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作成した小説を保管・公開しているブログです。 現在は連作短編が二篇の他,短編小説,エッセイの類を掲載しています。 連作小説の更新ペースは随時。二か月に三回を最低ラインとして目指しています。
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羊の壁
ひつじ年だし羊の話を書こう。思い立ったものの、羊ってあんまりよく知らない生き物だった。

後ほど、羊もふもふな話をちゃんと書こうと思います。

ーーーーーーーー

羊の壁


今から書くのは、僕が実家に帰省したときの話だ。
君には話したことがあると思うけれど、僕の実家は○○県の▲▲という小さな町にある。




学生のころは定期的に実家に帰っていた。
今は仕事が忙しくて、実家に帰る機会が減った。
まあ、実家に帰ったところで、遊ぶ場所なんてないんだけど。
だから、実家で家族と過ごすのに飽きたところで、
特に行く当てもなく駅前のファストフード店に入って時間をつぶすのが常だった。
僕が今から話すのは、そのファストフード店で時間つぶしをしているときに聞いた話だ。
その話をしてくれたのは、その日、僕の隣に座ったタイラさんという人の話だ。
40歳くらいの男の人で、冬にもかかわらず、薄手のジャケットにジーパン姿だった。
タイラさんから聞いた話は十分奇妙なものなんだけど、彼はそれ以外にも奇妙でね。
初め、タイラさんはファストフード店のメニューを見て、首をかしげていた。
メニューをくるくるとまわしながら、何度もメニューを読むんだけれど、
その一部が聞いたことのないような発音で、僕はびっくりしてタイラさんを見た。
タイラさんは自分を見つめる僕に気が付いて、目を丸くして、メニューを差し出した。
そして、僕に聞いたんだ。
「この、ハ■△◎※ーってなんだ?」
たぶん、ハンバーガーのことを言っているのだろう。そう思って、僕は答えた。
タイラさんは僕の言葉を何度か反芻してそのあと、美味しいかと尋ねた。
ファストフードのハンバーガーがおいしいかと聞かれると、答えに詰まる。
だって、安さのために味を犠牲にしている部分があるんだから。
まずくはないよと答えると、男は慌ててハンバーガーを買いに行った。
そして、戻ってきて水を飲みながら、僕に話し始めた。
助けてくれたお礼だって。
それは、この町のどこかにあるという羊の壁の話だ。

あんた、厄落としの羊のこと知っているか
そう、羊だ。一時期噂になっていただろう? 知らないだって?
羊だよ、羊。そいつは壁にめり込んでいるんだ。
路地裏の真っ暗な壁の中から顔と前足だけを出して、だらしなく街を眺めている。
行き止まりなのか? さあ、壁の向こうに道があったのか、俺はよく知らない。
そこに壁があって、羊が埋まっているだけなんだ。
もちろん、羊だから言葉は話さない。もそもそと口を動かしているだけだ。
ただな、その羊は厄落としをしてくれる、ツキを戻してくれるというほうが正しいのか。

迷信?
いやいや、厄落としの羊は都市伝説でも迷信でもない。
確かに存在していて、ツキを戻してくれる。
どうしてわかるのか? おいおい、君は察しが悪いな。
こんなところで見ず知らずの君に唐突にこんな話をすると思うかい?
そうだよ、俺はその厄落としの羊に遭ったんだ。

昨日までの俺はちょっとした面倒に巻き込まれていて、追われていたんだ。
まあ、よくある話さ。追っ手に捕まれば何もかも失う。
危険を冒して手に入れた財産が消えるどころか、下手すればそこで人生が終わる。
逃げ延びるしか生きる道はない。
追手達は俺の家を取り囲んで、町中を探し回った。
俺はどうにかこうにか町の外に出ようとしたんだが、町の外に出る道は限られている。
その全部に追手が待ち構えていたんだ。絶望的だった。
そんな時だよ、羊に出会ったのは。
確か、そこの……ん、そこじゃなかったのか。とにかくこのあたりの路地裏に羊はいた。
いつもなら反対側の歩道に出られるところに、真っ黒な壁があった。真っ黒なんだ。
昼間なのにそんなことがあるのかと思って踏み出してみた。そうしたら壁だよ。
叩いても、触っても、固い感触があるわけではないのに、先に進めない。
まったく手ごたえはないが、壁が確かにそこにある。
路地の外には追手の声が響いている。もう通りにでるのは不可能だ。
俺の運は目の前の真っ黒な壁に突き当たったところで終わりというわけだ。
なんという運のつき。そう思って壁に頭を付けた時だ。
俺は、壁から羊が顔を出しているのに気が付いた。
初めからいたのか、その時出てきたのかわからない。
ただ、羊の顔と前足が壁に埋まっていたことに、俺はそのとき初めて気が付いたのさ。

