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作成した小説を保管・公開しているブログです。 現在は連作短編が二篇の他,短編小説,エッセイの類を掲載しています。 連作小説の更新ペースは随時。二か月に三回を最低ラインとして目指しています。
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狩人の矛盾【2:カフェテリアの一幕】
ドッペルゲンガーのパラドックスの続きです。
黒猫堂怪奇絵巻の続きは12月の下旬から再開予定です。


前回まで
狩人の矛盾【1:マック・デュケイン氏について】


―――――――――――――――――――――

狩人の矛盾【2:カフェテリアの一幕】

 先日エリア5で亡くなったマック・デュケインには姉がいた。姉の名はキャリー・デュケイン。会社員だ。キャリーはエリア5にて広告会社の事務職員として雇われ、日々の生活を営んでいた。
 デュケイン姉弟は、早くに両親を亡くし、姉弟は叔父夫婦に預けられた。高校卒業と共に二人とも叔父夫婦の下を離れ、それぞれエリア5内で一人の生活を始めたのだという。キャリーはその後、学院へと進学し、広告会社に勤めたのに対し、マックはその日暮らしのようなアルバイトを転々として最後にジョンの店に流れ着いたというわけだ。
 二人とも全く違う人生を送っていたが、定期的な連絡を取り合っていたようで、たまにキャリーの職場にマックがやってくることもあったらしい。
 キャリーは弟のマックのことをとても可愛がっており、定職と呼べるほどの職をついぞもたなかったマックに対して、「あなたもいつかこれだと思う職業に出会えるわ」などと応援していたのだという。
 
 ところで、キャリー・デュケイン氏の勤めていた広告会社は、エリア5の中でも非常に優良な企業であったのだが、先日からその企業価値が下落している。下落の理由は公にされていないが、どうにも同社に公社の査察が入ったことが原因らしい。
 査察の理由は公には明かされていないが,街の噂によれば,不穏分子が紛れ込んでいたのだとか。



 公社。“居住地”の圧倒的上位として君臨する企業。その所有するビルに停車したバイクに寄りかかり,カズヤ・シンドウは街ゆく人々の姿を眺めていた。
 人々が“居住地”の外を捨て,乱立する巨大な箱舟の中に逃げ込んでからどのくらいの月日がたっているのだろう。もはや“居住地”こそが世界であり,“居住地”の外は存在しない。そう考えるのが当然のようになっている。
 だからこそ,各“居住地”を覆う巨大な天蓋と,それを支えるオベリスクらを管理する公社は,“居住地”の住人全ての頭を文字通り押さえていられるのだ。
 カズヤ自身は公社にいかなる思い入れもないが,カズヤの雇主は公社をあまりよく思っていないようであるし,公社の恩威の少ないエリア5のような土地では嫌われ者のイメージが強い。しかし,全ての天蓋の中枢であるここ,エリア7において公社は絶対であり,公社に反感をもつ者はいない。少なくても表向きは。
 公社の制服を身にまとう人間が平然と街を闊歩する様子は,カズヤにそんなことを思わせる。
「カズヤ君,あんまり物思いにふけっていてもらっても困るんですけれどね」
 せっかく待ち時間を有効に使おうとしてもこれだ。カズヤはインカムから聞こえてきた雇用主の声に大げさなため息を返した。
「報告書は返しましたよ,社長」
「ええ,ええ。読みました。私が言いたいのはそういうことではありませんよ」
「キャリーなら居た。今も第三層のカフェテリアで“弟”と食事をしているところさ」
 カズヤは左手に持っていた単眼鏡を構えて,オベリスクの向かい側に立つ商業ビルの一角を覗きこむ。窓際に座り優雅に食事を取っているのは,カズヤの持つ写真に写る男女,キャリー・デュケインとマック・デュケインである。
「アキはあと一時間程度で第三層から下りてくる。それから仕事にかかってもいいんだろう」
「構いませんよ。仕事熱心なカズヤ君に,こちらで分かったことを教えますね。例の広告会社での不祥事,裏付けが取れましたよ。二週間前,キャリー・デュケインを名乗る女性の死体がアパートから発見されていたとのことです」
 キャリー・デュケインは現在単眼鏡の先にもいる。つまり,カズヤ・シンドウの雇用主,J・Jの予測は見事に当たっていたというわけだ。そして,それはカズヤの給料の一部がJ・Jのピザ代に変わるということを指している。
「くそっ,不当な賭けだな」
「コイントスで負けたのがいけないんです。それでは,カズヤ君,狩りを楽しんで。夜にはピザ・パーティーです」
 J・Jは事務所で秘書と一緒にどの店からピザを取るか小躍りしながら会議を始めているに違いない。アキを待っている場合ではない。
 カズヤはJ・Jがテン・スーのピザではなくドミオンピザのピザを注文してくれることを神に祈って仕事に取り掛かることにした。

