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作成した小説を保管・公開しているブログです。 現在は連作短編が二篇の他,短編小説,エッセイの類を掲載しています。 連作小説の更新ペースは随時。二か月に三回を最低ラインとして目指しています。
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不思議の国5
ブログの制限文字数について
ブログって長々と書くことないから、制限文字数なんて超えることないよね。
と、中学生くらいの時、ブログを始めた時は思ったものです。
小説保管庫として使い始めて数年。
初めはブログをベースに話を区切っていたので、制限文字数を気にしたことがなかったのです。
ところが、黒猫堂は顕著ですが、ブログにおさまるっていうか、電子媒体に納める長さじゃない小説を書き始めると、ブログの制限文字数はとても厳しいものになっていきます。
具体的には、ほどよい場面転換で区切れなくなる(紙を想定していると、ここまでなら一気読みできるんじゃないかっていう気持ちがわく)のです。
こういう隅々まで目が行き届いていない物書きにとってはブログの文字制限は厳しい。

今年はちゃんとウェブページを持ちたいな!
あと、このブログにもちゃんと名前を付けてあげよう。
ーーーーーーーー
 視界は暗く、自分がどこにいるのかわからない。だが、車で奇妙なモノに襲われてからそれほど時間は経っていないはずだ。視界が暗いのであれば、ここは室内だろう。
 目が慣れてくると、遠くにぼんやりと灯りがともっているのが見えた。等間隔でいくつか灯りが並んでいるように見える。
 音葉は座っている椅子から立ち上がろうと思ったが、両脚と両腕が何かで固定されており、椅子から立ち上がることができない。縄にしては冷たく、手錠のようなものにしては軽い。
 椅子の後ろで両手を固定している何かを椅子にぶつけてみる。椅子にぶつかった音で、おおよそ見当はついた。音葉の両手両足を固定しているのは、硝子だ。
「水鏡、近くにいるか」
 声は帰ってこなかったが、コトンという音が反ってきた。いくつか質問をしてみると、同様に音が戻ってくる。
―話すことはできないか?
 コトン。コトン。
―ここが何処なのか手がかりはあるか
 コトン 
―歩くことはできるか
 コトン。コトン。
―等々力刑事の鑑定結果は?
 コトン。コトン。コトン。コトン。・
―奴は、スペードの1だったか?
 コトン。
 音葉は、質問をやめた。音を立てていた何かも静かになり、こちらの気配を探っている。思い出せ。あの妙なモノに襲われた瞬間のことを。


 山田寿の顔をした硝子細工。質感から硝子細工だとわかるそれは、想像以上に滑らかに表情を変えた。硝子は熱を与えれば柔らかくなる。だが、その代わり硝子は発熱し、色を変える。透明度が高く、粘性の高い状態の硝子は、柔らかく動くことはない。
 それは、硝子というより水あめだ。
 山田寿の頭は、運転席に置かれた身体と硝子の管で繋がっていた。ごきゅ。ごきゅ。という音と共に、その管の中を何かが伝っている。
 硝子細工の目と顔から管を伝ってきた何かが流れだす。黒。それは黒いペンキのような液体だ。だが、妙に光沢がある。
 黒い硝子。あれは、液状に変化した硝子だ。硝子は垂れることなくガラス細工を包み込んでいく。黒い硝子ですっぽり囲まれた頭がぶるると震える。
「あなたみたいな人、貴重だとは思うんです。でも、あまり好ましくはないんですね」
 黒い液面から肌色が浮き出てくる。そこにあったのは、山田寿の顔ではなく、等々力刑事の顔だ。
 等々力は、黒に染まった歯を見せて笑い、音葉と水鏡に向けて黒い液体を吐きかけた。

 音葉の記憶はそこで途切れている。
 奴が吹きかけた黒い液体は、音葉の身体に残っていない。暗闇で自分の身体を見ることすら困難ではあるが、あの冷たくてそれでいて生暖かい奇妙な感触は音葉の身体には残っていない。
 いや、両手と両足を括りつけているそれはあの時の黒い液体の感触に近い。
「スペードの1」
 近くの気配に気取られないように、呟く。身体が軽くなる感覚。これで水鏡が近くにいることがはっきりした。
 両足首と両手首。黒い硝子に包まれている部分に意識を集中させる。
