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作成した小説を保管・公開しているブログです。 現在は連作短編が二篇の他,短編小説,エッセイの類を掲載しています。 連作小説の更新ペースは随時。二か月に三回を最低ラインとして目指しています。
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御坂異界録ラフテキスト1
答案構成探してたら、昔途中まで作った小説の作中作を発掘したので冒頭部だけ。

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 今日まで積み上げられた多くの研究は、呪術というものを科学的に分解していくアプローチが主体であったように思われる。彼らの専らの関心事は、呪術を解体して、その背景にある思想や信仰、精神的な文化を考察することにあったに違いない。研究者達にとって、呪術とは研究対象を理解するツールではありうるが、多くの場合、呪術それ自体を技術と捉えることはしてこなかったように思われる。
 無論、趣味の域を超えることのない私の読んだ限りでの印象であり、異論が数多く存在するであろうことは否定しない。
 私は呪術とは科学と同一レベルの体系を持った効果的な技術であると考えている。呪術では物理現象を支配できないというが、自らの精神を通して外界を把握しているに過ぎないという人間の限界を鑑みれば、呪術によっても物理現象は支配されうるのではないか。
 例えば、一箇所に存在している全ての人間が、中空に炎が点ったと認識すれば、そこには現実として炎が点ったことになる。絵空事のように思われるが、実際にそういった現象は数多く観測されている。我々は科学的なアプローチに引きずられ、それを万能に近いものと考えているが、他方で有用な力であった呪術を忘れ去ってしまっているのではないだろうか。
 もっとも、仮に呪術的な力が実在するとして、物理的なエネルギー以外に現象を支配する力は一体何処から現れるのか。残念ながら、自らの手で自在に呪術を使いこなせない私には知ることの出来ない。おそらくは我々の住む世界と重なり合うように異界あるいは「幽世」と呼ばれる次元が存在し、その次元においては科学とは違う特殊なエネルギーが現象を支配しているのではないかと思う。
 呪術が使えるのは、異界と現世の間にぶれのようなものが生じている状況の下だけなのである。

 さて、私がこのような考えを持つにいたったのは、御坂町の各地にて確認されている怪奇現象を記録してきたからである。此処に記したのは、あくまで単純な思いつきに過ぎず、更なる研究を続ける必要がある。しかし、私にはどうやらほとんど時間が残っていないらしい。そこで、適切なる力の行使ができる者に、この記述と私の記録を託そうと思う。この覚書については害がないであろうが、もう一つの記録については、力の行使ができないものには多大な害を及ぼすことを、私は私を慕ってくれた一人の学生の身を通して体験した。彼女のような被害を出さないためにも、力のない者には決して渡らないように、最後にささやかながらの抵抗を行っておこうと思う。願わくは、私の最後の願いが呪術に昇華してほしいものである。
―芳賀源蔵 研究記録ノートVOL.45 最終頁より

*****

『客人のこと』

 いくら冷静になろうとも、いくら客観的になろうとも、自分のことを正確に観察できる者はいない。何故なら、観察とは観察者とは別のものを対象にして行われる行為だからである。多少は観察をすることができたとしても、正確性は失われる。
 町の異変もしかりである。町は絶えず変化しているが、その変化に気がつけるのは町の人々ではない。町の者は町と共に移り変わるがゆえに、町の異変には気がつかない。異変に気がつけるのは町の外から来た客人のみである。
 他方で、客人は町の秩序を揺るがす風を呼び込む存在でもある。ゆえに町が静的な状態にあるとき、町は客人を排斥する。これは至って通常のことであり、客人を絶えず受け入れてしまえば、町が町でなくなってしまうのである。
 そういうわけで、客人は異変を観察できる唯一の存在であり、また異変を惹きつける性質をも有しているのである。

