作成した小説を保管・公開しているブログです。
現在は連作短編が二篇の他,短編小説,エッセイの類を掲載しています。
連作小説の更新ペースは随時。二か月に三回を最低ラインとして目指しています。
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2025.01.22 Wednesday
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薄闇は隣で嗤う1
2013.07.29 Monday
黒猫堂怪奇絵巻1 煙々羅
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家
―――――――
黒猫堂怪奇絵巻4.5 薄闇は隣で嗤う
1
怪談は市井の人々にとっての娯楽である。
季節の移り変わりや,場所の移り変わりとともに怪談は発生し,語られ,そして消費されていく。
もっとも,怪談が娯楽として昇華する以前において,怪談とは体験である。未知なるもの,異なるものと遭遇することで生まれる,日常から外れた体験。それが怪談の原型だ。
純粋に創作された物も多いだろう。しかし,私は創作物も体験だと考えている。現実に遭遇したわけではないが,創作者たちは自らの頭の中で怪談という非日常を体験しているのだ。
そして,私がここに集めようとした“怪談”とは,娯楽としてのそれではなく,体験としての怪談である。
――西原当麻「現代怪奇譚蒐集」
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家
―――――――
黒猫堂怪奇絵巻4.5 薄闇は隣で嗤う
1
怪談は市井の人々にとっての娯楽である。
季節の移り変わりや,場所の移り変わりとともに怪談は発生し,語られ,そして消費されていく。
もっとも,怪談が娯楽として昇華する以前において,怪談とは体験である。未知なるもの,異なるものと遭遇することで生まれる,日常から外れた体験。それが怪談の原型だ。
純粋に創作された物も多いだろう。しかし,私は創作物も体験だと考えている。現実に遭遇したわけではないが,創作者たちは自らの頭の中で怪談という非日常を体験しているのだ。
そして,私がここに集めようとした“怪談”とは,娯楽としてのそれではなく,体験としての怪談である。
――西原当麻「現代怪奇譚蒐集」
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迷い家8(了)
2013.07.22 Monday
黒猫堂怪奇絵巻1 煙々羅
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家1
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家2
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家3
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家4
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家5
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家6
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家7
(前回までのあらすじ)
巻目市風見山地区で広がっていた子どもの短期失踪と短期記憶喪失。変異性災害対策係に協力する祓い師,秋山恭輔が風見山地区で姿を消したことを契機に,記憶喪失の子どもたちは,シバタミキトなる人物の奇妙な体験談を語るようになる。
秋山恭輔の行方を追うと共に,風見山地区の怪奇現象の正体を追う,変異性災害対策係の職員,夜宮沙耶とその仲間たちは,調査の末に今回の事件が風見山の住人にだけ伝わる忌み地,“後ろ髪”の祠を中心に発生している可能性に辿りつく。
他方,人為的な変異性災害の発生を目論む者の存在を嗅ぎつけた,対策係の係長火群たまきは独自の調査を開始,人為的な変異性災害に関わる人物の一人,迎田涼子の存在に行きつく。火群は調査の末,迎田涼子と相対するが,彼女の仕掛けた異界,“迷い家”に足止めをされてしまう。
火群たまきが迎田涼子を追って現実に帰還し,夜宮沙耶と片岡長正が後ろ髪の祠へと辿りつこうとする同時期,秋山恭輔は,怪異“迷い家”の中でその宿主である柴田幹人から“迷い家”を祓い,その宿主と共に現実へと帰還するところであった。
現実に帰還した秋山恭輔を待っていたのは,対策係の面々ではなく,ウサギの被りものを被った謎の人物の奇襲だった。謎の人物は,迷い家の宿主であった柴田幹人を再び怪異憑きにしようと行動に出る。これを防ぐために秋山恭輔は身を呈して柴田幹人を守ろうとしたが……
黒猫堂怪奇絵巻4 “迷い家”は今回で完結です。
次回の黒猫堂怪奇絵巻は,黒猫堂怪奇絵巻4.5 薄闇は隣で嗤う の予定です。
次回は本編とは異なるインターバル的な位置づけとなり,迷い家の背後で動いていた迎田涼子達の活動と,迷い家の後日談が語られる内容になる予定です。
それでは,黒猫堂怪奇絵巻迷い家8の始まりです。
―――――――
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家1
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家2
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家3
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家4
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家5
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家6
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家7
(前回までのあらすじ)
巻目市風見山地区で広がっていた子どもの短期失踪と短期記憶喪失。変異性災害対策係に協力する祓い師,秋山恭輔が風見山地区で姿を消したことを契機に,記憶喪失の子どもたちは,シバタミキトなる人物の奇妙な体験談を語るようになる。