*******

 公社に対する不穏分子。いつの世も反逆者に対し,政府が取る態度は冷酷だ。特に公社のそれは徹底的で,不穏分子が見つかれば“騎士団”が総出でやってくることまである。一部のジャーナリストやコメンテーターは,“騎士団”による制圧を,公社の過剰な統治活動と揶揄し,“居住地”に暮らす者の多くは,“騎士団”のおかげで治安が保たれていると思っている。
 そして,カズヤ達のような“はみだし者”たちは,“騎士団”が自分の食い扶持を減らしていくことに危機感を覚えている。
 誰が一番正しい認識をもっているか? そんなの簡単だ。公社も含めて誰もが間違っている。
 公社が排除したいのは“居住地”にはびこるドッペルゲンガーであり,“騎士団”はドッペルゲンガーを排除するための戦闘集団だ。ドッペルゲンガーを排除するためにやってくるに過ぎない以上,“騎士団”は過剰な統治アピールなどと関係がない。ついでにいえば,ドッペルゲンガーを排除したところで,街の荒くれ者たちは減らないし,スリや強盗,売春と,犯罪の数は減りやしない――殺人事件は減るかもしれないが――。“はみだし者”がドッペルゲンガーを狙うのは,法的に許される行為ではないが,ドッペルゲンガーから採れる資源は“居住地”の貴重な財産だ。公社が独占していい理由はない。
 なにより,個性のかけらもない公社の“騎士団”よりも,獲物を求めて走り回る“はみだし者”たちの方が強いのだから,狩りはカズヤ達に任せるべきだ。

 キャリー・デュケインとマック・デュケインは仲の良い姉弟として知られている。二人ともエリア7の物流会社に勤めたばかりであるけれど,それ以前,エリア5で働いていたころのキャリアは相当なものであると,社員の間は囁かれている。
 それくらい,デュケイン姉弟は仕事熱心で有能だ。広い人脈と温和な表情,そして顔を合わせる必要すらない姉弟間のテレパシー。その辺の一般社員に姉弟のやり口をまねることはできない。
 現在のデュケイン姉弟は,まさに運命に愛されている。
「そう思わない? マック」
「ああ,そうだね姉さん。今日はとても良い日だよ」
 午後一の会議が延期になって,弟と優雅なブランチを過ごせたことでキャリーはご満悦である。当然マックも喜ぶはずなのだが,一度席を立ってから,マックの表情が心なしか暗い。キャリーの言葉にもどこか上の空な反応を返す弟の姿は,彼女の幸せなランチタイムを汚しているように思えた。
 もっとも,そんなことで怒るキャリーは気の短い女ではない。ただ,次のマック・デュケインに替えた方がいいかしらと膝もとに置いた端末を操作するだけだ。確か,近所にもっと幸せそうなマック・デュケインがいたような。
 選択ボタンを押したはずなのに反応しない端末に,キャリーは若干戸惑った。目の前のマックに戸惑いを感知されていなければいいのだが。
「マック。職場から連絡が入ったわ。全く何かしらね,今日は夜まで予定を入れないって言っていたのに」
 適当な言い訳を見つくろい,キャリーは窓際の席を離れた。
 店の外で端末を確認し,キャリーは言葉を失った。マックの顔色が優れなかった理由は端末の向こう側にあったからだ。
 キャリーが選択していたマック・デュケインは長年の夢であったクレープ屋を開き,オフィスの女性に夢を売って歩いているはずだった。食以外に目立った趣味をもたなかったにも関わらず,姉のために物流会社に入社し,キャリアを積み上げてきた不幸なマック・デュケインとは大違いだ。
 ところが,クレープ屋を営むもう一人の弟は,たった30分ほど前に夢を絶たれてこの世から消えてなくなっていた。端末が示す“消失”の二文字はその事実を知らせている。
 そして,我が弟マック・デュケインたちは,それぞれに違った道を歩んでいることを互いに認識している。つまり,クレープ屋マック・デュケインの死は,物流会社社員マック・デュケインに知らされているのだ。彼らが元は一人であったという事実から導かれるテレパシーのようなものによって。
 クレープ屋のマックはなぜ“消失”したのか。問題はそこだ。事故かあるいはマックがこの世に何人もいるということに気がついた何者か――例えば公社とか――が現れたのか。
 突然人生に舞い降りた不穏な影にキャリーが怯えた表情を見せていると,彼女の目の前のエレベーターが開く。中から出てきたのは紅いジャケット――あれはドミオンピザの配達員がよく着ている――を着た好青年だ。顔の作りからするとエリア7の人間じゃない。エリア3かエリア5,あの辺りから出てきたのだろう。
 青年はエレベーターを降りてキャリーの顔を見つめ,にっこりとほほ笑んだ。どうすればいいかよくわからずキャリーも微笑む。そして,次の瞬間,フロアに銃声が響いた。