『記録者のこと』

 ある日、私の元に一人の男が訪れた。彼は自らのことを客人と名乗る。そのような男が私のうちに何の用であるかと尋ねれば、彼は私に紙の束を差し出した。私が戸惑っていると、男はなにやら不思議な話を語り始めるのである。私はとっさに紙の束を掴みペンを走らせたのだが、一体何のためにこのような行為を行ったのかは皆目見当がつかない。男の話は不思議な話ではあったが、聞きなれない話ではなかった。隣の爺が同じ事を話していたのを聞いていたし、そのときも何処かにメモを取ったのである。
 一つめの話を終えると、男は大きく呼吸をし、私が書きとめた紙を取り上げた。そして、遠めに眺めて満足げに頷く。私が彼に尋ねようとすると、彼は紙を机に置き、新しい話を始める。わけもわからず私は彼の話を書きとめ始める。
 そういう風に一晩の間、男の話を次々と紙に書き留めると、初めに男に渡された紙の束のほとんどが黒く染まっていた。男は朝日が出る一時間ほど前になると、明日の夜も紙の束を持ってやってくると告げて家を後にした。
 次の夜も男は予告どおりにやってきて、私は昨夜と同じように記録を続けている。これが一週間ほど続いた。随分と紙の束も多くなったと感じた頃、いつもよりも一時間ほど遅くに男がやってきた。
 その日の男は紙束を持たず、ただ一冊のノートを手に持って玄関に立ち尽くしていた。今日は書かないのかと尋ねると、私は立派に記録者になったと述べて、ノートを一冊差し出した。
 怪異は記録されることによって記憶される。記憶されることによって次の機会に対処が出来る。それと、町の異変は町のものにきけ。男はそれだけ言い残して私の家を後にした。
それ以来、男が家を訪ねてくることはない。私は、今でも記録をつけ続けている。

『空に沈む魚のこと』

 妻が自宅の庭先でぼんやりと空を眺めていた。先ほど通りかかったときも同じ格好で空を観ていたので気になって、妻に尋ねてみると、妻は空に魚が沈んでいくという。
 私は妻が指差す方向を見てみるが、いつもの通り、何も見えない。私はいつもの通り、紙束を持って妻に詳しく話を聞き始める。
 曰く、空から魚が飛び出してきて地上まで辿り着いたかと思うと、丸っこい風船のようなものを加えて空へと沈んでいくのだそうだ。それは定期的に繰り返されていて、昨日からもう五、六回は見かけたという。妻はそれが何であるかまではわからないらしい。ただ、魚が空へと沈んでいくのは不思議だなと空を見つめていたらしい。
 妻が見かけたという垣根の向こう側を探してみると、野良犬の死骸を見つけてしまった。死骸はどうも衰弱死のようである。
 空へと沈んだ魚はこの野良犬の生気を吸っていたのであろうか。私は妻に魚が降りてきたときには食べられないように気をつけるよう伝えた。

『町の異変のこと』

 町の異変はいつもあちらこちらで起きているわけではないと、その男は言う。異変が起きるのにはそれなりの理由があるのだと。私の枕元で理由について長々と講義を垂れてくれるのだが、紙束がないのでメモを取ることができない。目を覚ましてからもう一度講義をして欲しいと懇願してみるのだが、男は講義をやめようとしない。
 結局、夜通し講義を聴かされ続けたが、覚えていたのは町の異変が決して無造作に起きるわけではないということだけである。どうにも異変は他の異変との兼ね合いで起きるものだとか、目的があって生まれるものだとか、色々話していたはずなのだが、これ以降枕元に男が立つことがなく、講義を聴きなおすことは出来ていない。

『紙束のこと』

 記録用のノートが一冊終わった頃に、やはり初めのように紙束に記録するほうがよいのではないかと思い、近所の紙屋を訪れた。その日の紙屋はいつもに比べてどうにも照明が暗く、隣で品定めをしている客の顔すら見ることができないものだった。店員に明るくならないのかと尋ねてみると、今は明るく出来ないのだと返答される。仕方がないから、薄明かりの中で書きやすそうな紙束を一掴み買って帰る。
 晩に妻にその話をすると近所に紙屋はないという。しかし、私はいつもそこの紙屋で紙を買っている記憶があるし、私の目の前には紙が存在する。いったいこの紙束は何処から出てきたものだというのであろう。
 その後、紙束がなくなったならば紙屋に行こうと思っていたが、紙束は一向に減ることがなかった。順調に棚の中の記録は増えているのに紙束は減らない。妻が買い足しているのかとも思ったのだが、もし買い足していないのであれば、どうして増えているのかがわからない。私は紙束の出所を確かめることが怖くて今でも確かめていない。だから、私はあの紙屋に行っていない。

