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作成した小説を保管・公開しているブログです。 現在は連作短編が二篇の他,短編小説,エッセイの類を掲載しています。 連作小説の更新ペースは随時。二か月に三回を最低ラインとして目指しています。
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狩人の矛盾【4:パーティー・ナイト】後編
ドッペルゲンガーのパラドックスの続きです。

書くのが苦手なシーンについてはどうしても文章がいつも以上に下手になるの,訓練でしか改善しないのだろうなあなどと思います。
ドッペルゲンガーのパラドックスは,あちらこちらで練習をするなかでも,やったことのない話なので書くのが難しいなーって思うことが多くて,書きたい内容に実力が伴っていかないことはもどかしいことなのだという実感が湧きます。
訓練訓練。

 前回まで
 狩人の矛盾【1:マック・デュケイン氏について】
 狩人の矛盾【2:カフェテリアの一幕】
 狩人の矛盾【3:騎士団という人々】
 狩人の矛盾【4:パーティー・ナイト】前編

――――――――――



【公社の不当なアバター独占,構造材独占を許すな】
【“居住地”の自治への不当介入に断固抗議せよ】
【いまこそ立ち上がるべき時,決起の時は来た】
【デイグリーン市長,公社へ多額の献金,オベリスク事業との癒着疑惑】

 エリア5の放送チャンネルや,デイグリーンの地方局のニュースを垂れ流しにすれば,一定数で公社の批判が流れてくる。この事実は,エリア5がエリア7などから比べれば“居住地”の住人を野放しにしていることを示すに違いない。しかし,エリア5の住人達にとっては,公社による住人の締め付けは現状においても不当なものだという認識の方が強い。