羊の目はぐるりぐるりと回転していて、視線が定まることがなかった。
ひっきりなしに口を動かしているが、草を食んでいるのかどうかもわからない。
そもそも壁の周りには草はない。
とても気味が悪かった。だが、俺には羊の壁以外にいけるところがない。
通りにでれば追手に捕まってしまうからな。
どうしたらいいかわからずに、途方に暮れた。
その時だ。羊はぐるりぐるりとまわしていた目を俺に向けて、気味の悪い声で鳴いた。
――食べ物をくれ
草なんて持ってない。それに、俺は追われている身だ。
こんな意味の分からないものに構っている時間などはない。
――食べ物をくれ
羊はそうやって鳴く。その声に引き留められて、俺は身動きが取れない。
まあ、羊が鳴こうが鳴くまいが路地裏からは出られなかったんだが。
そうこうしているうちに、路地裏にいた俺の姿を見つけたのか、追手が路地に入ってきた。
ここで捕まるか、それならその前に背中の妙な羊に何かをあげてもいいんじゃないか。
そう思った。
俺はとっさにポケットをまさぐって、手にした紙切れを羊に投げた
紙を食べるのは羊じゃなくて、ヤギだって? そんなこと知ったこっちゃない。
俺は草を持ってなかったんだから。それに、あいつは食べたんだよ。俺の投げた紙を。
そして、目をぱちくりさせて、壁から出てきた。

のそり、のそり。埋まっていた肩が抜け出てきて、羊は前かがみになった。
「あぁんたぁ やく おらあ く」
そいつは、人の言葉でそういった。意味がわからない?
まあ、普段は人の声なんて話さないからな、うまく発音できなかったんだろう。
“あんたの厄は俺が食う” その羊はそう言った。
羊は前足で俺の脚を掴んで、勢いよく引っ張った。
思いのほか力が強くてな。俺は地面に引き倒された。そのまま羊の足元に引きずられた。
追手は壁から出てきた羊の姿に驚いたのか、真っ白な顔をして路地から逃げ出した。
俺は訳が分からず羊に引きずられ、叫んだ。
力の限り叫んだ。今まで追手だった男の名前を読んだが、誰も助けには来なかった。
気が付けば、俺は羊に押し倒され、羊は俺の上で、じっと俺の顔を見ていたんだ。
口をもそもそと動かし続ける羊。気味が悪かった。
「やく く」
 片言の日本語でそういって、羊は俺の頭にぱくりと食いついた。

羊に頭を食われたなら、俺は死んでるんじゃないかって? それは、まあそうだな。
けれども、俺はこうやって生きているし、追手はいない。
気が付いたら俺は街角に立っていた。羊の壁も、追手もいない。
ポケットの中には掴んだ幸運。俺は羊の壁に厄払いをされたのさ。

ところで、このハンバーガー、本当においしいのか?
初めて食べたもんでよくわからないのだが、味がしない。
いや、味はするんだが、なんというか……草っぽいんだ。
タイラさんはそう言って、両目をぐるりぐるりとまわしながら首を傾げた。
僕は自分の買ったハンバーガーをかじってみたけれど、
草の味はしない。入っているキャベツの味すらソースの味で隠れている。
それがこの店のハンバーガーだ。

ん。まあ気にしないでくれ。羊に助けられた後からずっとこうなんだよ。
何を食べても草っぽいっていうか、味がしないっていうかさ。
まあ、それ自体は気にならないんだ。おなかに溜まればいいのさ。
話を聞いてくれて、ありがとうな。

タイラさんはそう言って、お金をおいて店を出ていった。
店を出るとき、ズボンから尻尾のようなものが見えたのが気になったけど、
僕には見ず知らずの男の人、しかも奇妙な怪談を話して店を出ていく人を追いかけて尻尾のことを聞くまでの度胸はない。

その後も僕は実家に出かける度にあのファストフード店に行く。
けれども、一度もタイラさんを見かけたことはない。
代わりに、ファストフード店内で、変わったうわさは聞くんだ。
町には羊が向こう側から町に人を連れてくるって。
羊が人を連れてくると、ファストフード店の裏に出てくるから、
向こう側の人が最初に食べるのはハンバーガーなんだって。
向こう側がどこなのか、連れてきた人は何なのか、そういう背景は何もない。
至って平凡な都市伝説の噂さ。

でも、僕は噂を聞くたび、タイラさんのことを思い出すんだ。
タイラさんは、そういう都市伝説に巻き込まれた人なのかもしれないね。

ところでさ、僕は君に都市伝説を話したかったわけじゃないんだ。
まあ、都市伝説は君への土産みたいなものかな。不思議な話、集めているって聞いたから。

本題はここからなんだ。
僕なりにどこを調べてもそれらしいものは載ってなくてさ。
君なら知っているかもしれない。そう思ってメールをしたんだ。

羊って、どんな生き物なんだい?

ーーーーーーーー
 2015年は、短編等を書く量も増やしていこうかと思います。
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性別:
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1986/09/15
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趣味:
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色んなところで見かける人もいるかもしれませんがあまり気にせず。
ブログとか作ってみたけれど続くかどうかがわからないので、暇な人だけ見ればいいような。
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