 より薄く、より軽く。両手、両足の感覚が消える。両手も両足も存在しない。四肢の端から自分が消えていく風景を想像する。
 ごとり。両手と両腕についていた何かが床に落ちた音がした。
 近くにいた何かが音に反応して動く。何が起きたのかわからないのだろう。当然だ。相手が常識から外れているのと同様に、久住音葉と水鏡紅もまた常識から外れているのだ。
 彼らが狩ってきた他の人間とは少々勝手が違う。水鏡のことも、彼女が音葉に見せた光景も未だ信じがたいことばかりだが、どういうわけか、彼女と自分の力については疑問なく信じられる。
 暗闇の奥で、何かが立ち上がる。様子を見るために近寄ってくるその気配から隠れるように、音葉は自分を消し続ける。腕から胸、脚から腰。
久住音葉は暗闇の中のどこにもいない。そして、どこにでもいる。
音葉の座っていた椅子の目の前に、人影が現れる。椅子の上に誰もいないことに驚き、あたりを見まわした。影が上半身を動かすたびに、ごきゅごきゅという音が聞こえる。よく見れば、身体は透き通っており、その中を黒い液体がせわしなく動いている。
人影が身体を動かすたび、関節に黒い液体が集まって、動きに合わせて身体中に拡散していく。滑らかな動きのためには、あの液体が流れる必要があるらしい。
音葉は、ゆっくりと硝子細工の前に立つ。硝子細工は音葉に気が付かない。
最も液体が集まる部分に手を伸ばし、自分の手の存在を意識する。強く、強く。硝子を打ち砕けるように、強い力を。
音葉の意思に合わせて右手の気配だけが膨れ上がる。硝子細工が音葉に気が付いた時には既に遅い。
音葉の右手はガラス細工の肩の部分を握り、ヒビを入れていた。
慌てて振りほどこうとしたためか、液体が肩部分に集まり、ヒビに向かって流れだす。
暗闇に長くいたおかげか、目が闇に慣れてきていた。硝子細工の驚きの表情が見える。
 しかし、硝子細工の表情は驚きに至り切らず固まってしまう。右肩から液体が漏れ出したために、動かすだけの動力が足りないのだろう。
右手を肩から外して、体勢を整える。硝子細工は、漏れ出た液体が多いのか動きがぎこちない。動くたびに全身がきしみ、ヒビが入っていくのがわかる。
音葉は右手から左脚に意識をずらしていく。右手は存在しない。今、ここにあるのは両脚だけだ。右足を軸に回転し、左脚を硝子細工にたたきつける。
ガシャン。
皿が割れたような音を立てて、硝子細工は砕け、倒れた。倒れた地面に黒い液体が広がっていき、どこかへ姿を消した。どうやら、あの液体自体に意思があるらしい。
音葉は息を整えて、もう一度彼女の名前を呼んだ。
「水鏡紅。近くにいるなら声をあげろ。声がだめならわかるように合図を」
 合図はすぐに帰ってきた。音葉の身体を包んだその気配は、団地で海月を鑑定したときと同じ感覚だ。
 気配が迫ってきた場所に向かって歩を進めると、直ぐに彼女の姿が見えた。足元には提灯の灯りが置かれており、彼女は音葉と同様に両手足をガラス細工で固定されている。
「遅いよ。音葉」
 声を聴く限り、特に問題はなさそうだ。
「それで、鑑定結果は?」
「ダイヤなのはわかるけれど、それ以上はわからなかった。何を鑑定したのかもよくわからない」

*****
 署内で最も人が通らない、警察署の端にある取調室を確保した。傷の手当てを済ませた鷲家口眠をそこに押し込むが、取調室の利用記録には別の部屋を書いた。
 取調室に入ると、鷲家口が手元のメモに単語を書いていた。
「鷲家口先生?」
 鷲家口は何も答えず、代わりに右手を出した。等々力は事故現場で言われた通り、彼に左手を差し出す。鷲家口は等々力の左手を数秒間握ってから、等々力の顔を見た。
「この部屋に近づいてくる人はいないな」
「入ったところは誰にも見られなかったと思います」
「わかった。それで、佐藤という刑事はいたか?」
 佐藤。等々力が自分の代わりに鷲家口の下に行くように伝えた刑事課の職員は確かにそういう苗字だった。だが、署に向かう車の中で鷲家口が話した仮説の通り、この警察署には佐藤という刑事がいない。
「それだけじゃありません。この町では、数年ごとに旅行者が失踪しています。それに」
「失踪の時期に合わせて、例の妙な死体が上がっているんじゃないか」
 その通りだ。そして、そのいずれの事件も事故死扱いで処理されており、硝子化という点は無視されている。電子記録からは全てその文字が消されていたが、古い調書を漁れば黒く塗られた部分の文字が読めるものが出てくる。