 カフェテリアの入り口で客をさばいていたウェイターは,エレベーターから現れた青年が,突然巨大な銃で客の一人を撃ち抜いたことに驚いた。事態が把握できずに青年の方に近寄ろうとすると,耳元で女性の声が注意を喚起した。
「だめよ,殺されちゃうわ,あなた」
 女性の声の意味を掴めず,ウェイターは前を向く。目に入ったのはウェイターの顔に銃を向ける青年の姿だけだ。撃たれた女性の姿がない。彼女はどこに
「おいおい,一般人を盾にするとは随分卑怯な真似するんだな。それだけ速く動けるなら盾なんていらないだろ」
 青年の言葉に従うなら,ウェイターは盾ということだ。なぜならウェイターは一般人だからだ。でも,誰の?
 彼がその答えを知る前に,彼の真横を銃弾が掠めていく。死の予感に包まれたウェイターはその場で気を失った。

 やはり銃撃は苦手だ。カズヤは,カフェテリアの中に逃げ込んだキャリー・デュケインを追いかけた。
 エレベーターを降りた瞬間,彼女がいたのは僥倖だったはずだ。何も知らせずに近づいて一撃で頭を仕留めれば,後はピザ・パーティーが待っている。しかし,カズヤの読みは見事に外れた。彼女は速い。銃弾の発射を目で追いかけて,とっさに身体を下方に逸らした。そして,ウェイターの後ろに回り込み,カズヤの射線から身を隠したというわけだ。
 すぐに奥へと逃げなかったのはカズヤの二発目を待つためか? いいや,そんな馬鹿げたこと,カズヤならしない。あれだけ速く動けるなら,カズヤを伸してしまえばおしまいだからだ。
 おそらく彼女は速く動くことに制約がある。あるいは,中に居る誰かに伝えなければならなかった。狩人が現れたことを。
 例えば,弟のマック・デュケインに。
「公社の情報管理課だ。カフェテリア内に不穏分子が紛れ込んでいます。自分じゃないと思ったら頭をテーブルの下に下げて」
 “はみだし者”は公社とは関係がない。だが,こういう時に公社の名前は効果がある。まして公社がトップと疑わないエリア7の住人には。カズヤの正体に気がついたデュケイン姉弟以外の全ての人間は身体を低くして,我先にとテーブルの下へと逃げ込んだ。
 今度は盾になる物はない。カフェテリアの奥へと逃げていく姉弟に向かい,ここぞとばかりに改造銃を撃ちまくる。いくらカズヤが射撃下手でも,二十発も撃てば一発は当たる。
 ほら,マック・デュケインが肩を押さえて倒れ込んだ。キャリー・デュケインは弟の倒れ込む姿を見て足を止める。今だ。今度は狙いを付けて引き金を絞る。しかし,弾丸が当たったのはキャリーではなく近くのテーブルだ。
「おいおい,本気か」
 キャリーの前には巨人の腕が広がっている。腕の付け根はマック・デュケイン。マックは姉に向けられた銃弾を,自分の腕一つではじき返したというわけだ。身体に似合わぬ巨大な腕で。
「ここでそこまでやるのは不本意なんだが」
 カズヤの願いを聞き入れてくれるほど,マック・デュケインは冷静ではなかった。当たり前だ。自分の命を狙いに来た狩人からの,場所を変えようなどという軽い願いを受け入れてくれるほど,彼らに余裕が残っているわけではない。
 立ちあがり,突進してきたマック・デュケインは,先ほどまで逃げていた,気弱で温和な好青年ではなく,筋肉に溢れた巨漢の荒くれ者へと姿を変えた。1.5倍の質量で,カズヤの身体を突き飛ばし,そのまま窓ガラスへと追いやっていく。
「おいおいやめろってそれはないだろ」
 抗議の声に反応しない,巨漢の男,マック・デュケインはカズヤと共にビルの六階から転落していく。カズヤは窓ガラスに押しつけられた時の衝撃で息ができなかった。しかし,ここでマックと共に落下すれば,カズヤはピザ・パーティーを体験できない。それは少々迷惑な話だ。
 仕方ない。本意ではないが,こちらも本気で行こうとしよう。

