作成した小説を保管・公開しているブログです。
現在は連作短編が二篇の他,短編小説,エッセイの類を掲載しています。
連作小説の更新ペースは随時。二か月に三回を最低ラインとして目指しています。
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薄闇は隣で嗤う3(了)
2013.07.29 Monday
黒猫堂怪奇絵巻1 煙々羅
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家
黒猫堂怪奇絵巻4.5 薄闇は隣で嗤う1
黒猫堂怪奇絵巻4.5 薄闇は隣で嗤う2
―――――――
5
薄闇は常に光を窺っている。光の届かなくなるその境界線に潜み,気がつかれないように少しずつ,しかし着実に光を浸食する。
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家
黒猫堂怪奇絵巻4.5 薄闇は隣で嗤う1
黒猫堂怪奇絵巻4.5 薄闇は隣で嗤う2
―――――――
5
薄闇は常に光を窺っている。光の届かなくなるその境界線に潜み,気がつかれないように少しずつ,しかし着実に光を浸食する。
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薄闇は隣で嗤う2
2013.07.29 Monday
黒猫堂怪奇絵巻1 煙々羅
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家
黒猫堂怪奇絵巻4.5 薄闇は隣で嗤う
―――――――
3
これは,あくまで僕が他人から聞いた話に過ぎないし,今話しても後の祭りなのかもしれない。けれども,ここにこうしてお姉さんが現れた以上,話さなければならないね。
僕自身も,こうして君と話を出来ているし,多少の“霊感”がある。だから,人には見えないモノを見ることはできる。
だから,西原当麻の本がウチに入ってきたときに,この本はもしかすると呪物の類かもしれない。そう思ったんだ。けれども,呪物は普通,そこにこめられた念を発するのに,西原当麻の本は他人の念を吸いこんでいく,そんな気配がしていて,呪物とは言いきれなかった。
そんなこんなで僕なりに調べてみたけれど,西原当麻は巻目市に暮らしていた怪談作家だったというくらいしかわからなくてね。その後,ウチにくる常連さんのなかに,何人かあの本に興味を持った人がいて,それで,お姉さんに渡したあの招待状を置いていってくれって頼まれていたんだ。
僕があの本が本物かもしれないという話を聞いたのは,君にあの本を売った後だ。
ウチの本を時折物色しにくる骨董品屋の店主がいてね。彼にふと西原当麻の著作の話をしてみたんだ。そうしたら,急に目の色が変わって,もしその本をまた手に入れたら見せて欲しい,あの本は本物の呪物の可能性があるって言われてさ。
それで,ずっと不安になっていたんだ。君があの本に触れたことで何かに巻き込まれるんじゃないかって。
まさか,こんな形で不安が的中するとは思わなかったよ。
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家
黒猫堂怪奇絵巻4.5 薄闇は隣で嗤う
―――――――
3
これは,あくまで僕が他人から聞いた話に過ぎないし,今話しても後の祭りなのかもしれない。けれども,ここにこうしてお姉さんが現れた以上,話さなければならないね。
僕自身も,こうして君と話を出来ているし,多少の“霊感”がある。だから,人には見えないモノを見ることはできる。
だから,西原当麻の本がウチに入ってきたときに,この本はもしかすると呪物の類かもしれない。そう思ったんだ。けれども,呪物は普通,そこにこめられた念を発するのに,西原当麻の本は他人の念を吸いこんでいく,そんな気配がしていて,呪物とは言いきれなかった。
そんなこんなで僕なりに調べてみたけれど,西原当麻は巻目市に暮らしていた怪談作家だったというくらいしかわからなくてね。その後,ウチにくる常連さんのなかに,何人かあの本に興味を持った人がいて,それで,お姉さんに渡したあの招待状を置いていってくれって頼まれていたんだ。
僕があの本が本物かもしれないという話を聞いたのは,君にあの本を売った後だ。
ウチの本を時折物色しにくる骨董品屋の店主がいてね。彼にふと西原当麻の著作の話をしてみたんだ。そうしたら,急に目の色が変わって,もしその本をまた手に入れたら見せて欲しい,あの本は本物の呪物の可能性があるって言われてさ。
それで,ずっと不安になっていたんだ。君があの本に触れたことで何かに巻き込まれるんじゃないかって。
まさか,こんな形で不安が的中するとは思わなかったよ。
薄闇は隣で嗤う1
2013.07.29 Monday
黒猫堂怪奇絵巻1 煙々羅
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家
―――――――
黒猫堂怪奇絵巻4.5 薄闇は隣で嗤う
1
怪談は市井の人々にとっての娯楽である。
季節の移り変わりや,場所の移り変わりとともに怪談は発生し,語られ,そして消費されていく。
もっとも,怪談が娯楽として昇華する以前において,怪談とは体験である。未知なるもの,異なるものと遭遇することで生まれる,日常から外れた体験。それが怪談の原型だ。
純粋に創作された物も多いだろう。しかし,私は創作物も体験だと考えている。現実に遭遇したわけではないが,創作者たちは自らの頭の中で怪談という非日常を体験しているのだ。
そして,私がここに集めようとした“怪談”とは,娯楽としてのそれではなく,体験としての怪談である。
――西原当麻「現代怪奇譚蒐集」
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家