―御坂異界録―
******

自分で書いた文章なのに覚えてないなー。
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カステラの話
現実逃避おしまい。本文作るより、パスワード探すことの方が大変とかどうかしてる。


以下本文
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 数年ぶりに実家に帰ると、母校がカステラに覆われたとのニュースが流れていた。現在2年生の妹と共に校舎を訪れてみると、確かに巨大なカステラに覆われている。僕は正直戸惑いが隠せないのだが、隣の妹はあっけらかんとしていて「今日は休みかなー」と笑顔を見せている。

 「休みかな」ではない。校舎がカステラに覆われるなどという珍事に対して妹はあまりに反応が薄いのではないだろうか。校舎の端では先生達がスコップでカステラを掘り返しており、「10時ころには山田工務店から重機が来ます!」などと叫んでいる声が聞こえる。

 「あーあ、ブルドーザーとか来たらあっという間にカステラなくなるじゃん。ぶー」妹は先生達の様子に不満げだ。僕はというと未だに状況がつかめないままだ。「お兄ちゃん、何そんなにきょとんとしているの?」妹よ、この光景は普通きょとんとするものだと兄は思う。

 「え?」妹は兄が何を言っているのかがわからないと目を丸くする。「だって、よくあることじゃない」僕は妹がわからない。「お兄ちゃんって本当に周り見てないんだねー。家の向かいの木村さんのところも、犬小屋がカステラに覆われて朝騒いでいたじゃない」そんな馬鹿な。

 妹の突拍子のない発言に僕は呆れかえってしまい、とりあえず彼女を無視して先生方を手伝おうと校内に踏み出した。「待って待って、一度帰ろうよ、どうせブルドーザー来るし」妹は僕の腕を掴んで必死に食い止めようとする。どうせ校舎が掘り出されるのを遅らせたいのだろう。

 僕は妹の意見を聞く気がないのだが、妹は落ち着いてと繰り返すばかりだ。「そんなに慌てなくても別に何も問題ないでしょ?」妹は必死に訴える。問題といえば母校が一日休校になる程度で、特に人身被害があるわけでもない。僕が慌てたところで何の意味もないというのだ。

 確かに、それはそうなのだが…僕は返す言葉がなく、結局、妹に押し切られ帰宅する羽目になった。しかし、本当にこれでよいのだろうか。高校の校舎が丸ごとカステラに覆われるなど、放置してはいけない珍事なのではないだろうか。

 そこで、僕はふと違和感を覚えた。誰がどう見たって先ほどの光景は珍事だ。にも関わらず、街中は何もなかったかのように平和そのものだ。学校に遅刻しそうな学生が走っているのを見かける程度で、通行人はほとんどいない。「休校の連絡来たって」妹が携帯を見せて微笑む。

 一体どうなっているのだろうか。謎だ。「だから言ってるじゃん大事じゃないって」と言われてもそうは思えない。「んーもう…あ、ほらあそこの駐車場!」妹が声を上げて道路の向かいにあるコンビニを指差す。そこには乗用車よりやや大きい程度のカステラが鎮座していた。

 カステラが鎮座? 僕は何度もその様子を観直してみる。しかし、何度見ても確かにカステラだ。大きさから考えれば、車がカステラに覆われたのだろう。コンビニから出てきたスーツ姿の男性がカステラの前まできて、天を仰いだ。どうやら車の持ち主らしい。

 「ああ、ええ。ちょっとコンビニに寄っている間に…はい。すいません。一時間くらいでなんとかなるかと…」男が天を仰いでいたのはそれほど長時間ではなく、携帯で職場に連絡を入れると、コンビニに戻り、スコップを持って出てきたと思えばカステラを掘り出し始めた。