 この町では、等々力が来るずっと昔から、硝子化した死体が発見され続けているのだ。
「いいや、違うよ。等々力。僕たちはまだ常識の枠から出られていない。だから、久住君や水鏡君には追いつけなかったし、僕はあの場に取り残されたんだ」
 いいかい。あれは硝子化した死体ではなく、人間のように振る舞う硝子細工なんだ。
 常日頃、荒唐無稽な案件について鷲家口に相談しているが、さすがにその意見は首肯しがたい。等々力は鷲家口の前に座り、両手を組んで彼の前に置いた。
「鷲家口先生。事故で混乱しているのはわかります。先生の言う通り、この町では奇妙な事件が多く起きていることも、私が言伝した刑事が存在しなかったことも、事実であることは間違いありません」
「なら、自然と答えはでるだろう?」
「いいえ。先生の言うような答えは出ません」
 硝子化死体と刑事の不在、失踪事件はどれも個別の事実であって、それらを繋ぐ糸はない。等々力の頭に浮かぶのは、せいぜい警察署全体が硝子化死体の件を隠そうとしているということくらいだ。流石にもみ消すために事故を起こすようなことは考えにくい。
 何より、鷲家口が等々力にした仮説は普通の人間はおおよそ信用しないし、事故を起こしてまで隠す必要がない。
「わかっていないな等々力君。重要なのは久住君と水鏡君のほうだ。あの二人は硝子細工が人のように動く、そうした話を受け入れられる。常識の枠からずれているのさ。
 そして、今回の事件には、そうした常識から外れた何かがある。事故を起こした運転手は、それを知られたくなくて、君の姿を似せて僕たちをだました。彼らは、僕や君たち警察よりもあの二人のほうが怖かったんだ」
 熱っぽく話す鷲家口に、等々力は内心頭を抱えた。彼に奇妙な事件ばかり依頼してはいるが、こうも真っ向から非現実的な話をするようになると、自分に原因があるように思えてくる。しかし、そうだとしても今の話に乗ることは不可能だ。
「先生。先生がどんなに望んでも、私は先生の仮説を受け入れることはできません。いいですか、現実には不思議なこと、説明のつかないことなんてあるわけがないんです。先生が、どんなに奇妙な死体を見つけても、それは必ず説明が付く」
「肉体の一部が硝子になっていようとも?」
「ええ。もちろん、今の私や鷲家口先生が、その現象を語る言葉を持たない可能性は十分にあります。それでも、説明がつかないことというのは起きないんです。説明がつかないのは、説明する言葉を持たないか」
「情報が足りないから。等々力君、僕は探偵じゃないし、千里眼でもない。君の力を借りられるかな」
 熱っぽい話し方が収まり、いつもの斜に構えた調子が戻ってきた。全く世話が焼ける。
「私も探偵ではなく刑事ですからね。お手伝いできることには限界があります」
「そう。それでも僕一人よりは数倍は探偵だ。頼りにしているよ。それじゃあ、まず、僕たちに説明できない事実を説明できないものとして受け入れよう。死体が硝子化したことも、病院に君が訪れていないことも、君の姿を借りて動く謎の刑事がいたことも、すべて、そういう話があったということだけを受け止めて、背後関係は無視しよう」
等々力が対応を頼んだ「自称」佐藤刑事は、鷲家口と合流するために病院に向かった。取調室に来る前に、病院の監視カメラの映像を取り寄せた。入り口を通る鷲家口と、男女のペアが写りこんでいる。おそらくこれが久住音葉と水鏡紅という旅行者だろう。
ただ、なんとも都合の悪いことに、カメラの画面に光が反射してしまい、佐藤の顔は映らない。鷲家口達三人を、誰かが病院に招き入れ、そして、病院から連れ出している映像だけが残っている。
「病院の駐車場から、先生と、男女の二人連れ、それにもう一人が乗った車が発進したことは駐車場の防犯カメラの映像からわかっています。問題はそこから、事故までの間に何が起きて、そして、事故後、先生の同乗者たちはどこに消えたか」
 だが、鷲家口は、車に乗っていた時のことや、事故直前のことをあまり覚えていない。というよりも、彼が語る運転をしていた等々力の話は、もっぱら久住音葉、水鏡紅の両名に対してなされていた話であり、鷲家口眠にとって理解のできる範疇を超えていたのだ。
 当然、ここで鷲家口と話をしている等々力にとっても、理解ができる話ではない。
