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作成した小説を保管・公開しているブログです。 現在は連作短編が二篇の他,短編小説,エッセイの類を掲載しています。 連作小説の更新ペースは随時。二か月に三回を最低ラインとして目指しています。
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狩人の矛盾【3:騎士団という人々】
ふとした二時間の現実逃避が小説の一場面を作り出したりするもので。
 もっと有益なものを作り出してくれるといいのにな。とときどき思うのですが,長年の習慣が生み出すものっていうのはいつの間にか方向性が絞られてくるものなのかもしれなくて,ほんのりしょんぼり。

 ドッペルゲンガーのパラドックスの続きです。

 前回まで
 狩人の矛盾【1:マック・デュケイン氏について】
 狩人の矛盾【2:カフェテリアの一幕】

 作品紹介 ドッペルゲンガーのパラドックス

 “居住地”と呼ばれる天蓋と柱によって囲まれた7つのエリアに住む人々と,ドッペルゲンガーと呼ばれる“居住地”の住人の姿を真似て増える謎の侵入者。
 “居住地”の支配者,公社に属するドッペルゲンガー狩り部隊“騎士団”と,“騎士団”に属さずにドッペルゲンガーを狩りだす”はみ出し者”。
 “居住地”では,平穏を乱すドッペルゲンガーの存在をめぐり,今日もどこかで静かな混乱が起きている。
 ”居住地”の中心,エリア7にてデュケイン姉弟を名乗るドッペルゲンガーを仕留めそこなったエリア5出身の“はみ出し者”カズヤ・シンドウは,デュケイン姉妹の事件の裏に,ドッペルゲンガーを利用した奇妙な闇ビジネスの存在を嗅ぎあてる。
 カズヤは活動を共にする,J・J,アキ・ミキヤたちと矛盾に満ちた奇妙な事件の謎を追いかけていく。


 ジャンルとしてはきっとSFかファンタジー?
 ドッペルゲンガーのパラドックスを作り始めたきっかけは,海外SF小説の日本語訳って,独特の文章に翻訳されてしまって,日本の小説とは雰囲気が違うなって思ったところにあります。原因は原語の文章構成と日本語の構成が異なる点にあるのだと思いますが,ふと,日本語で作る物語も,海外SF小説の日本語訳っぽくしてみたら,雰囲気が変わって面白いのかなあと考え始めて試してみたのが本作です。
 原案は,ネットで活動を始める前に作った小説のプロットで,黒猫堂怪奇絵巻の亜種だったのですが,海外SFっぽいものを作るのであれば,近未来とか別世界もののほうがいいだろうと思って,舞台を大きく変えています。