 「あの」妹が声をかけると、男はスコップを片手にじっと僕と妹を見る。「手伝いましょうか」「ほんとに?助かるよ。店長さんに言えばスコップ貸してもらえるから、でも学校はいいの」「あ、学校休校で」「そういえば朝のラジオでやっていたな…△△高校かい」「ええ」

 二人は当たり前にカステラで埋もれた母校の話をするし、コンビニの店長は快くスコップを貸してくれる。中身を傷つけないようにと先に緩衝材を付けて、力の入れ方に気をつけてなどと助言まで添えて。こうして、どういうわけか、僕は妹と一緒に男の車を掘り出している。

 30分ほど掘り進んだところで、カステラに埋もれていた車の全体像が現れ、「あとは走っているうちに落ちるでしょ」と男。ひとしきり僕と妹、店長にお礼を言うと、何事もなかったかのように車に乗り職場へと向かっていく。後に残ったのは車についていたカステラだけだ。

 このカステラはどうするのか。そう尋ねると、店長は気にするなという。妹の方を見ると、市の回収業者がやってきて処分するから大丈夫とのこと。「んー人助けしたし、家に帰ってのんびりおやつでも食べるかー」一時間前に朝食を食べた妹ののんきな声が横で響く。

 家に帰ると、木村さんの家の前に「カステラ回収車」と大きくペイントされたごみ収集車が止まっており、ブルーの制服を着た作業員が袋詰めしたカステラを延々と後ろの投入口に投げ込んでいる。

 どうやら妹の言うとおり、この街では物がカステラに覆われることは日常茶飯事のようだ。観念した様子の僕に、妹が勝ち誇ったように胸を張る。「ほら、私の言ったとおりだった。お兄ちゃんは昔から周囲への関心がなさすぎるのよ!」

 そう言われても、その辺にカステラがあるか注意深く観察する人間が何処にいるのだろうか。いや、この街にはそういう人がたくさんいるのかもしれない。僕は帰省して半日もしないうちに、なんだかとても疲れてしまい、玄関でへたり込んでしまった。

*******
内容はともかく、短編というとこれくらいの量が適切なのかなー。などと。
対言語戦争(覚書 2
うっかり続き作っちゃった。

対言語戦争(覚書→■■■

以下本文>

3.
 さて、対言語戦争をめぐる事の発端について今の僕が語れるのはこれが限界だ。以前利用していた言語においてはもう少し細かい説明ができていたようにも思うのだが、これが第14世代日本言語における表現の限界なのか、それとも言語の乗り換えが生じるたびに発生する過去の消失効果の影響を受けたものなのかは判然としない。正しく検証できるのであれば、一度その検証を行うことが、現在の戦況をひっくり返す「偉大なる一撃」を生み出すことに繋がるような気はしているけれど、残念ながら僕の仕事は記録であり、侵略言語に対して「偉大なる一撃」を打ち込む英雄でも、前線で妨害言語の雨を降らせる一等兵でもない。

 とにもかくにも、対言語戦争における言語側の一撃は、僕らに多大なダメージを与え、勝ち誇ったように新種の言語が拡散を続けている間、僕たちは生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされ続けていたといえる。これに対し、僕たちがとりえた対抗手段はコミュニケーションのための共通言語、今でいる日本言語や英国圏言語と呼ばれる一定期間体系を保持できる言語の開発だ。

 それはどのようにして開発されていったのか、人間の言語に対する反撃の第一歩についての歴史は、対言語戦争の発端と比較しても錯綜し謎に包まれた部分が大きい。というのも、言語たちの先制攻撃により徹底的に他者との交流を破壊されていた、場合によっては自己の中ですらまともな応答ができなくなっていた現状において、それを正しく認識、記録する術を持つことは不可能だったからだ。
 僕たちは、とにかく隣に立つ「何か」と共通する指標を探し回り、砂漠の真ん中のオアシスの一滴を追い求めるかのごとく地べたを這い回っていたのだと思う。この場合、這い回っていたのは言語基盤の上といったほうが適切だろうか。