秋山恭輔の行方を追うと共に,風見山地区の怪奇現象の正体を追う,変異性災害対策係の職員,夜宮沙耶とその仲間たちは,調査の末に今回の事件が風見山の住人にだけ伝わる忌み地,“後ろ髪”の祠を中心に発生している可能性に辿りつく。
他方,人為的な変異性災害の発生を目論む者の存在を嗅ぎつけた,対策係の係長火群たまきは独自の調査を開始,人為的な変異性災害に関わる人物の一人,迎田涼子の存在に行きつく。火群は調査の末,迎田涼子と相対するが,彼女の仕掛けた異界,“迷い家”に足止めをされてしまう。
火群たまきが迎田涼子を追って現実に帰還し,夜宮沙耶と片岡長正が後ろ髪の祠へと辿りつこうとする同時期,秋山恭輔は,怪異“迷い家”の中でその宿主である柴田幹人から“迷い家”を祓い,その宿主と共に現実へと帰還するところであった。
現実に帰還した秋山恭輔を待っていたのは,対策係の面々ではなく,ウサギの被りものを被った謎の人物の奇襲だった。謎の人物は,迷い家の宿主であった柴田幹人を再び怪異憑きにしようと行動に出る。これを防ぐために秋山恭輔は身を呈して柴田幹人を守ろうとしたが……
黒猫堂怪奇絵巻4 “迷い家”は今回で完結です。
次回の黒猫堂怪奇絵巻は,黒猫堂怪奇絵巻4.5 薄闇は隣で嗤う の予定です。
次回は本編とは異なるインターバル的な位置づけとなり,迷い家の背後で動いていた迎田涼子達の活動と,迷い家の後日談が語られる内容になる予定です。
それでは,黒猫堂怪奇絵巻迷い家8の始まりです。
―――――――
迷い家7
2013.07.18 Thursday
黒猫堂怪奇絵巻1 煙々羅
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家1
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家2
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家3
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家4
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家5
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家6
―――――――
11
【6月10日 夜】
夜宮沙耶は風見山を駆けていた。
「ええ。そうです。おそらく、そこに秋山君が入りこんだ異界があるはずです」
ヘッドセットは、比良坂民俗学研究所の研究室と通信を繋げている。研究室では岸則之がこちらの現在地をモニターしているはずだ。
「だが、例の子どもの言うとおりなら、その異界には道順を踏まないと辿りつけない。君は道を知っているのか」
「私に案があります」
風見山地区の古い住宅街を抜け、七鳴神社への参道に続く分かれ道が目に入る。七鳴神社へ向かう道とは反対側、山の斜面に沿って作られた石段こそが、夜宮の目的地だ。
分かれ道では、夜宮の姿を見かけたのか、大柄の男が手を振っていた。片岡長正。七鳴神社の神主であり、変異性災害対策係の一員、そして強制的に異界を開く術を持つ祓い師だ。篠山斎場での事件、あの時、彼は接点なしに異界を開く技術を見せた。今回も異界の入口さえわかれば、彼の力を借りて干渉できるはずだ。
「長正さん、こんな遅くにありがとうございます」
息を切らせながら、夜宮は長正に頭を下げた。
「気になさらないでください。夜宮さんの話を聞いて、目があると思ったのは私ですから。それより、急ぎましょう。どうも厭な予感がします」
「厭な予感?」
「ええ。山全体に何処か不安定な霊気が漂っているように思うのです。秋山さんが入りこんだ異界に何か変化があったのかもしれません」
そう答える長正の視線は、彼の頭上、七鳴神社の方へと向けられている。
もしや、夏樹の身にも異変が起きたのか。夜宮の胸中に不安がよぎった。それを察したのか、長正が夜宮の肩に手をかけて首を横に振った。
「大丈夫です。それより、今は件の異界を探しましょう」
「はい」
目指すのは石段の先、“後ろ髪”、あるいは“くろくろ様”と呼ばれる祠だ。
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家1
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家2
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家3
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家4
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家5
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家6
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11
【6月10日 夜】
夜宮沙耶は風見山を駆けていた。
「ええ。そうです。おそらく、そこに秋山君が入りこんだ異界があるはずです」
ヘッドセットは、比良坂民俗学研究所の研究室と通信を繋げている。研究室では岸則之がこちらの現在地をモニターしているはずだ。
「だが、例の子どもの言うとおりなら、その異界には道順を踏まないと辿りつけない。君は道を知っているのか」
「私に案があります」
風見山地区の古い住宅街を抜け、七鳴神社への参道に続く分かれ道が目に入る。七鳴神社へ向かう道とは反対側、山の斜面に沿って作られた石段こそが、夜宮の目的地だ。
分かれ道では、夜宮の姿を見かけたのか、大柄の男が手を振っていた。片岡長正。七鳴神社の神主であり、変異性災害対策係の一員、そして強制的に異界を開く術を持つ祓い師だ。篠山斎場での事件、あの時、彼は接点なしに異界を開く技術を見せた。今回も異界の入口さえわかれば、彼の力を借りて干渉できるはずだ。
「長正さん、こんな遅くにありがとうございます」
息を切らせながら、夜宮は長正に頭を下げた。
「気になさらないでください。夜宮さんの話を聞いて、目があると思ったのは私ですから。それより、急ぎましょう。どうも厭な予感がします」
「厭な予感?」
「ええ。山全体に何処か不安定な霊気が漂っているように思うのです。秋山さんが入りこんだ異界に何か変化があったのかもしれません」