「等々力。君たちが現場にかけつけたのは事故の通報があってから何分後だ?」
「15分ないし20分程度だと思います」
 鷲家口はその時間を聞いて首を傾げた。
「僕が車の外に出てきたとき、交差点の周りには観光客がいたんだ。でも、だれも事故現場に駆け寄ってくる様子はなかった。誰かが通報したんだろう。誰か一人くらい駆け寄ってきたりしていてもいいものだ。それに、彼らは僕が交差点に出てきたとき、きょとんとしていたんだ。まだ事故現場に人がいたの?といった感じで」
 実際に、等々力たちが現場に到着したときも、周りの見物客たちはそのような様子だった。等々力は、雑踏の中で「また警察が来た」という話をしている見物客がいたことを思い出した。
「また警察がきた」
「ん?」
「現場で先生を見つけた時に、周りの観光客がそう言っていたんです。一緒に来た刑事が駆け寄って何かを話していたのは覚えていますが、その時は先生から話を聞くので手一杯だったので気が回りませんでした。でも、おかしいな」
 等々力は手帳にメモをした内容を読み返した。現場での聴取事項等については一応署内で共有しているはずだが、その観光客の話は出てこない。何より、等々力自身、話を聞きに行った警官が誰なのかが思い出せなかった。
「不思議といえばもう一つ、不思議なことがありました。車の近くのマンホールのふたが開いていたんです」
「蓋? なるほど、下水か……」
「いえ、おそらくは上水道の検査用の蓋だと思います。あの交差点には下水用のマンホールはありませんから。そういえば、その蓋の位置はちょうど車の陰になっていて歩道からは見えなかったかもしれませんね」
 等々力と鷲家口は思わず顔を見合わせた。
「まさか」
「そのまさかかも知れません。少し待ってもらえますか、上水道の図面を手配してきます」
 鷲家口眠の奇妙な仮説を考慮しない場合でも、今の話には筋が通る。
 運転手と旅行者二名は、事故後に上水道から地下へと入った。交差点で事故を起こしたのは、やや乱暴な見方をするならば、上水道へ入るところを見られないため。
 なら、彼らが向かった先は上水道の整備坑だろう。下水道と違い、出入口の数は少ない。事故が発生してから2時間。まだそう遠くまでは行っていないだろう。
 等々力は取調室を出ると駆け足で刑事課のオフィスに戻った。

*****

部屋の隅々を確認した結果、音葉と水鏡は、自分たちが地下にいるという結論に至った。だが、どこの地下なのかがわからない。それに、鷲家口眠の姿がない。部屋にあるのは、二人を固定していた椅子と、動かなくなった硝子細工だけだ
「確か、あの時は車に乗っていたよね」
 両手足の拘束から解放された水鏡は、部屋の二方向にある扉の前をいったりきたりしながら、その時のことを思い返している。たまに彼女の前を通り過ぎる光の球を器用によけながら歩いているが、いくら歩いてもこの部屋がどこであるかという答えは出そうにない。
 音葉は自分の横に浮いている光を指先で軽くつついた。光の球は小さく揺れて二つに分かれる。こんな使い方もあったのかと思わず感心してしまった。
 クラブの1。団地で出会ったノイズ、海月の刻印がされたその手札は、単純に増えることしかできない。だが、あの時の海月が周りから力を吸い取っていたように、提灯の光を吸収して、こうして分裂している。
 不思議なことに、海月はいくら分裂しても灯りを減らすことがない。つまり、少量でも取り込んだものをそのままに増えていくことができる。
「団地で見かけたあの海月はこんな力はなかった。水鏡、これが君の力なのか?」
 水鏡が右側の扉の前に立って音葉をまっすぐにみた。その前を海月の灯りがふわふわと通り過ぎていく。まるで映画でも見ているみたいだ。音葉はふとそんなことを思った。だが、肝心の映画の題名は出てこない。
「これは私の力じゃない。私と音葉の力。私も、こういう風になるとは思わなかった」
 それは、音葉と一緒だから力が変化したということか。なら、彼女独りであればどうだったのか。音葉は記憶を失う前からこういう……力を持っていたのだろうか。
「この力は使えると思うけど、まずはこの部屋から出なきゃ。連れてこられた時のことを思い出そうとしても、どっちの扉から来たのか思い出せないし、音葉はどう思う?」