―――――――
黒猫堂怪奇絵巻4.5 薄闇は隣で嗤う
1
怪談は市井の人々にとっての娯楽である。
季節の移り変わりや,場所の移り変わりとともに怪談は発生し,語られ,そして消費されていく。
もっとも,怪談が娯楽として昇華する以前において,怪談とは体験である。未知なるもの,異なるものと遭遇することで生まれる,日常から外れた体験。それが怪談の原型だ。
純粋に創作された物も多いだろう。しかし,私は創作物も体験だと考えている。現実に遭遇したわけではないが,創作者たちは自らの頭の中で怪談という非日常を体験しているのだ。
そして,私がここに集めようとした“怪談”とは,娯楽としてのそれではなく,体験としての怪談である。
――西原当麻「現代怪奇譚蒐集」
迷い家8(了)
2013.07.22 Monday
黒猫堂怪奇絵巻1 煙々羅
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家1
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家2
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家3
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家4
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家5
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家6
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家7
(前回までのあらすじ)
巻目市風見山地区で広がっていた子どもの短期失踪と短期記憶喪失。変異性災害対策係に協力する祓い師,秋山恭輔が風見山地区で姿を消したことを契機に,記憶喪失の子どもたちは,シバタミキトなる人物の奇妙な体験談を語るようになる。
秋山恭輔の行方を追うと共に,風見山地区の怪奇現象の正体を追う,変異性災害対策係の職員,夜宮沙耶とその仲間たちは,調査の末に今回の事件が風見山の住人にだけ伝わる忌み地,“後ろ髪”の祠を中心に発生している可能性に辿りつく。
他方,人為的な変異性災害の発生を目論む者の存在を嗅ぎつけた,対策係の係長火群たまきは独自の調査を開始,人為的な変異性災害に関わる人物の一人,迎田涼子の存在に行きつく。火群は調査の末,迎田涼子と相対するが,彼女の仕掛けた異界,“迷い家”に足止めをされてしまう。
火群たまきが迎田涼子を追って現実に帰還し,夜宮沙耶と片岡長正が後ろ髪の祠へと辿りつこうとする同時期,秋山恭輔は,怪異“迷い家”の中でその宿主である柴田幹人から“迷い家”を祓い,その宿主と共に現実へと帰還するところであった。
現実に帰還した秋山恭輔を待っていたのは,対策係の面々ではなく,ウサギの被りものを被った謎の人物の奇襲だった。謎の人物は,迷い家の宿主であった柴田幹人を再び怪異憑きにしようと行動に出る。これを防ぐために秋山恭輔は身を呈して柴田幹人を守ろうとしたが……
黒猫堂怪奇絵巻4 “迷い家”は今回で完結です。
次回の黒猫堂怪奇絵巻は,黒猫堂怪奇絵巻4.5 薄闇は隣で嗤う の予定です。
次回は本編とは異なるインターバル的な位置づけとなり,迷い家の背後で動いていた迎田涼子達の活動と,迷い家の後日談が語られる内容になる予定です。
それでは,黒猫堂怪奇絵巻迷い家8の始まりです。
―――――――
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家1
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家2
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家3
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家4
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家5
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家6
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家7
(前回までのあらすじ)
巻目市風見山地区で広がっていた子どもの短期失踪と短期記憶喪失。変異性災害対策係に協力する祓い師,秋山恭輔が風見山地区で姿を消したことを契機に,記憶喪失の子どもたちは,シバタミキトなる人物の奇妙な体験談を語るようになる。
秋山恭輔の行方を追うと共に,風見山地区の怪奇現象の正体を追う,変異性災害対策係の職員,夜宮沙耶とその仲間たちは,調査の末に今回の事件が風見山の住人にだけ伝わる忌み地,“後ろ髪”の祠を中心に発生している可能性に辿りつく。
他方,人為的な変異性災害の発生を目論む者の存在を嗅ぎつけた,対策係の係長火群たまきは独自の調査を開始,人為的な変異性災害に関わる人物の一人,迎田涼子の存在に行きつく。火群は調査の末,迎田涼子と相対するが,彼女の仕掛けた異界,“迷い家”に足止めをされてしまう。
火群たまきが迎田涼子を追って現実に帰還し,夜宮沙耶と片岡長正が後ろ髪の祠へと辿りつこうとする同時期,秋山恭輔は,怪異“迷い家”の中でその宿主である柴田幹人から“迷い家”を祓い,その宿主と共に現実へと帰還するところであった。
現実に帰還した秋山恭輔を待っていたのは,対策係の面々ではなく,ウサギの被りものを被った謎の人物の奇襲だった。謎の人物は,迷い家の宿主であった柴田幹人を再び怪異憑きにしようと行動に出る。これを防ぐために秋山恭輔は身を呈して柴田幹人を守ろうとしたが……
