列を流し、常田の人生に幕を引く。
 理不尽だ。こんな理不尽が許されてたまるか。
 常田の視界に時計の文字盤が見える。時刻は11時59分。針が振れて12時ちょうどになる瞬間、常田は地面に衝突し

――――――――

 耳元で携帯電話が鳴り響く。寒い。
 常田歩美は自らを包んでいる布団の中から右手だけを外にだし、ベッドサイドに手を伸ばす。素早く布団の中に引き込んだが、携帯電話は既に鳴りやんでいる。
 着信の相手を確認する。小妻直史。常田が目覚める1時間前から何度も電話をかけてきたらしい。
 要件は、おそらく収益予測プログラムのことだろう。
「なんで……?」
 小妻からの電話の内容が収益予測プログラムのことだと、どうして思ったのか。
 その仕事はユーザーテストの段階に進んでいる。今のところ、良好な回答を得ているはずだ。なのに、どうしてそのことが頭をよぎったのか。
 常田は起き上がり、身体を包んでいた布団をよけた。
 そして、立ち上がり。
「威風堂々」
 どこか遠くで、聞き慣れたクラッシックが流れているような気がして、常田は思わず肩を抱いた。耳鳴りだろうか。だが、単なる耳鳴りにしては、なぜかとても怖い。

************

死ぬ直前を繰り返す話っていうの、一度やってみたいなと思ってたのですが、繰り返しが何の意味があるのか意味づけしていくことが難しいシチュエーションだなと思うところです。







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プロフィール
HN:
若草八雲
年齢:
37
性別:
非公開
誕生日:
1986/09/15
職業:
××××
趣味:
読書とか創作とか
自己紹介:
色んなところで見かける人もいるかもしれませんがあまり気にせず。
ブログとか作ってみたけれど続くかどうかがわからないので、暇な人だけ見ればいいような。
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