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作成した小説を保管・公開しているブログです。 現在は連作短編が二篇の他,短編小説,エッセイの類を掲載しています。 連作小説の更新ペースは随時。二か月に三回を最低ラインとして目指しています。
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不思議の国6
死体の描写のために死体をみるという話。

より深いリアリティーのためには本物を見なくっちゃあ!
というのは、定期的にいろんな作品で見るんですが、死体の描写のために死体を見る作家ってどれくらいいるのだろうと思っています。
法医学のテキストとかを見れば、ある程度、死体に関する基本情報は入ってくるとは思うんですが、たぶん、生の死体をみるのが一番死体について詳しくなる道だとは思うのです。

ただ、自分を振り返ってみると、死体を見る経験はできればそれほど重ねたくはない。

何度か機会があって死体をみたことはありますが、やっぱりどうして、あれは生きていない。
文学的な表現をするなら魂が抜けたってことなのだろうし、落ち着いて比較をするなら、血が通ってないし、表情がない。筋肉が弛緩していて、輪郭がぼやけている。
死体は、身体というのは容器であって、中身が入っているのといないのでは違うのだなと、文章に起こそうと思えばなんやかんやと表現ができなくはないのです。
けれども、死体そのものを目の前にしたときは、「ああ、こりゃあ死んでるねぇ」という気持ちと、「ちょっと怖いな」という気持ちがぶつかって混乱してしまい、あんまり死体を観察できなかった。
ああいう場面で死体を緻密に観察することができる能力っていうのは、場数を踏めばついてくるものなのか、そして、そもそも場数を踏むべきなんだろうか、というのを、死体を描くシーンをうっかり作った時によく思い返します。

ところで、ネット上の感想とかでは、スポーツの道具の持ち方が違う云々はあっても、あの死体はおかしい!という死体警察みたいなのは出現していないところを見ると、みんな死体に関する取材にそんなに熱心ではないのだろうか…(そもそもそんなに日常的に死体が見られる生活スタイルの人がいない?)

(以下本編です なお本編の内容と冒頭の駄文に関連性はありません。)
ーーーーーーーーー


 特段の妨害等もなく、上水道の図面は手に入った。鷲家口の予想通り、交差点の近くには上水道が通っており、それは、職人街の横を通って、浄水場へと繋がっている。
鷲家口に同乗者がいたこと、同乗者が現場から逃走したが、目撃証言らしきものがないことは、署内では既に共有された情報だ。あとは物損とはいえ、あのような危険な運転の事故の被疑者を逃がして良いのかと交通課をたきつけるだけで十分だ。
 現在、交通課が総出を上げて上水道の出入り口を探り、交差点から入れる整備坑の捜索を始めている。久住音葉と水鏡紅の消息も間もなくつかめるだろう。
「いいや、おそらくそれだけでは無理だ」
 一つ、考慮し忘れていることがある。鷲家口はそう言って立ち上がった。自分も整備坑に行きたいという。彼が運転をしていなかったことについては事故直後の目撃者が出てきたことで、裏付けが取れている。
 だが、事件関係者をそのまま現場に連れていくのは等々力といえども躊躇いがある。
「大丈夫だよ。君が一緒なら逃げはしない。まあ、誰が一緒でも僕に逃げる謂れはないんだけれども」
 そんな風に言われても、これは職務に対する姿勢の問題だ。念のため尋ねてみる。彼がいったいどういう理由で彼らが見つからないと思っているのか。
「それはね、楽屋裏、裏路地があるからだよ」
「裏路地。いいですか、私たちは」
「説明できない概念は存在しない、説明できないものはあるものとして語るが、それに寄らない」
「では」
「別に説明できない話を使用としているわけじゃない。久住君は、東羽新報の山田となのる何者かと出会い、裏路地の存在を示された。彼が思いついたように話していたが、あれはそういう発想ができるかどうかを試されていたのだと思う。まあ、いずれにせよ、あの職人街のどこかには『裏路地』があるんだ」
 おそらく、それを見つけるのはたやすいことじゃない。