 マック・デュケインはこの愚かな狩人崩れが地面とマックの身体に挟まれ潰されてしまうことを望んだ。マックがカフェテリアの窓ガラスを割った時,既に街中には災いを告げるラッパの音が鳴り響いていた。狩人崩れを潰した後は,身を隠さねばならないが,マックの宿した力ではそれは無理かもしれない。しかし,それでもあの平穏な日々をうばい,キャリー・デュケインに銃口を向けたこの狩人崩れだけは潰しておかなければならない。
 しかし不幸にも,マックは狩人崩れを捕まえたまま地面に衝突することがなかった。彼が地面に着地した時,狩人崩れは彼の傍を離れ,土煙の中に姿を隠していた。そして,次に現れた時,彼はまぎれもなく狩人だった。
 先ほどまでのピザ屋の配達員の姿ではなく,不必要な装飾のない,群青のボディースーツに身を包み,狩人の青年はそこにいた。よく見かける公社の騎士のようなマントや武装は持っていない。彼が携帯しているのは,彼の肩ほどまでの長さの細い棒一本だけだった。
「ふん,狩人崩れかと思ったが,初めからその姿でくればよかったものを」
 青年がまとうボディースーツは,狩人たちの魔法の鎧だ。脆弱にもほどがある肉体をかの鎧が厳重に保護し,それどころか彼等にもマック達と同様の力を与える。故に,マックたちは狩人と巡り合わない生活を望んでいる。
「こっちとしても随分配慮したつもりなんだ。テロリストに射殺されたってんなら,正体もばれずに,無事に死ねるだろ? その姿になっちまったら,社会的には死ねないからな」
 青年は,マックの懐に飛び込み,右手に構えた棒でマックの顎を撃った。衝撃でマックの頭が揺れているうちに,更に両肩部分に二撃。おまけに腹に一発。勢いをつけた打撃を喰らわせる。
 マックは全てを受け切ったが,最後の一撃でバランスを崩して地面に手を突いてしまう。これはまずい。そう思った時には,青年の棒がマックの頭蓋を破壊しようと迫っていた。
「そりゃないだろう」
 何を言われようとマックはこの程度で命を落とすほどやわにできてはいない。棒を銜えたまま,むりやり身体を横にひねり,青年を身体の上から振りはらう。彼の唯一の武器である棒を奪えただけでも上出来だ。
 棒を歩道へと投げ捨て,身構える青年に対してカフェテリアのときと同じように突進する。ただし,今度はちょっとしたおまけつきだ。
 青年の身体に接触したと同時に身体に回転を加え,青年を横へと弾き飛ばす。彼が飛んでいく先には,道路を渡ろうとして車道に足をかけたところで止まっている女性の姿がある。青年のボディースーツからワイヤーのようなものが射出され,彼は歩道の標識の方へと無理やり空中移動をした。
「殺りそこなったか」
 災いを告げるラッパ。エリア7で鳴り響くそれは,エリア7の住人たちを守り,異端者たちへの脅威へと変える悪魔の兵器だ。ラッパが鳴り響いている限り,エリアの人間たちの時は止まり,騎士団やマックたちのいかなる攻撃も分解する防護膜に守られるのだ。それは同時に,ラッパの中で動きまわることのできる者にとっては,触れるだけで即死の障害物に変じるということでもある。
「その戦い方はないんじゃないか,いくらなんでも非道だ」
 非道なのは人間であって我々ではない。マックは青年に抗議を受ける筋合いがない。やりそこなったのなら仕方ない。もう一度同じ攻撃をしかけるだけだ。幸いなことに青年が立っている所は横断歩道の真横,つまり彼の後ろには大量の人間が止まっているのだ。
 マックは全身の力をこめて青年にタックルする。青年が彼を避けることができないように。
 青年はマックを迎え受けた。逃げられないと悟ったか,あるいは後ろの人間たちを守ろうとでも思ったのか。
 だがそれは無意味だ。人間たちはラッパに守られているし,青年は自らの仲間が作ったその兵器の影響で死ぬ。マックは宙に浮いた自分の身体の行く末を見守りながらそう思った。
 そして,マック・デュケインに待っているのは停止している大量の歩行者だ。どんなに重量のあるマックにも,ラッパの影響を受けた歩行者を押しつぶすことはできない