 さて。音葉もどちらの扉からきたのかは思い出せない。だが、どちらに進むのかを悩んでいるのなら、部屋の中にいても仕方がない。まずはどちらの扉も開けてみることからだ。
「そっか。開けたドアの先に進まなきゃいけないわけではないものね」
 ゲームではないのだから。水鏡の言葉に思わず苦笑しながら、音葉は左の扉に手をかけた。水鏡は右の扉に手をかける。
 開いた扉の先は下り坂になっている。階段ではなく、坂状になっているのが気になるが、上ってこられない傾斜ではない。逆に、降りていくときも滑り下りるのは難しそうだ。
「こっちはどこかに登っていくみたい。先に小さい灯りと……なんだろう、音が聞こえる」
 音? 音葉は目の前の通路に耳を澄ませてみた。こちらの道からは音はしない
そのかわり、水の匂いが漂ってきた。
 地下、水。下り坂。
「そうか、この先は水道だ」
「水道? え、下水?」
「いや、それはわからない。でも水の匂いがする。ここが地下だというのなら、水道なんじゃないか。たぶん、僕たちは下水道か上水道を伝ってここに来たんだ」
「それじゃあ、こっちの道は外に繋がっているのかな」
 水鏡が自分の開いた扉の先を指す。出口を探すならおそらく音葉の前の道を歩くべきだろう。水鏡の前の道は上に向かっている。だからといって外という結論にはならない。
「ただ、あいつらを追うならそっちの道が正しい」
 さっき、黒い液体が流れていったのは、確かそちらの方向だ。
「音葉。今回のノイズ、そんなに重要なの?」
 元々ああしたモノを狩ることは、水鏡が望んでいたことだ。それが、水鏡はあまり乗り気ではないらしい。
「重要だよ」
「私は、よくわかっていないのだけれども。動く硝子細工って言っていたけれど蓋を開けてみればこれだよ?」
 水鏡は部屋に転がるガラス細工の頭を踏んづけた。黒い液体が消え、ただの硝子に戻ったそれは、水鏡の足の下でほんの少し軋む。
「自由自在にガラスが動くっていうから注目したんじゃないの?」
 違う。音葉は首を振った。壊れた硝子細工の腕を取って、断面を見る。単なる細工ではなく、何重にも年輪のようなものが刻まれている。このガラス細工は複数の層が重なり合うことでできているのだ。
 黒い液体はその隙間を行き来し、硝子細工を生き物のように動かしている。
「ここまでは、予想通りだ。ただ、こんな形で出くわすとは思っていなかったけれど」
 それも、警官に成りすまして外を歩き回るとは。鷲家口眠が気が付かなかったことからすれば、あれは本物の等々力刑事と同じ顔に動きをしていたのだろう。
「いや、そうじゃないな。篠崎さんから話を聞いて想像していた以上だ。水鏡は、さっき、ダイヤの気配だったと言っていたよね」
 ダイヤ。確か、理を司るのだったろうか。音葉が持っている手札にはまだダイヤはない。命を司るというクラブの1は力を集めて増殖していった。それはまさしく生命力の発露ともいえるだろう。
 音葉自身を示すというクラブの1も、今ひとつわからない部分はあるが、水鏡の言う通り、力を司るといえる。
 おそらく、ダイヤとは何かのルールに則って力を行使するタイプの異形だ。クラブやスペードもルールに則ってはいるが、そういうものとは違う。たぶん。
「とにかく、もう一度、硝子細工に入り込んだ状態の奴を見てみる必要がある。確か、君はいくつも拡散すると、ノイズを鑑定できないんだったよね」
 水鏡は何も答えず頷いた。その瞳は、いつも音葉を見るそれではなく、まるで、犯罪者や罪人をみるような光を宿している。何か疑われる覚えがあるか、少し考えてみたが、思い至ることはない。
「たぶん、あの液体はいくつもの硝子細工に同時に入りこめる。少なくても同時に三人。ある程度集まっているところを見つけないと、狩れないだろう?」
 上るか下るか。答えは決まっている。より、彼らに近いほうだ。
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プロフィール
HN:
若草八雲
年齢:
37
性別:
非公開
誕生日:
1986/09/15
職業:
××××
趣味:
読書とか創作とか
自己紹介:
色んなところで見かける人もいるかもしれませんがあまり気にせず。
ブログとか作ってみたけれど続くかどうかがわからないので、暇な人だけ見ればいいような。
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