*****
 整備坑の中は思ったより明るい。先に水道会社に連絡をしておいたのも功を奏している理由だと思うが、まるでちょっとしたトンネルだ。
 彼は、前を歩く先輩刑事を追いかけて、水の横の通路を歩いていた。下水道ではないから、水路を流れる水はきれいなはずだ。だが、それでもトンネル内を流れる水というのは好きになれなかった。だからなるべく水を見ないように、周囲を見ながら先に進んだ。
 そもそも、本当に事故を起こした運転手がこんな通路に逃げ込んだのだろうか。そうした疑問も、彼の集中力を散漫にさせていた理由の一つだ。
 だからこそ、先を行く先輩警官が通り過ぎたその場所に、彼は立ち止まってしまった。
 図面を見た時、この整備坑はまっすぐだったはずだ。近隣の建物に水を供給するための枝分かれは多数あるが、整備坑自体は枝分かれしていいない。だが、彼の目の前には分岐があった。
 表面が薄い膜のようなもので包まれているが、覗き込むと確かに道がある。膜に手を触れてみると、薄い硝子のようだった。カタカタと膜が震えたので思わず手を離した。
 膜全体が光ったような気がして、彼は思わず目を閉じた。再び目を開くと。膜が消えて、ぽっかりと黒い通路が開いていた。先輩の姿を目で追いかけるが、先輩はだいぶ奥へと進んでしまっている。
 でも、図面にないこの道は、もしかして運転手はこちらに行ったのかもしれない。そう思うと穴の中が気になった。
 ごきゅ。唾を呑みこむと、奇妙な音が鳴ったので、彼は思わず身体を逸らした。背中が固いものにぶつかり、彼は背後を振り返った。

 後輩が後ろにいないことに気が付いた男は、整備坑を駆け戻った。どこにも分岐がなかったにも関わらず、迷子になるというのは考えにくかったが、いないものは仕方がない。
 しばらく戻ると、後輩の警官は、地上に繋がる梯子を眺めて立ち止まっていた。
「おい、どうした。何かあったのか」
 後輩はゆっくりと首を回して、男に向きなおった。どことなく動きがぎこちないが、上を見ていたから首でも痛めたのだろうと思った。
「あそこの出口、よく見ると、中から開けたような痕があるなって」
 言葉を出すのがつらかったのか、何度かつばを飲み込みながら話す。つばを呑む度にごきゅり、ごきゅりという音を鳴らす後輩に、男は気味の悪さを覚えた。
「いくら緊張しているからといって、係長の真似をするのはやめろ。怖いだろ」
「てへへ。すみません。なんか見ているうちに癖になっているのかも」
「そういう癖は捜査の時に相手に不快感を与えるぞ。意識してやめたほうがいい。とにかく、上に登ってみよう」
 後輩を窘めて、男は梯子に手をかけた。後輩は悪い癖だと自覚したようで。次は一回頷くだけに反応を留めた。男は、後輩が見つけた手がかりを求めて梯子を上った

*****
 暗い上り坂を這うように進むと、開けた場所に出た。先に登り切った音葉が肩に乗せた海月をつつき、辺りに淡い灯りを散らしていた。
 海月の灯りを頼りに辺りを見回すが、見覚えのある景色ではなかった。
 星もなく、街灯もない。辺りはとても暗い。まだ、地下なのかと思ったが、海月は音葉たちの遥か上まで飛んでいく。
「外、なのかな」
「どうだろう。足元はアスファルトで、近くに歩道のようなものは見えるけれど」
 音葉のいうとおり、紅たちが立っているのはアスファルトの上だ。だが、仮に外が夜になっていたとしても、これは昏すぎやしないだろうか。それに。
「人の気配が一切しないね」
 確かに港町の夜は早い。昨日も22時過ぎに店からでた時には既に街中は暗く、人がいなかった。だが、目の前の光景は何かが違う。まるで、人の気配というものがしない。
「近くに建物もあるみたいだ。進んでみよう」
 音葉は、紅の前に立って通路を進んでいく。彼と出会ってひと月。彼は、基本的に紅の話を信用していない。事情はわかっているつもりだが、紅としてはそれが少し寂しかった。
 だが、団地で海月と出会ったころから、ノイズが近くにいると、久住音葉の纏う雰囲気が変わる。いつものように穏やかではあるが、積極的にノイズを追い詰め始める。
 それは、水鏡紅が久住音葉に望んだ姿ではある。
「どこの家も、扉は閉まっているし、誰も中にいなそうだよ。それに、かなり古いよこの家。アスファルトの歩道なのに、ほとんどが木造」
「木造だから古いっていうのは乱暴な表現だよ。でも、確かに古い。こんな古い建物、この街に来てから初めてみる。けれども、窓はとても新しいような気がする」
 音葉の手が、民家の窓に触れた。海月が彼の手に近づき、窓を照らし出す。
「ほら、二重構造になっているし、中に格子が入っている。たぶん、思いきり叩いても割れにくい。なんで、窓だけがこんなに丈夫に作られているんだ」
 さっきの部屋にいた硝子細工を思い出してしまう。ここはあのガラス細工の中にいたモノが逃げ込んだ場所だ。このガラス窓にも、モノが中に入るのではないかと思うと、気味が悪かった。
 窓から目を背けて暗闇に目をやると、遠くにぼんやりと灯りが灯っているのが見えた。音葉が連れている海月は手元を照らしているものだけだ。
「音葉、灯りが見える」
 音葉も紅の指さす方向にあるものを見つけたらしく頷いた。