黒猫堂怪奇絵巻4 “迷い家”は今回で完結です。
次回の黒猫堂怪奇絵巻は,黒猫堂怪奇絵巻4.5 薄闇は隣で嗤う の予定です。
次回は本編とは異なるインターバル的な位置づけとなり,迷い家の背後で動いていた迎田涼子達の活動と,迷い家の後日談が語られる内容になる予定です。
それでは,黒猫堂怪奇絵巻迷い家8の始まりです。
―――――――
迷い家7
2013.07.18 Thursday
黒猫堂怪奇絵巻1 煙々羅
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家1
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家2
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家3
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家4
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家5
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家6
―――――――
11
【6月10日 夜】
夜宮沙耶は風見山を駆けていた。
「ええ。そうです。おそらく、そこに秋山君が入りこんだ異界があるはずです」
ヘッドセットは、比良坂民俗学研究所の研究室と通信を繋げている。研究室では岸則之がこちらの現在地をモニターしているはずだ。
「だが、例の子どもの言うとおりなら、その異界には道順を踏まないと辿りつけない。君は道を知っているのか」
「私に案があります」
風見山地区の古い住宅街を抜け、七鳴神社への参道に続く分かれ道が目に入る。七鳴神社へ向かう道とは反対側、山の斜面に沿って作られた石段こそが、夜宮の目的地だ。
分かれ道では、夜宮の姿を見かけたのか、大柄の男が手を振っていた。片岡長正。七鳴神社の神主であり、変異性災害対策係の一員、そして強制的に異界を開く術を持つ祓い師だ。篠山斎場での事件、あの時、彼は接点なしに異界を開く技術を見せた。今回も異界の入口さえわかれば、彼の力を借りて干渉できるはずだ。
「長正さん、こんな遅くにありがとうございます」
息を切らせながら、夜宮は長正に頭を下げた。
「気になさらないでください。夜宮さんの話を聞いて、目があると思ったのは私ですから。それより、急ぎましょう。どうも厭な予感がします」
「厭な予感?」
「ええ。山全体に何処か不安定な霊気が漂っているように思うのです。秋山さんが入りこんだ異界に何か変化があったのかもしれません」
そう答える長正の視線は、彼の頭上、七鳴神社の方へと向けられている。
もしや、夏樹の身にも異変が起きたのか。夜宮の胸中に不安がよぎった。それを察したのか、長正が夜宮の肩に手をかけて首を横に振った。
「大丈夫です。それより、今は件の異界を探しましょう」
「はい」
目指すのは石段の先、“後ろ髪”、あるいは“くろくろ様”と呼ばれる祠だ。
黒猫堂怪奇絵巻2 虎の衣を駆る
黒猫堂怪奇絵巻3 とおりゃんせ
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家1
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家2
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家3
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家4
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家5
黒猫堂怪奇絵巻4 迷い家6
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11
【6月10日 夜】
夜宮沙耶は風見山を駆けていた。
「ええ。そうです。おそらく、そこに秋山君が入りこんだ異界があるはずです」
ヘッドセットは、比良坂民俗学研究所の研究室と通信を繋げている。研究室では岸則之がこちらの現在地をモニターしているはずだ。
「だが、例の子どもの言うとおりなら、その異界には道順を踏まないと辿りつけない。君は道を知っているのか」
「私に案があります」
風見山地区の古い住宅街を抜け、七鳴神社への参道に続く分かれ道が目に入る。七鳴神社へ向かう道とは反対側、山の斜面に沿って作られた石段こそが、夜宮の目的地だ。
分かれ道では、夜宮の姿を見かけたのか、大柄の男が手を振っていた。片岡長正。七鳴神社の神主であり、変異性災害対策係の一員、そして強制的に異界を開く術を持つ祓い師だ。篠山斎場での事件、あの時、彼は接点なしに異界を開く技術を見せた。今回も異界の入口さえわかれば、彼の力を借りて干渉できるはずだ。
「長正さん、こんな遅くにありがとうございます」
息を切らせながら、夜宮は長正に頭を下げた。
「気になさらないでください。夜宮さんの話を聞いて、目があると思ったのは私ですから。それより、急ぎましょう。どうも厭な予感がします」
「厭な予感?」
「ええ。山全体に何処か不安定な霊気が漂っているように思うのです。秋山さんが入りこんだ異界に何か変化があったのかもしれません」
そう答える長正の視線は、彼の頭上、七鳴神社の方へと向けられている。
もしや、夏樹の身にも異変が起きたのか。夜宮の胸中に不安がよぎった。それを察したのか、長正が夜宮の肩に手をかけて首を横に振った。
「大丈夫です。それより、今は件の異界を探しましょう」
「はい」
目指すのは石段の先、“後ろ髪”、あるいは“くろくろ様”と呼ばれる祠だ。