そう答える長正の視線は、彼の頭上、七鳴神社の方へと向けられている。
もしや、夏樹の身にも異変が起きたのか。夜宮の胸中に不安がよぎった。それを察したのか、長正が夜宮の肩に手をかけて首を横に振った。
「大丈夫です。それより、今は件の異界を探しましょう」
「はい」
目指すのは石段の先、“後ろ髪”、あるいは“くろくろ様”と呼ばれる祠だ。
迷い家6
2013.07.18 Thursday
黒猫堂怪奇絵巻1 煙々羅
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家1
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家2
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家3
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家4
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家5
―――――――
10
【6月9日】
夜宮は、巻目市役所環境管理部第四課変異性災害対策係の応接室にて、一人の少年と向き合っていた。
真柴翔。彼は、夜宮が今回の事件の調査に入った際に、七鳴神社の場所を教えてくれた少年だ。夜宮はその時に彼が言っていた“くろくろ様”という言葉が気になった。
“くろくろ様”という言葉を再び聞いたのは秋山を探して風見山地区で聞きこみを続けていた時だ。どうも尋ねてみると風見山地区の子どもの中で流行っている遊びらしいが、何故“くろくろ様”という名前なのかは誰に聞いてもわからない。夜宮が尋ねたなかで手掛かりを持っていそうなのは、“くろくろ様”を場所と関連付けて話していた、真柴翔だけだった。
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家1
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家2
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家3
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家4
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家5
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10
【6月9日】
夜宮は、巻目市役所環境管理部第四課変異性災害対策係の応接室にて、一人の少年と向き合っていた。
真柴翔。彼は、夜宮が今回の事件の調査に入った際に、七鳴神社の場所を教えてくれた少年だ。夜宮はその時に彼が言っていた“くろくろ様”という言葉が気になった。
“くろくろ様”という言葉を再び聞いたのは秋山を探して風見山地区で聞きこみを続けていた時だ。どうも尋ねてみると風見山地区の子どもの中で流行っている遊びらしいが、何故“くろくろ様”という名前なのかは誰に聞いてもわからない。夜宮が尋ねたなかで手掛かりを持っていそうなのは、“くろくろ様”を場所と関連付けて話していた、真柴翔だけだった。
迷い家5
2013.07.15 Monday
黒猫堂怪奇絵巻1 煙々羅
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家1
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家2
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家3
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家4
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9
小国の三浦某と云ふは村一の金持なり。今より二三代目の主人、まだ家は貧しくして、妻は少しく魯鈍なりき。
この妻ある日門の前を流るゝ小さき川に沿ひて蕗を採りに入りしに、よき物少なければ次第に谷奥深く登りたり。
さてふと見れば立派なる黒き門の家あり。
訝しけれど門の中に入りて見るに、大なる庭にて紅白の花一面に咲き鷄多く遊べり。其庭を裏の方へ廻れば、牛小屋ありて牛多く居り、馬舎ありて馬多く居れども、一向に人は居らず。終に玄関より上がりたるに、その次の間には朱と黒との膳椀あまた取出したり。奥の坐敷には火鉢ありて鉄瓶の湯のたぎれるを見たり。
されども終に人影は無ければ、もしや山男の家では無いかと急に恐ろしくなり、駆け出して家に帰りたり。
柳田國男『遠野物語』より
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黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家1
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家2
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家3
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家4
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9
小国の三浦某と云ふは村一の金持なり。今より二三代目の主人、まだ家は貧しくして、妻は少しく魯鈍なりき。
この妻ある日門の前を流るゝ小さき川に沿ひて蕗を採りに入りしに、よき物少なければ次第に谷奥深く登りたり。
さてふと見れば立派なる黒き門の家あり。
訝しけれど門の中に入りて見るに、大なる庭にて紅白の花一面に咲き鷄多く遊べり。其庭を裏の方へ廻れば、牛小屋ありて牛多く居り、馬舎ありて馬多く居れども、一向に人は居らず。終に玄関より上がりたるに、その次の間には朱と黒との膳椀あまた取出したり。奥の坐敷には火鉢ありて鉄瓶の湯のたぎれるを見たり。
されども終に人影は無ければ、もしや山男の家では無いかと急に恐ろしくなり、駆け出して家に帰りたり。
柳田國男『遠野物語』より
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