 それは、縁日だった。海月がなくても道はぼんやりと照らされている。照らしているのは硝子で作られた提灯だ。通りの両脇に提灯が並び、屋台が続いている。お面屋、金魚すくい、ヨーヨーすくい、焼きそば、アメリカンドック、綿あめ。
 どの屋台にも人気はない。けれども、そこには確かに食べ物があるし、金魚は泳いでいる。試しに金魚すくいの水槽に手を入れてみた。冷たい。ばしゃばしゃと波を作ってやると、金魚は水槽の端へと逃げていった。
「なんで、縁日があるの……」
「それだけじゃない。水鏡、ここは職人街だ。どの建物も見覚えがある」
 でも、それはおかしい。今まで見てきた通りは、どこも初めてみる光景だ。
 紅は自分の背後を振り返った。縁日の一番端の提灯の灯りがふっと消えた。暗闇の向こうから何かが近づいてくる気配がする。
 ごきゅり。
 あの、嫌な音が紅の耳にも届いた。耳鳴りが酷くなり、視界が荒くなる。暗闇の中から数歩、何かが灯りの元に踏み出してくる。けれども、紅は何かの姿を見ることはできない。
彼らが足を踏み出すたびに、提灯の灯りが消えていくからだ。
「水鏡紅。鑑定だ」
 音葉の声を合図に紅は暗闇の中を凝視した。暗闇の中に現れたのは、案の定ダイヤの紋章だ。理を司るダイヤ。紅は、音葉に頭に浮かんだイメージを伝える。
「ダイヤの2。よくわからないけれど、あれは、硝子を操る」
「よくわからない。そういう答えもあるのは意外だった」
「なんて言えばいいかわからなくて……水のようだけれど、水じゃない」
「水鏡。それは、一つなのか、それとも海月のように多数いるのかはわかるか」
 一つか、多数か。紅は音葉の質問の意図が分からなかった。けれども、今の紅には彼の質問を拒否できない。
「ひとつ。だと思う」
 少なくても、たくさんではない。ただ、その境がとても曖昧だ。
「なるほど。それで十分だ。相手はおそらく意思を持つ硝子だ」
 他のガラスを操り、そして、表面を偽装する。そう続けた音葉は確信に満ちていた。提灯に照らされた音葉の口元が少し緩んだ様子をみて、紅は少し後悔した。
 後悔。どうして?
 胸の中に湧いた疑問は、音葉の指示で掻き消える。
「スペードの1とクラブの1。どちらも同時に使いたい。できるか」
「できるよ。音葉が望めば」
 紅の手の中には既に二枚の札がある。クラブの1。海月が描かれたトランプが光を纏って姿を消す。そして、紅と音葉の周りに淡い青色の海月が数匹現れた。
 続けてクラブの1が手元から消える。途端に音葉の気配が強くなり、そして、次の瞬間に掻き消える。気配が消えたり強くなったりを何度も繰り返すものだから、紅は隣に音葉がいるのか不安になる。
「大丈夫だ。少しずつ、使い方が分かってきた」
 紅の気が付かないうちに海月の中に灯りが入る。海月は分裂を繰り返しながら、縁日の消えた提灯のところへと飛んでいく。闇に溶けていた縁日が再び紅たちの前に姿を見せる。
「何、あれ」
 闇に包まれていた縁日は、紅たちが通った時と大きく様変わりした。そこにいたのは、通りを埋め尽くす人の群れ。彼らは揃って足を踏み出し、一歩。また一歩と近づいてくる。
 人間のように見えるがよく見ると人間ではない。肌があまりにつるつるしており、動かしているところ以外は固くて動く気配がない。まるで音葉が持ってきた着色硝子で作られたガラス細工だ。人間大のガラス細工が群れを成して近づいてきている。
「音葉。あんな数にどうやって勝つの?」
「さっき壊して見せただろ。同じ要領さ。あまり気負うことはない」
 勝算があるから、僕はここにきたんだ。