 今後は英語とかの勉強をして,より外国語で書かれたものっぽい雰囲気が出していければなあなどとこっそり思っています。

 今回のお話まではまだまだ設定の話に終始している感じがあるので,もう少しまとまったら,黒猫堂ともども宣伝ページでも作ろうかと思っているところです。


 では,以下本文です。(珍しく説明文を付けた)
ーーーーーーーーーーーーー




【3:騎士団という人々】

 “騎士団”は公社の配下にあり,公社の配下にあらず。
 “騎士団”の命は治安の維持にあり,治安の維持にあらず。

 エリア7,第2層商業地区の一画に,かつて西洋甲冑と呼ばれたものと同様の,しかしそれに比べると隙間なく身体を覆い尽くす鎧が立ち歩いている。グレーの制服に身を包んだ公社の人間たちと共に街中を歩きまわり,腕につけた機械を操作して歩く。彼らは“騎士団”。災いのラッパと共に居住地に現れる者たちだ。彼らの仕事は狩りであり,災い,すなわちドッペルゲンガーは彼らの獲物。
 マック・デュケインが窓ガラスを割ったカフェテリアには,ビルの外の数倍の密度の公社の人間が蠢いている。そのなかで,黒い甲冑騎士がカフェテリアの割られた窓に近寄った。
「防衛装置の稼働直前の様子を聞く限り,トロイの反応は二つ。そして,トロイに向けて銃を撃った犯罪者が一人,現場からいなくなっているようです」
 ドッペルゲンガーという呼称はその存在を知る者以外に明かされることはない。“騎士団”は彼らをトロイと呼ぶ。従順な住民のふりをして国の崩壊を目論む異端者になぞらえて。
「それでコアは」
「ありません。防衛装置の作動状況から見ると,トロイが一体,コアごと粉砕されたのだと思われます」
 いけすかないやり方だ。黒甲冑は部下の報告を聞いて甲冑の中で顔をしかめた。犯罪者の男は身元がわからない。ビルに設置した防犯カメラはきっちり妨害されていて,男の姿を映さないからだ。だが,だいたい正体はわかっている。
 カメラに妨害を加えて,大立ち振る舞いの上にトロイを破壊する人間など,いるとすれば“はみだし者”たちだ。公社の資格を受けることなく黒甲冑たちと同じアバターを操るならず者。
 彼らの狙いはおおよそドッペルゲンガーのコアだ。コアは“居住地”で利用される貴重な構造材であり,クズ鉄に等しくても,ひとつ手に入れればそれなりの財を築ける。なにせ,表向き,公社以外はコアを原料とした構造材を有さないのであるから。
「おそらく,犯人はエリア5辺りからきた小僧だろう。もう一体のトロイの反応を追う班と,小僧を追いたてる班に人員をわけろ。人の仕事に割りこんで,成果を粉々に砕いていく馬鹿にはきつくお灸を据えてやる」
 黒甲冑の命令を聞いて,部下は慌ててカフェテリアの外へと走っていく。
「おいおい,黒騎士君。君だってまだひよっ子だろう。部下いびりはよくないよ」
 走り去る部下と入れ換わりでカフェテリアに入ってきたのはでっぷりと太った上司である。アバターを身につけることなく,襟元に騎士団のシンボルである鷲のバッチを付けてのそのそと歩いてくる。
「これは失礼なところをお見せしました。ヒルビレッジ上級技師長」
「そう畏まるなよ黒騎士君。僕も君のように前線で戦っていた時は気が昂ぶっていたものだ。誰もが通る道というわけだよ」
 上級技師長。エリア7の実働部隊である騎士団を統括するポストだ。黒騎士といえどもヒルビレッジに嫌われれば騎士団で生きていく道はない。だが,黒騎士は彼がどうしても気にいらない。他のエリアを統括する技師長に比べて,一段と。現場で身を呈して戦うことをしないからではない。この男が,およそ現場の戦いを忘れてしまっていることが問題なのだ。
 しかし,黒騎士がどのように考えようともヒルビレッジが上官である事実は変わらない。
「それで,どうなのかね。トロイの痕跡はまだ残っているのか」
 ヒルビレッジが興味を示すのはドッペルゲンガーのコアただひとつだ。彼にとって,ドッペルゲンガーが“居住地”を脅かしている事実などどうでもよい。ただ,自分の管轄で一つでも多くの戦績を上げ,上質なコアを上納する。そのことで自らの地位が高まっていくことのみがヒルビレッジの目標なのだ。
「はい。何者かによって破壊されたトロイのコアは回収不能ですが,もう一体,トロイが現場から逃走している模様です」
「そうか。仕留められた方は仕方がないが,もう一体はなんとしても我が騎士団の手で葬り去るのだ。トロイは“居住地”を乱す存在であることを心に刻んでおくのだよ」
 コアがもう一つあるという事実だけを確認して,ヒルビレッジは現場を去っていく。彼にとっては,この現場が如何に荒らされているか,現場に居合わせた人間にいかなる危険が生じていたか,そのようなことを想像する必要すらないのだろう。
 黒騎士は,ヒルビレッジがエレベーターの向こうへ消えていくのを見守って,小さく悪態をついた。
「いいか,お前ら。現場の調査を終えたら一刻も早く現場の修繕を行え。生き残ったトロイの行方が分かり次第,トロイ狩りに力を注ぐ。それまでの間は,エリア5の“はみだし者”狩りに比重を置け。ルールを破った奴にお灸をすえるだけじゃない。奴はトロイの性質を感じている可能性がある重要な情報源だ。早く押さえることが我々の勝利へと繋がる。わかったな」
 頭部を覆う兜に付けられた通信装置から,黒騎士は部下全員に向けて語りかける。
 ヒルビレッジに成果を渡すのは釈然としないが,“騎士団”としての仕事を辞めるつもりはない。狩りをおこなうなら徹底的に,それがエリア7を守る“騎士団”のモットーだ。

*******

from エリア7 ヒルビレッジ上級技師長管理 No.0400112
to  エリア5 ダウンモーテル上級技師長管理 No.0400573

 エリア7商業地区で発生した名称不明のトロイにつき,エリア5からの不法侵入者が接触した可能性あり。同トロイは,都市防衛装置により消滅。接触した不法侵入者に対する事情聴取を求めたい。

from エリア5 ダウンモーテル上級技師長管理 No.0400573
to  エリア7 ヒルビレッジ上級技師長管理 No.0400112

 エリア5入管ゲートの記録を確認。エリア7への不法侵入を試みた者の形跡なし。トロイ発生時刻から遡り1サイクル以内の渡航者について追跡調査を実施。渡航経路の偽装等は認められず。
 エリア5としては,今回の件につきエリア7への不法侵入者がいた事実を認められない。