 特に,デイグリーンは地下鉄駅の周辺にあり,開発当初には多くのドッペルゲンガーと争いがあった,すなわち構造材が多く採取された地域だ。その恩恵を受けているから,この街には特殊な建築物が多いし,ドッペルゲンガーのコアを基に作られる武器である,アバターの生産量が多く,“はみだし者”たちの力が強い。
 結局のところ,デイグリーンという街は,今も自分たちの力でこの街を治めていきたいと思っているし,発展させていきたいと思っているのである。
 だから,公社が気にくわない。オベリスクの周りに小さくまとまり,普段は街に出てくることのない彼ら。昨今では,市長を通じてデイグリーンの“はみだし者”たちが集めた構造材の取引を行い,更にはオベリスクの増強作業のための資金調達とかこつけて高い税金を払わせる。そうした行為に対する不満によってデイグリーンは現在ちょっとした火薬庫のような扱いになっている。
「市長のオベリスクとの繋がりなんて話,ちょっと前に出てきた与太話だろう?」
 そもそも,デイグリーンから見えるオベリスクはエリア5を覆う天蓋を支える大黒柱だ。常にメンテナンスは行われているが,大規模な改修事業が必要な作りにはなっていない。カズヤの知る限り,オベリスク事業などというものは存在しないはずなのだ。
「与太話だとしても,住民の間ではまるで真実のように出回っていくものですよ」
 とJ・Jはブラウンの作ったサラダをつまみながらカズヤがエリア7を訪れていた間のニュースペーパーを広げる。
 彼女が目を惹いたニュースには付箋が貼られているが,その多くはカズヤが手に取っている雑誌と同じ,デイグリーン付近の不穏な動きに関する記事である。
「ん? これはなんだ。黄金の夜?」
 雑誌の斜め読みをしていると,間に一枚挟まれたチラシが出てくる。J・Jがそれを見て渋い表情を見せ,ブラウンがそそくさとキッチンに入っていった。
 どうやらブラウンはこの件に関わりたくないようだ。
「最近はやりの大衆酒場よ」
 大衆酒場。カズヤは酒場に顔を出すことが少ないが,それでも一通り近所の酒場について知っているつもりだったが,聞いたことがない。それに,チラシ全体が意味もなくきらめいており,酒場のチラシにしては少々趣味が悪い。
「出来たばかりなのか」
「いいえ,前からあったのよ。ただ,最近はこうしてチラシまで配るようになったというだけのこと。ねぇ,ブラウン」
 J・Jの機嫌が明らかに悪い。この話題は避けるべきなのかもしれない。
「ところで,アキの奴,戻ってくるの遅いな」
 彼が夜警の仕事に出てから既に2時間は経っているだろう。ドッペルゲンガーの処理と言っても,その辺を飛び回るに過ぎない相手にてこずるほど,アキは初心者ではない。少なくてもカズヤはそう思っている。
「そうですね。事が片付いて,自警団と飲み歩いているのかもしれないけれど」
 J・Jが外の様子を確認しようとクラッカーを片手に窓際に寄った。
 植物園の樹がガサゴソと騒がしい音を立てたのはその時だ。続けて,何かの着地音と振動がログハウスに響く。キッチンから顔を出したブラウンは,既にライフルを構えている始末だ。
「おいおい,なんだなんだ?」
 一足遅れてカズヤもログハウスの玄関へと駆けよりドアを開ける。
 開けなきゃよかったと思ったのは,彼の真横を巨大な刺が通過して,部屋の中で爆発音が響いてからだ。
 ちょっとした衝撃にカズヤはログハウスの外に放り投げ出され,ログハウスの中からは,ブラウンの怒号が聞こえた。キッチンの壁でもえぐれたのだろう。用意していたデザートのいくつかが吹き飛んだかもしれない。それはカズヤも許し難い。
「カズヤ,危ない」
 真上から聞こえたこもった声に反応して,カズヤは横に転がった。彼が立ちあがるころには,目の前に“猫”がいた。カズヤのことなどお構いなしで,植物園の周囲を見回しては銃の引き金を引いている。
「なにをやっているんだアキ」
 聞いてはみるが,やっていることは明らかだ。カズヤも植物園の中に目を走らせる。樹と樹の間を飛びまわる,緑色の身体の奇妙な生き物。目が覚めた時にJ・Jが見せた報告書と同じだ。
 まさかこんなところに現れるとは。自然光を取り入れたいなどと天井を吹き抜けにした建築主に賠償請求をしたい。こんなところに住居を構えたJ・Jに文句を言ったところで,厄介事を連れ込んだアキが悪いというだろうから。
 とにもかくにも,あの迷惑な“緑色”をどうにかしないとパーティーを続ける場合じゃない。カズヤはポケットの中から箱を取り出し,ブレスレットにはめ込む。
 “アバター”は箱とブレスレットによって出来ている。二つを組み合わせ,箱が覚えている声をかけてやれば,身体を包む力に変わる。
「変身だ,アキ,そのままそいつを撃ち続けろ」
 アキに指示を飛ばした頃には,カズヤも群青のボディースーツ“戦士”に姿を変えている。アキは横目でカズヤを確認し,意図を読み取ったらしい。アキの銃声が単発的なものから,連続したリズミカルな音に変化する。
 カズヤは“緑色”の姿を追いながら,腰につけたカートリッジを宙に放り投げる。宙に浮いたカートリッジは軽い空気音と共に両端からワイヤーを弾きだす。幸い此処は植物園だ。カズヤのアバターが最も仕掛けをしやすい空間が広がっている。瞬くうちに張り巡らされた金属の網に“緑色”は対応しきれない。
 飛び移った樹の幹を蹴り別方向へと跳躍,ところが宙に現れたワイヤーに引っ掛かり,“緑色”の身体は想定外の方向へと跳ねる。樹が存在しない上空へ。“緑色”がそのことに気がつく前に,上に張られたワイヤーの網に身体が触れる。勢いよくぶつかったにも関わらず,ワイヤーは“緑色”を弾き返し,地面へと叩きつける。
 植物園の地面が丸くへこみ,その中に叩きこまれてようやく“緑色”はその丸めた身体を伸ばすことができた。
 もっとも,伸ばした瞬間,奴の眉間は撃ち抜かれた。撃ち抜いたのは,キッチンを荒らされ怒りに震えるブラウンだ。命を奪うことはできない弾丸でも,“緑色”は怯えた。“猫”の追撃をかわし,姿を隠しやすい森まで逃げのびたのだ。怯えさえなければすぐに飛びあがり攻撃を避けられただろう。
 だが,奴は怯えた。その致命的な怯えのために,“緑色”の頭は衝撃に押しつぶされ,粉々の身体が消えると共に,穴の中に小さな宝石が転がった。
 “緑色”が潰れる瞬間,小さくマダムと呟いたように思えたが,確かめる間もなく,アキの勝どきの声と,ブラウンのアキを責める怒号が響き,カズヤは思わず耳をふさいでしまったから。
「アキ,ハウスの壁の修理手伝っていただきます」
「ええっ,知らないよ。夜警の仕事を頼んだのは自警団でしょ,自警団に請求してよ」
「それは報酬から天引きされてしまいますから,認められないですね」
「そんな,助けてよJ・J。そうだ,ほら,扉を開けたのは僕じゃない」
 カズヤの“戦士”は両手にもワイヤー射出機能がついている。カズヤはアキの顔の真横を通るように右手のワイヤーを射出した。どうやら,カズヤの名前を口に出す前にワイヤーに気が付いたらしい。振り向きざまに“猫”が困った表情を見せた。
「カズヤに責任転嫁しようとしましたねアキ。今,カズヤが助けてくれた恩は忘れたのですか」
 カズヤとアキの無言のやりとりに気が付いたブラウンが頭から湯気を立てている。どうやら火に油を注いだらしい。パーティーの最後にお説教とは,アキもツキがない。
 もっとも,できればお説教の前にパーティーを再開したいところである。デザートがまだ出てきていない。

*******

 その夜,デイグリーン地下鉄駅前自警団は大いに盛り上がった。30サイクル以上自警団が追い回していたドッペルゲンガー,“ナイトホッパー”たちは,今宵全て撃退されたのだ。“ナイトホッパー”の構造材は自警団の装備強化のために8割,残りの2割が協力者への報酬になった。
 久々の収穫に,自警団の面々は喜びを隠すことなく盛り上がる。ナイト・サイクルが半分を過ぎようとしているのに,飲めや歌えやの大騒ぎ。近頃流行りの黄金の夜にまで人が溢れて盛り上がる。
 ドッペルゲンガーは“居住地”を荒らす脅威。住人に知らされず,暗黙に処理されるべきである,“居住地”を守る騎士団の面々は口をそろえてそう言うだろう。
 だが,デイグリーンでは違う。奴らは脅威であると同時に金の卵なのだ。狩りに成功したならば力の限り喜びまわる。デイグリーンの自警団,そして“はみだし者”たちは,そうしてずっとやってきた。それがデイグリーン流というわけだ。

ーーーーーーーーーーーーー
次回予告 ドッペルゲンガーのパラドックス 狩人の矛盾【5:配管工メリックの拾い物】
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HN:
若草八雲
年齢:
37
性別:
非公開
誕生日:
1986/09/15
職業:
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趣味:
読書とか創作とか
自己紹介:
色んなところで見かける人もいるかもしれませんがあまり気にせず。
ブログとか作ってみたけれど続くかどうかがわからないので、暇な人だけ見ればいいような。
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