 僕が知る限り、第1世代日本言語は初期型の共通言語の中でも比較的善戦したほうだ。先に紹介した政治家たちが絶対の盾などと主張したくなった気持ちもわかる。第1世代日本言語の確立において、日本言語圏がとった戦略はとても単純だった。対言語戦争の初期において自動言語生成プログラムは今ほど普遍的な存在ではなかったことに着目し(たまたま近くに強力な核が存在していなかったともいえる)、プログラムに気が付かれることなく、人力のみで共通言語を構築していったのだ。戦争初期の侵略言語たちは、旧時代の言語に類似した形をとってこっそりと侵入・占領を繰り返すのが基本戦術であったことに、日本言語は識字率の高さと統一化が図られていた経緯が偶然にも重なったため、侵略言語に侵されてはいたものの、日本言語圏内では比較的意思疎通を行える共同体が存在していたことが幸運であったともいえよう。

 少なくても4町向こうのゲートボール仲間である八百屋のげんさんと、染物屋のトメさんとなら会話が通じる。2丁目のポチに群がっている頭と背中の概念が混同してしまい、ひらすらブリッジを繰り返していた集団は、不思議なことに食べ物の名称についてのみ他の集団と共通の言語を有している。そうした小さな共通項を頼りに、日本言語圏内の住民たちは再び共通言語を確立していったのである。

 対して初期型の共通言語においてもっとも派手な失策を行ったのはご存じのとおり英国語圏である。自動言語生成プログラムに対して多大な開発費を投下し続け、各国で開発争いを続けていたという英国語圏内は、人々が対言語戦争の存在を認知し混乱に見舞われている中、積極的に自動言語生成プログラムを頼った。もともと複数の言語が入り乱れていた地域だからなのか、げんさんとトメさんのような幸運が存在しなかったからなのかはわからないが、彼らは共通言語を立て直すために自動言語生成プログラムによる統一言語の開発を行ったのである。

 統一言語の開発直後において、英国語圏内は瞬く間に復興をなしたといわれているが、この事態が言語側にとっては渡りに船であったことは、今となってみれば誰にとっても明らかである。現に英国語圏内は復興を宣言したと同時に、後に「偽装統一言語『第1世代英国語』」と呼ばれる侵略言語たちにより旧言語を完全に奪われ、その後まもなく行われた意図的な大規模不規則的文節変化によって滅亡しかけた歴史があるという。以前、日本言語圏内に存在していた古書の一部を英国語圏内に持ち込んだ際に、(もちろん侵略言語たちにより書き換えられた可能性は否定できないが)一文字たりとも同じ言語を発見できなかったことから、これらの歴史はおおよそ真実であり、英国語圏内の侵略言語は猛威を振るったのであろうと僕は思っている。

 彼らが巧みであったのは、当時展開されていた侵略言語とは違い、一度は統一言語のそぶりを見せてやったことである。自動言語生成プログラムを利用した英国語圏内の人間たちは、うまい具合に自分たちが旧言語を復権させたと思い込み、第1世代英国語と称した侵略言語たちをばらまいた。その言語を受け取った人間たちも混乱から救われた安堵から、第1世代英国語が戦争以前に自らが利用していた言語かどうか省みることがなかった。彼らは人間の彼らに対する敵対行動に乗っかって効率的に覇権を奪い、他の地域における侵略言語たちのその後の基本戦術を方向付ける役割を担ったのだ。


続きはまた何か思いついたり時間があったら書く>
対言語戦争について(覚書)
シャワーに入っているうちに頭をよぎった話を無視するに無視できなかったので、思い至ったことだけ殴り書きしておいた。

以下本文>

1.
 第8期第17世代日本言語による北九州の防衛戦線が破られたと聞いて、僕は今までまとめていたこのなんだかよくわからない紛争の経緯について、第8期第14世代日本言語に置き換える作業に追われている。

 追われていると言っても、北九州の防衛戦線が破られた時、僕は第17世代日本言語における防衛戦線の北側2キロ程度の位置で、関西と関東のどちらがより東であると定義されるべきかを争う、昨今ありがちな侵略戦争の記録係をしていたために、仕事の片手間にまとめた紛争の経緯のほとんどは、中華系日本言語7-に取り込まれ、あるいは書きかえられてしまったため、同じように復元することは難しいように思う。