 こういう戦い方は気分が悪い。カズヤ・シンドウは雑踏に串刺しにされその身体を灰に還しているドッペルゲンガー,マック・デュケインの姿に疲労感を覚えた。
 彼が身にまとうボディーアーマー,“アバター”と呼ばれるそれは,“騎士団”の使うものより簡素でありその機能も少ない。故に,ドッペルゲンガーと対峙するときに相手は油断しがちである。しかし,カズヤのアバターは“戦士”である。その身軽さと装甲の硬さに加え,一瞬ではあるが彼に莫大な膂力を授けてくれる。マック・デュケインも,その力を利用して無理やり背後に投げ飛ばした。
 本当は,きちんと自分の手で葬ってやりたかったし,そうしなければマック・デュケインのカケラ,貴重な構造材が手に入らなかったのだが今回は仕方がない。構造材ごとエリア7の防衛機構に分解されてしまったのだから。
 気を取り直して,もう一人のドッペルゲンガー,キャリー・デュケインを追わなければ。そう思った矢先にラッパの音が小さくなっていく。つまり,エリア7によって,カズヤのいる付近にはドッペルゲンガーの脅威が存在しないと判定されたというわけだ。
 カズヤは慌てて左腕のバンドを操作しアバターを解除した。ピザ屋の店員の姿に戻ったころには街中の雑踏は動き出し,何事もなかったように生活を再開する。
 横断歩道を渡ったころに,多くの人間が,若干時間が飛んでいる事に気が付き,周囲を見渡し,忌まわしいものがないと確認する。そして,本当に何事もなかったかのように生活に戻っていく。困惑はほんの一瞬しか起きない。
 この街は“居住地”の中でもトップクラスに歪んだ街だ。カズヤはエリア7を訪れてドッペルゲンガーを狩るたびに同じことを思う。この光景を見たくないから,なるべく防衛装置の作動しないうちにドッペルゲンガーを狩ろうと思うのだ。
 とにもかくにも,防衛装置が解除されて街が戻ったということは,カフェテリアの人間たちも元に戻ったということだ。彼らにはカズヤの姿が印象に残っていることだろうし,まもなく“騎士団”がやってくるに違いない。
 今回は,キャリー・デュケインの追跡は中止だ。
 歩道わきに停めたバイクにまたがり,自分の街,エリア5へと帰ろう。不本意な結果を携えて,ピザ・パーティーに顔を出すのだ。
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プロフィール
HN:
若草八雲
年齢:
37
性別:
非公開
誕生日:
1986/09/15
職業:
××××
趣味:
読書とか創作とか
自己紹介:
色んなところで見かける人もいるかもしれませんがあまり気にせず。
ブログとか作ってみたけれど続くかどうかがわからないので、暇な人だけ見ればいいような。
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