*****
 事故関係者の逃走経路が判明したと報告が入り、交通課は慌ただしさを増していた。
 等々力は交通課の近くを通り、彼らの仕事を盗み見て、彼らが辺りを付けた場所を特定した。それによると、職人街から200メートルほど離れた、商店街横の整備用出入り口から逃走ということになっている。
 鷲家口が予想していた職人街との関連性は見つからず、交通課は商店街を中心に同心円状に捜索範囲を広げているようである。
 取調室に待たせていた鷲家口にその話をすると、予想通り、彼は捜査方針を疑った。
「ですが、確かにマンホールは内側から開閉されていて、そこから誰かが出たと思われることは疑いがないようです。状況を照らし合わせれば」
「他に出口がないという捜査員の報告が正しければね」
「まだ気にしているんですか、その裏路地というのを。でも、そういったものはないと思いますよ」
 等々力は鷲家口に対して、捜査員が録画してきた上水道の整備坑の映像を見せる。ところどころ途切れがちではあるが、彼らが捜索した範囲に、ほかに出入りができそうな場所がないことがよくわかるはずだ。
 鷲家口はそれを食い入るように見つめ、やがて、ある時間帯の部分を何度も再生し始めた。そして、くつくつと笑い始めた。
「等々力君。君も、交通課の人たちも、本当に画面を見たのかい」
「見ていますよ。彼らが見つけた道以外に通路はないじゃないですか」
 等々力の顔を見て、彼はついに声を上げて笑った。
「そうじゃない。そうじゃないよ。君は変わった事件ばかり僕に持ってくるのに、そういうところが素朴だな。僕が言っているのは分岐の有無の話じゃない」
 鷲家口はそういって、端末の画面をこちらに向けた。彼の操作に合わせて、画面が二つの時間を行き来する。どちらの画面にも映り込んでいるのは撮影者の警官のパートナーだ。
 画面の中には分岐等が映っているようには見えないし、特に異常はないようにみえる。
「本当に? じゃあ、これならどうだい。こっちが整備坑道に入ったばかりのころの警官、そして、これが蓋が開いているのを見つけた時の警官」
 鷲家口が示した最初の映像と、後の映像は、確かに同じ警官を映したものだ。画面に写っているのは、同じ顔で、同じ制服を着ている人間なのは間違いがない。だが、何度もその画面を見直すうちに、等々力は奇妙な感覚に襲われた。
 鷲家口が画面の男の左の額を指す。
「なるほど。これは、いったい」
 整備坑に入った時の男には左の額に傷があるが、整備坑を出るときの男には額に傷がない。整備坑に入っていたのは数十分程度だ。額の傷が消えてなくなるのはおかしい。考えられるとしたら
「彼はとてもよく似た別人だ」
「そんなこと。仮に百歩譲ってそうなのだとして、どこで入れ替わったのでしょう」
 論理が破たんしている。整備坑は一本道で、人が入れ替わる隙はない。だが、傷が消えている人間の姿について説明がつかない。
 説明できないことは生じない。矛盾しているのであれば、想定が誤っている。
「整備坑が一本道ではないか、この警官が同一人物か」
 鷲家口の言葉は等々力を試している。鷲家口の下にやったはずの佐藤は未だに行方が知れない。頭の中で様々な情報が渦巻いていた。悪い兆候だ。大きく息を吸い込んだ。
「仕方がありません。私たちも整備坑に潜ってみましょう。幸い、今は署内が慌ただしいですし、一人くらい捜査現場に人が増えてもばれないでしょう」
 鷲家口がガッツポーズを取ったのを見て、等々力は肩を落とした。
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HN:
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年齢:
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性別:
非公開
誕生日:
1986/09/15
職業:
××××
趣味:
読書とか創作とか
自己紹介:
色んなところで見かける人もいるかもしれませんがあまり気にせず。
ブログとか作ってみたけれど続くかどうかがわからないので、暇な人だけ見ればいいような。
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