 何よりも、北九州防衛戦線の立て直しのために投入が決定された、第7期日本言語による防壁構築が遅れているせいで今この瞬間も利用している言語が侵略される危険性が高まっている。だからこそ、僕は他言語たちが侵略先に選びにくい絶滅寸前の第14世代日本言語を利用することにした。第9期への移行が予想されている今、第8期の初代言語である第14世代に頼るのは少々危ない賭けのように思うかもしれない。けれども、個人的な見解によれば第9期以降の世界において、第7世代と第2世代の掛け合わせによって作られたという第14世代日本言語は、他の言語からの侵略可能性が低いうえに、解読に必要な分説が少なく、もっとも解読される可能性が高いものだと思う。
 
2.
 さて、この文書に目を通している人たちには、この紛争が一体どうして起きたのか、そもそも何が起きているのかがわからないまま、日々の時間を過ごしている人も多いと思う。正直な話、戦場を飛び回って記録を続けてきた僕にだって紛争の全容どころか現状すらよく理解できていない。

 ただ、現在この世界に暮らしている多くの人が納得しているであろう経緯を一言で表すなら、この紛争は「言語による人間への宣戦布告」だ。通称、対言語戦争と呼ばれる。

 事の発端は、自動言語生成プログラムと呼ばれる現在では見かけない場所がないほどに広まってしまった例のウイルス達が開発されたことらしい。彼らは、人間が利用する言語の発達経過を観測し、言語の獲得過程をプログラムとして解析するために作られたと言われているが、本当のところはわかったものじゃない。以前、第6期か第5期の言語が利用されている研究施設に足を運んだ時には、自動言語生成プログラムは、一つの研究チームが研究成果を他に奪われないために作った自衛のためのプログラムであると聞いた。他方で、東北道地区において放棄されていた(第6期の日本言語がいう意味においての)初期型の自動言語生成プログラム「ケゥトム」が語学の苦手な子供たちへ言語を学べる環境を提供するために作られたと証言したことは記憶に新しいと思う。

 自動言語生成プログラムが何のために作られたものかはさておいて、それの開発によって、言語を使う人間たちとは離れた全く関係ないところで、やつらは好き勝手に進化を続けることが可能になったことは疑いがない。初めのうちは数個のキーワードを入力するだけで異国の言語が大量に生成されるものだから、人間様としては面白くて仕方なかったのかもしれない。生成される言語の量が増えるにつれて、利用しているものが見当たらない言語が大量に現れるようになってしまった。

 自分たちの使う言語と見分けのつかない言語を吐きだし、いつの間にか僕たちの使う言語を書き換えてしまう現象が世界各地で認知された時には、すでに言語たちの先制攻撃は華麗に決まってしまっており、僕たちは言語戦争以前の歴史のほとんどを失った。

 対言語戦争以前において世界有数の軍事力と資産を有していたいくつかの国は、言語たちの侵略可能性が低い北極を拠点に巨大な閉鎖型情報データベースを構築することで、対言語戦争以前の歴史を保持しようと躍起になっている(ということに第8期日本言語と、第44世代英国語圏においてはなっている)。もっとも、現状それがうまくいっているかどうかは誰にもわからない。僕は同計画には懐疑的な立場で、外部から閉鎖したデータベースであったとしても、そこに言語が存在する限り紛争は防げないし、ひょっとすると、環境の変化を制御することによって新規の言語防壁を開発したり、侵略言語たちに打ち込む妨害言語の開発を行っていたりするのではないかと陰謀論を吹聴して回るタイプだ。現在青森付近で頻発している所属不明の言語部隊はそうして北極からやってきた言語たちなのではないかと思うが、確証はない。僕がこうしてここに記録して、誰かがこの記録を読むころには、そういうことになっているのかもしれないけれど。