from エリア7 ヒルビレッジ上級技師長管理 No.0400112
to  エリア5 ダウンモーテル上級技師長管理 No.0400573

 エリア7の方針では,エリア5の責任を問わない。今回の件に関して不法侵入者から情報を獲得するのが目的であり,本情報のその他の利用を行わない。

from エリア5 ダウンモーテル上級技師長管理 No.0400573
to  エリア7 ヒルビレッジ上級技師長管理 No.0400112

 その要求は飲むことはできない。エリア7への不法侵入を試みた者及び,事件発生前1サイクル以内の渡航者について渡航経路の偽装等は認められず。

from エリア7 ヒルビレッジ上級技師長管理 No.0400112
to  エリア5 ダウンモーテル上級技師長管理 No.0400573

 エリア5の主張は理解した。エリア7よりエリア5への“騎士団”の一時派遣の承諾を求める。

from エリア5 ダウンモーテル上級技師長管理 No.0400573
to  エリア7 ヒルビレッジ上級技師長管理 No.0400112

 承諾した。但し,エリア5はエリア7よりの“騎士団”の介入に基づく混乱につき一切の責任を取らない。エリア5への損害はエリア7が負うことを確認する。

from エリア7 ヒルビレッジ上級技師長管理 No.0400112
to  エリア5 ダウンモーテル上級技師長管理 No.0400573

 確認する。この通信より,1サイクル以内に入場ゲート9よりエリア5へと“騎士団”を派遣する。ゲートの開放について協力されたし。

from エリア5 ダウンモーテル上級技師長管理 No.0400573
to  エリア7 ヒルビレッジ上級技師長管理 No.0400112

 協力する。

*******

 “居住地”はエリアごとに大きく景色が異なる。“居住地”を覆う天蓋とそれを支えるオベリスク,どのエリアにも存在するこの二種類の構造物を除いては,隣接するエリアであっても全く別の街,いや国が広がっている。
 エリア7は公社管理の多層階層都市群であるのに対し,エリア5は巨大な平地に作られた国だ。他エリアとの境界たる管理ゲート付近こそエリア7と同様の計画都市であるが,外周部から一歩中に踏み出せば,かつて全世界の覇権を握っていたという国家を焼き直した都市と田園地帯が入り乱れる出鱈目な風景が広がっている。
 地表の面積はエリア7のおおよそ3倍,“居住地”の中では広大な大地を有するとも言えるエリア5において公社の完全支配が及んでいるのは,管理ゲートが存在する外周部とオベリスクの周囲だけである。その他はエリア5内の小規模都市国家が日夜覇権を争っているのだという。
 エリア5のそうした内情を裏付ける証拠は,黒騎士の目の前にそびえる高い壁と壁に設置された迫撃砲だ。公社管理のエリアは全て,高い城壁と遠距離攻撃用の兵器によって守られている。エリア5内の反乱によりエリア自体が破壊されることを防ぐためだ。
 そして,他のエリア以上に厳重に,エリア5は入出の管理がなされている。異分子はエリア5の外には出さない。公社の徹底した方針のたまものだ。

 そう,表向きは。

 黒騎士は引き連れた12名の部下たちの用意が整うまでの間,入管ゲート9の外壁部を眺めていた。外壁への進入口は正面のゲート一つ。自動車やバイク,都市間列車などがひっきりなしにゲートを出入りし,その全てをゲート内の管理部門が監視し,異分子の侵入を拒んでいる。
 しかし,このような設備を整えたにも関わらず,“はみだし者”たちは容易にエリア5の外へと現れる。結局のところ,このゲートが退けるのは,エリア5内で暴れまわる政治犯と犯罪者に限られるのだ。“はみだし者”たちのようにドッペルゲンガーを狩る者は政治犯や犯罪者とは限らない。寧ろ,日頃は通常の生活を送る者も多いと聞く。故にエリア5の入管ゲートではその出入りを禁じられない。以前,黒騎士の同僚であったエリア5の役人がそう述べていた。
 だからこそ,“はみだし者”に対する照会をかけてもエリア5からはまともな回答が得られないのだ。
 但し,エリア7はエリア5ほど甘くはない。“はみだし者”には徹底的な制裁を与える。それがエリア7の基本方針である。入れない・出さない・排除する。その原則に従った厳重な管理が入管ゲートから行われている。エリア5では規制されずとも,エリア7への侵入の際に,“はみだし者”たちは規制を受けるのが基本なのだ。
 それにも関わらずエリア5から侵入してくる“はみだし者”は,エリア7のチェックをかいくぐれるだけの身分を偽装してくるということだ。

「黒騎士様。捜索隊全隊員の入場チェックが終わりました。1時間以内にはエリア5内に侵入可能です」

 報告を入れたオペレーターに対し,黒騎士はねぎらいの言葉をかけ,30分以内に侵入することを告げた。黒騎士の知る限り,そのような偽造技術がある街はエリア5のなかでも1,ないし2に限られる。
 まずはゲート9より最も近い街を拠点とし,都市内の“はみだし者”を洗い出すところから始めようではないか。
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プロフィール
HN:
若草八雲
年齢:
37
性別:
非公開
誕生日:
1986/09/15
職業:
××××
趣味:
読書とか創作とか
自己紹介:
色んなところで見かける人もいるかもしれませんがあまり気にせず。
ブログとか作ってみたけれど続くかどうかがわからないので、暇な人だけ見ればいいような。
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