 言語たちは僕たちが知らない間にこっそりと僕たちの言語になり替わり、言語によって保存されてきた過去と現在をあっという間に書き換えた。

 僕たちは、昨日までウマと呼んでいた生き物についてツァカルクホラスという呼び名を違和感なく使い、その連続性が保たれていると信じ込んでいた。ツァカルクホラスがウマではないかもしれないと疑い始めたのは、コモサケルルスと呼び始めてから数カ月後、別の地域ではマカルと呼んでいたことが判明し、国立図書館からマウという呼称で記録された図鑑が発見されてからだ。そのころには、ツァカルクホラスとコモサケルルスとマカルとマウ、そしてウマが本当に同一のものを指示していたのか、それともそれぞれが個別の何かなのかを判別することは誰にも不可能になっていた。何しろ、同じ場所で同じものを観察してきたはずの人々が、時間も場所も観察した対象の名前や形状に至るまであらゆる点で食い違ってしまうのだから、誰が何を見たのかは判然としないし、一つの個体にひとつの名前を付けることは困難極まりない。本当に同じモノを見たのかと問いなおしてみると、そもそも「見る」とは何であるかについての見解の不一致が巻き起こってしまい、頭が痛いからその議論に乗りたくはないと多くの人間がウマの同定を諦めたという。

 このような現象は僕が暮らしている日本言語圏以外でも同時多発的に発生した。日本言語圏においては、方言と呼ばれる言語の基本構造を共通にしつつも細部に多様性を認める言語体系が退化を始めていたことから混乱は比較的小規模にすんだ方であると言われている。日本言語圏の政治家たちは、紛争の初期において、すぐれた語学教育による識字率の高さと言語の統一化が日本言語圏を言語による侵略から守る絶対の剣になるとまで述べていたくらいだ。もっとも、識字率の高さは文字情報の増加を招き、文字情報の増加は言語の侵略の余地を広げるため、第3期日本言語が構築されたころには、世界中のあらゆる場所から、あるいは日本言語圏内から多種多様な侵略言語が現れててんやわんやの状況が続いている。

 対照的に紛争初期から混迷を極めていたのはヨーロッパ圏内である。各種地方によって大幅に訛りが存在していたと言われる英国語圏内においては対言語戦争が認知されたころには隣の家の人間どころか、同じ建物に暮らす昨日までは家族だったであろう相手ですら正しく認識はできず、コミュニケーションをとることが不可能になったという。ひとつの村の中で180以上の言語が飛び交った地域の話などは聞いただけでも眩暈がする。しかも、この村の住人はたったの60人程度であったらしく、一人の中で三つ程度の言語がせめぎ合っていた計算になる。

 こうして、紛争初期における言語たちの侵略戦争は、僕らから相互理解と歴史を奪い去り、平穏な生活を根こそぎ奪い取った。自分の利用している言語が次の瞬間には全く別のものに移り変わり、隣の人間とまともに意思疎通をすることも困難な社会は、集団にならないと生きることができない僕ら人間にとって脅威でしかなかった。

 このような事を述べると、必ず疑問を呈する回顧主義者がいる。彼らは決まってこういうのだ「人間は言語を操る生き物であり、人間がいなければ言語は存在しえないのに、どうして言語は人間に侵略をしかけるのか。歴史的経緯に鑑みれば、言語は人間に依存するはずであり、対言語戦争などというものは幻想にすぎない」と。

 しかし、自動言語生成プログラムの世界的な感染拡大は言語を人間から切り離してしまった。絶えず生まれ続ける新たな侵略言語たちは、人知れず各地で自動発生・淘汰されている自動生成プログラムの核にまとわりつき、核同士が構成しているネットワークを通じて世界中を飛び回り、隙あらば新たな有力言語としての地位を獲得しようと日夜侵略戦争を繰り広げている。もはや、人間に従属する存在ではないのが、現在における言語である。

<覚えてたら続ける>

たぶん、円城塔さんの本を読んだときの印象が残っていたんだと思う。こんな感じ(?)の話があったような……あったかなぁ。
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若草八雲
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非公開
誕生日:
1986/09/15
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色んなところで見かける人もいるかもしれませんがあまり気にせず。
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